第14話 例えこの世界でも、俺達は愛するものを間違えない
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夏季休暇が始まる前に、俺は公爵家に、ダリアと故郷で過ごす許しを貰いに向かった。挨拶が遅れたことを公爵に謝罪していると――。
「貴方様のお陰でダリアがとても助かっているのは知っております。尊き御身でありながら、我が自国の王太子とは随分と違う」
そう言ってため息を吐く公爵。
俺も知っているが、昔からダリアを物のように扱う王太子に、公爵は苦言を続けてきたらしいが、最早我慢の限界に来たらしい。
その為、王家に「婚約を白紙に戻してほしい」と正式書面を送ったことを口にし、ダリアが驚いていた。
無論、それを汲まない俺ではない。
「では、円満に戻った暁には、俺と婚約をしても?」
「無論です。貴方ならダリアを心から愛してくださるでしょう」
そう言われ俺は笑顔で強く頷き、ダリアは顔を真赤にしていた。
ところがだ。
「しかし、王太子が白紙をしないようで……長引いている」と語った公爵にダリアの顔は曇ったが、俺は顔色を変えることはなかった。
「あくまでもダリア有責で白紙にしたいのだろう」
「そうでしょうな……。全く姑息な真似を」
「それならそれで、やりようはいくらでもあるんだがな」
「と、申されますと?」
「我が祖国から圧力をかければ良い。ただそれだけです」
そうすれば問題なくダリアと婚姻出来るだろうが、それでも公爵はリガードの姑息な真似を知っているがゆえに、再度俺に質問を投げかけてきた。
それは――。
「傷がもしついても、アルカ様はダリアを?」
「傷? 婚約破棄が傷だと言うのなら、かすり傷にもならないな」
「おお……寛大な御心、感謝致します」
「もしダリア有責だと言うのなら、こちらも祖父に相談して動きますのでご安心を。我が祖父にも相談して、圧力を掛けて貰っておきましょう」
そう笑顔で語ると、公爵はどこかホッとした様子で……そして俺とダリアがお互いを見つめ合い微笑み合う姿を嬉しそうに見つめていた。
その後、今回の夏季休暇の間、ダリアを祖国に呼ぶにしても「特別親しい友人として」呼ぶことになることを謝罪すると、「こちらもまだ婚約破棄が済んでおりませんので、構いません」と笑顔での返答を貰った。
そのうえで――。
「夏季休暇――。特別親しい友人として、ぜひ我が領地へも」
「ええ、夏季休暇の半分は、是非公爵家の領地にも」
「今までリガード王太子を呼んでも来たことがないから、その王太子と違うアルカ様が来たら、皆驚くでしょうな」
「はははは。まさに、領民にも『王太子との婚約破棄は本当のようだ』と伝える訳ですね?」
「ええ、とてもいい布石になると思いませんか?」
その笑顔の奥には、戦場を前にした武人の光が宿っていた。
王家と真っ向勝負を仕掛ける、父親の姿にも見える。
本気でダリアの父君は、王家を許す気はないのだと改めて感じ取った。
「この夏は……きっと波乱になりそうだな」
「ええ、まさに波乱になるでしょう。ですが貴方様方は、こちらのことを気にせず、どうか娘ダリアを……よろしくお願い致します」
「国の威信をかけてでも、大事にすると約束しよう」
公爵の言葉に深々と頭を下げる俺に、公爵はポタリと涙を零した。
ここまで娘を大事に思ってくれる男性と、今になってダリアが巡り合った事が嬉しいのだと語る。
「この国にいる限りダリアは一生幸せになれない……」そう思って身体を壊したこともあったそうだ……。
ところが、俺の登場とダリアとの仲が発展したことや、リガード自身が馬鹿なお陰でどこぞの毒婦にやられたことで、やっとダリアが自由になれると思うと「今までのダリアの苦労が報われる」のだと語った。
「やっと、ああ……やっとダリアが幸せに……自由になれる」
「お父様……」
「不甲斐ないばかりに……。公爵家であるばかりに……娘に苦労を……」
「わたくし、お父様の子で良かったと思っておりますわ。だからそんなに泣かないでくださいませ」
「ダリア……っ」
「そうですよ。俺はこの先、ダリアをもっとも幸せにすると誓います。ダリアの前に立ち塞がるあの二名に関しては、剣の錆にしてもいいくらいだ」
「ああ……ああああ……っ」
「お父様っ!」
「ダリアを……ダリアを! どうぞよろしくお願い致します!」
そう涙を流して祈るように両手を組んで俺に願った公爵。
その姿に報いるべく、俺はダリアを大事にしながら前に進む。
問題となるあの二人ならば、今後どうとでも料理は出来るだろう。
――ダリアを大切にするためならば、遠慮はしないし容赦もしない。
「分かっております。ダリアの為にも……俺は俺に出来る最大限を」
「アルカ……」
「君を最も尊重して、最も愛するのは、俺しかいないと思うが?」
「そ、それはそうですけど……。恥ずかしいわ……」
「ははは!」
「でもお父様。見ての通りです。アルカ様はわたくしを大事にしてくださいます。最早、何も怖くないのです」
真っ直ぐ公爵を見て伝えたダリアに、公爵は頷いながらハンカチで目元を拭った。
「何があっても、アルカが守ってくださいますわ。恐らく彼らの目的はわたくしを断罪すること……。でも、そうなったとしてもわたくしを傷つける事は、最早出来ませんわ」
「ダリア……」
そうダリアが口にすると、優しく父親である公爵に微笑んだ。
それは、今まで見たダリアの中で最も美しく、家族愛に満ちた笑顔だった。
「わたくしはもう大丈夫……。わたくしを最も愛してくださる方を見つけたから」
――その言葉に公爵はハンカチで目元を覆い、ダリアはその父の背中を撫でていた。何よりも美しい家族愛を見た気持ちで、そして何よりこの世界で、ダリアが家族をとても愛しているのだと、大事にしているのだと知ることが出来た瞬間だった。
「俺は、君を愛せて幸せだと思うよ……」
「アルカ……」
「だから俺も愛させて欲しい。君の家族丸ごと……大事にしたい」
「――はい‼」
それは俺の決心の証。
俺もまた、この世界の住人として、ダリアと共に生きていきたい。
そう思えたのだから――。




