第11話 夏季休暇まであと少しと言う所での騒動
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夏休みを控えたある日、毒婦マリーが教室に押しかけてきた。
一瞬リガードになにか用でもあるんだろうと、帰り支度をしていた俺だったが……。
毒婦マリーはリガードの元へではなく、俺のもとにやってくるなりいきなり――。
「アタシ! 夏季休暇はアルカの故郷に行きたい‼ だから誘って‼」
「は?」
「お、おいマリー! 君は夏季休暇の間は城で過ごすって言ってたじゃないか!」
「気が変わったの! 今しかもうチャンスがないの‼ ねぇ、私を故郷に連れてって?♡」
思わずドン引きする俺を他所に、行く気満々の毒婦。
そういえば攻略本に、「夏季休暇をアルカの故郷で過ごせば、ほぼアルカエンディングの確定に入る」……とか書いてあったな。
恐らく今まで忘れていたんだろうが、俺はスン……と顔色を落とし、冷たい視線で毒婦を見つめた。
「ね? お願い♡」
「断る。お前と俺との関連性が一切ない。悪い方での関連性は沢山あるがな」
「えー? でもでも。可愛い女の子からお願いされたら嬉しいっしょ?」
「俺の眼の前にいるのは、ブスのようだが?」
「ぶ……な、なんですって⁉」
「俺は目が肥えてるんでね。アンタくらいのレベルは……悪いが『自分を可愛いと思ってる痛い奴』にしか見えないんだわ」
「ひ、酷い……。何もそこまで言わなくていいじゃない!」
そう叫んだ毒婦。
涙を見せれば罪悪感が湧くかと思ったか?
悪いな、お前には罪悪感より、ザマァ見ろと言う高揚感しか生まれねーよ。
「マリーさん。貴方、アルカ様とそこまで親しかったかしら?」
「煩いな悪役令嬢はー! ちったぁ黙っててくれない?」
「わたくしはアルカ様とそこまで親しかったかと、聞いただけですが?」
「やだ何嫉妬? そのレベルで? まぁ、アンタはいずれ捨てられる身だからそう思うかも知れないけど~? リガード、スノル、ドルフ、アルカの隣にいるべきは、このア・タ・シ! アタシなのよ」
この台詞に流石のリガードたちもギョッとしていたが、俺達は顔から表情が落ちた状態で毒婦と向き合う。
攻略の三人だけで済ませれば良いものを、まだ俺を狙ってるのか?
余程頭も緩いと見える……。さてどうしたものか……。そう思った時だった。
「そもそもアルカはこの世界の頂点、彼の国の王太子よ! 絶対手に入れておかないと駄目なわけよ。だってアルカは――ひぐぅっ‼」
「な、ど、どうしたマリー!」
「か、身体がいた……いだぃぃいいいいい‼」
ふらふらっとした後、床に倒れてジタバタと下着が見えようと関係なくのた打ち回る毒婦に、こいつ……俺を「エルフだから」と言いそうになったな? と理解した。
コツコツと仕立ての良い靴音を立て、苦しむマリーを上から覗き込むと、奴は目を血走らせガクガクと震えていた。
「俺の故郷を何故知っている? 知っていて口に出そうとしたら、全身に激痛が走るようになっているのだが? 俺の故郷を知るのは、国王陛下と学園長だけの筈なのだが? どこで知った、言え」
「ひぐぅぅいいいいいい‼」
――馬鹿は死んでも治らんのは、事実のようだな。
祖父が施した防御策だ。さぞや痛いだろうよ。
痛みに歯を食いしばった歯茎から血が出るマリーに、俺はパチンと指を鳴らすと、痛みを一時的に解放してやる。
すると、泣き叫び、悲鳴を上げながら教室を飛び出していった。
それを追いかけていく攻略対象達。
王太子だ何だと、まだ彼らに期待していた者たちもいたが――。
毒婦マリーを彼らが追いかけていくのを見て、周囲の女子たちは冷たい目を向けていた。哀れなものだな。
「汚い豚はよく吠える。全く、あんな奴を呼ぶはずないだろう。気持ち悪い」
騒然としていたクラスも、俺の一言にシン……と静まり返る。
俺が一体どこの王族かを……何となく察したようだ。
察しが悪いのは、あの攻略対象達くらいだろう。
隣で呆然とするダリアに対しては、優しく甘い笑みを浮かべて手を差し伸べる。
「君が口に出しても痛みが走らないようにしているぞ?」
「言う筈が御座いません。尊い御身と言うのは以前リガード様にもお伝えしましたもの」
「ははは! それもそうだったな! では帰ろうか。校門までエスコートしても?」
「はい。どうぞよろしくお願いします」
こうして差し出した手に、ダリアが手を合わせる。
そっと繋いだ手をそのままに、俺達は教室を後にすると、一気にざわめいた。
「恐らく名を言えないけれど、恐らくあの国の方だろう」……みたいな話題になっているんだろうな。
名を言えないなんて、どこぞの小説の悪者みたいに感じたが、まぁ、俺は悪役王子なのでちょうど良いのかも知れないな。
「それにしても、物凄いのたうち回りでしたわね」
「そういう風に契約魔法をしているんだ。名を口にすれば全身に激痛が走る。まぁ、言うならば、その覚悟があるのなら口にしてみろ……と言う奴だな」
「それで、何も知らず転生者であることを誇っていた彼女が口にしようとして――」
「いやー。実に悲劇でしたねぇ?」
「あらあら、想定内の悲劇では?」
「ははは! 言うようになったな。それでこそ気高い俺の悪役令嬢だ」
お互いクスクスと笑いあいながら、廊下を進み校庭に出る。
最早毒婦マリーのことなどはどうでもよく、お互いに俺の国に行くのに服装はどんな物を用意すればいいかなど、そんな話題で盛り上がる。
「服は既製品になるだろうが、俺の方から色々種族用の服を用意する予定だ。だから、来る時用と帰る時用の服を用意しておけば良いだろう」
「本当に宜しいのですか?」
「ああ。それに逐一国王である祖父に俺達のことは報告されるだろうしな。無論、その――あまり深入りするような大人な事をしないように、結晶妖精もつけられると思う」
「それってつまり……」
「……キスまでは許してくれよ?」
「まぁ‼」
「ははは!」
顔を真っ赤にして驚くダリアは可愛い。
繋いだ手が彼女の方が熱くなるのを感じる……。
恥ずかしくて体温が上がったんだろう、そこすら愛おしく感じて……抱きしめたくなるのを抑えるのが大変だ。
「俺は、君が俺の婚約者になることを望んでいるからな」
「それは嬉しいです……でも」
「ああ……頭の痛い問題があったな」
――なんと、国王の間であれだけリガードを糾弾したのに、婚約破棄が出来なかったのだ。
国王陛下が何とか、まだ待って欲しい……と最後は父親の顔が勝ってしまったのだろう。王妃は呆れて「貴方、最低ですわ」と国王に言い放っていたところを見ると、あの後王妃様からたっぷりと締め上げられただろうが。
「今回は俺の祖父も動くだろう。そうなれば……流石の国王も破棄を許すしか無くなる」
「そうだと……嬉しいのですが」
「安心しろ。俺の爺さんはツエェから」
そうで無ければ、長い年月国王として彼の国を安定させて民を導く事もできないだろうし、何より他国の王族からも恐れられている。
その世界のボスみたいなのが一言付け加えれば、間違いなく局面は動くだろう。
「だから、安心して夏季休暇はこっちにおいで」
「はい……。楽しみにしていますわ」
夏季休暇までもう少し。
まだ荒れそうではあるものの、俺達の距離はぐっと近くなっていたが、それをよく思わない者もいた。
ダリアと別れて馬車に乗り込み、従者のリオンと二人きりになると――。
「……やはり、あの女は危険だ。次に手を出してくるとしたらダリアに対してだ……。見張りを怠るな」
「かしこまりました」
そう口にしてから、繋いでいた手を見つめる。
――何があろうと、この手だけは離すまい、と心に誓いながら。




