第15話 未来の花嫁よ、エルフ王国へようこそ!
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――学園が夏季休暇に入った。
ダリアが到着して案内された部屋に、俺は魔道具を使い、それを屋敷の壁に貼る。
移動用魔道具で、魔法の鏡に模した魔法陣となっているのだ。
「この魔法陣の中心にある黒い部分、ここがエルフ王国と繋がっている」
「不思議ですわね……。この国にはない魔道具です」
「エルフ王の血を引くものしか作れない魔道具だ。そうそう見られるアイテムではないのは確かだな」
二カッと笑い告げると、「エルフ王の血を引くものしか作れない希少なアイテムなんですね……」とマジマジと魔道具を見つめて感心するダリア。
リオンは既に移動のための用意を済ませており、後はくぐって帰るだけだ。
「あちらにつけば、まず祖父であるエルフ王との面会になると思うが、呼び出されるまでは部屋で過ごそう。過ごしやすい気候の国だから、この国の暑さからは逃れられるぞ」
「確かにこの国は暑いですよね。元の世界と比べたらいくらかマシくらいでしょうか」
「ははは、言えてる。では……お手をどうぞ」
そう告げると彼女の手を取り、俺は魔法陣の中へと入っていく。
「ダリア、怯えずおいで」と告げれば、彼女は目を閉じて飛び込んで来た。
その身体を抱きとめると、中は他国に行く用の部屋になっている。
俺の使っていた家は、元々名を伏せているが、エルフ王の過ごすタウンハウスのようなものだ。
そこから過ごし慣れたエルフ王国に戻れば、たくさんの精霊たちが楽しく過ごす楽園のような場所――エルフ王国。
空を飛び交う精霊に驚くダリアを横に、俺は耳からイヤリング式の魔道具を取ると、尖ったエルフの耳が現れる。
「……本当にエルフなのね」
「そうだぜ? 俺はエルフ王のたったひとりの孫、悪役王子のアルカだ」
そう挨拶してダリアの手にキスを落とす。
瞬間、彼女の顔が真っ赤に染まったが、これくらいは許してもらわないとな?
そして最後に戻ってきたリオンに指示を飛ばす。
「戻ってきたことだし、部屋にいるから爺に将来の嫁を連れて帰ってきたと伝えてきてくれ」
「爺などと……全く。かしこまりました」
「ははは、悪いな」
「エルフ王を爺呼ばわりできるのはアルカ様くらいだと思うわ……」
「あははは! そうかもしれねぇな!」
呆れた様子で語る彼女を連れて廊下を歩いていくと、城で働く者たちが笑顔で頭を下げつつ、「お帰りなさいませ、アルカ王太子様」と挨拶してくれる。
そのたびに「仕事ご苦労。ただいま」と伝えていると――。
「あの人とは大違いね。あの人が廊下を歩くだけで、周囲がピリピリしていたわ」
「廊下がピリピリするってスゲェな。俺とアイツは真逆だろうよ」
「それもそうね。一緒にするほうが失礼だったわ。許してくれる?」
「もちろん。愛しいダリア嬢に言われたら許してしまうのが俺の愛という奴だ」
「も、もう! ……でも、ありがとう」
顔を赤くしてプイッと横を向いてしまうダリアが可愛くて、つい本音を漏らしたが、それは許してほしいところだな。
自室に到着するとドアを開けて中に彼女を招き入れる。
素直に入ってきたダリアに対し、俺はニッコリと微笑む。彼女は首を傾げていたが――。
「エルフ族は、メイドを除いて女性だと、未来の伴侶しか部屋に入れないんだ」
笑顔でそう伝えると、顔を真っ赤にする彼女が愛おしい。
「そう思ってくださるのは嬉しいですが」と真っ赤になって答える彼女に、「迷惑?」と長い髪を一房もって聞く俺。
けれど、「……まだ婚約破棄してませんわ」と落ち込むダリアを、俺は抱きしめた。
「近いうちにするさ。話を聞くだけの頭の足りない王太子を抜きにな」
「そう……ですね。私も早く貴方だけの私になりたい」
「ああ。俺だけの君に……。さて、今日一日はゆっくり過ごして、明日からいろいろな場所を見に行こう。エルフ王国を自由に歩けるなんて、俺の伴侶くらいしかいないじゃないかなと思うんだが?」
「嬉しいですわ!」
お互い笑顔で会話をしつつ、メイドがお茶を入れに来てくれて、お茶を飲みながら過ごしていると、リオンが部屋に入ってきた。
そして「エルフ王がお待ちです」と伝えてきたため、ようやくお呼ばれしたかと立ち上がる。
俺とダリアは城の廊下を歩き、王の間へ到着すると重厚なドアが開き、中へ入ると――立派な白いヒゲと、俺と同じ金の瞳をした祖父と久々に出会う。
「王太子アルカ、ただいま戻りました」
「うむ、よくぞ戻った」
「そして、こちらが次期王妃にと切に望んでいる女性。ダリア・ハーネットです」
そう紹介すると、祖父は少々呆れつつも――。
「お前も人間の娘を嫁にもらうか……血は争えんな」
そう言って苦笑いした。
実は俺の父もまた、母が人間なのだ。
しかも、かなり特殊な部類だ。
「いい伴侶は自分の足で探さねーとな!」
「そう言ってお前の父が探したのは、女海賊だったがな」
「ははは、父は特殊だと思うぜ?」
「お、お、女海賊⁉」
「なんでも、どこぞの物語みたいに海で溺れていたのを助けてもらったのがきっかけらしい。どんな出会いだよって思うよな」
「だが、アルカはそれでも人間の令嬢を選んできた。まぁ、一部では悪役令嬢等と呼ばれているようだが」
そこまで知っているとは流石爺だぜ。
そう思いつつ笑顔で頷くと、ダリアは急ぎ頭を下げたが、祖父は気にしなかった。
「アルカが本気になった娘、ダリアよ」
「はい」
「そなた、本気で婚約破棄して、このアルカと婚姻を結びたいと願うか?」
威厳ある声を出す祖父。
エルフの王族のみが使える威圧を掛ける祖父に少しイラッとはしたものの、ダリアは腹に力を入れて声を上げた。
「是非、婚約破棄して、愛しいアルカ様の元に嫁ぎたく思います!」
「ほほう……その気概気に入った! 我が威圧を前にしても跳ね除けるか……。アルカよ、実に良い娘と知り合ったな」
「だろ? でも、突然の威圧は許せねーな?」
「すまんな。これも恒例儀式じゃ。許せ」
「はい」
「全く……」
「お前の母は、威圧した途端ナイフを投げてきたがな?」
「っ⁉」
「まぁ、俺の母ちゃんだからな」
「はははは! それと比べると、実に礼儀正しい妻を選んだようだ。ワシは息子の選んだ嫁も、孫の選んだ嫁も、最高の嫁だと胸を張って言えそうだ」
そう言って長いヒゲを撫でながら嬉しそうにしている祖父。
「人間の縁は、エルフにとっては尊いものだと思っている」と語る祖父だが、エルフだからといって、所謂長寿なエルフ……という世界ではないのだ。
同じエルフであっても、人間と同じように年を取っていく。
それが、この「プリティ・マリーの憂鬱」の世界でもあった。
まぁ、それでも人間よりは長寿な設定ではあるが。
「後は、人間国の王太子との婚約破棄が残っているわけだな?」
「ああ、王太子がなかなか婚約を破棄しねぇ。堂々と浮気してるってのにな」
「ほほう。そんなのが次の王とは認められんな」
「だよな」
「よかろう。ワシからもリガードは次の王とは認めぬと伝えよう。そして、速やかなる婚約破棄をと王に伝えておいてやる」
「ありがとうな!」
「ありがとうございます!」
父の時に色々母が暴れて祖父を痛めつけたこともあり、人間の娘を連れてきたことに祖父はどう思うか少し未知数だったが、笑って迎え入れる。
「……血は争えんものだな」と、むしろ楽しげに。
ダリアも少し肩の力を抜いて笑みを浮かべている。
だが、彼女の婚約はまだ破棄されてはいない。
エルフ王国が温かく迎えてくれても、人間の国で待つ現実はまだまだ過酷だ。
だが、それももうじき終わるだろう。
エルフ王の権限とはそれだけ強い。
リガードがどれだけ暴れようとも、エルフ王の前では初級魔法より簡単なことだ。
「休みの間、しっかり楽しむといい。エルフ王国はダリアを歓迎しよう」
「ありがとうございます!」
――こうして、ダリアのエルフ王国滞在が決まったのであった。
しかしその頃、人間王国ではリガードの傍若無人な態度が、さらなる火種を生もうとしていた……。




