フタバちゃん4
「えっ!えっ、えっと、そのっ!」
動揺した俺は慌てふためく。
すると、怖い表情で俺を睨んでいたフタバちゃんの体が揺れ始める。
「…ふ、ふ、っぷっ無理、無理、限界!」
フタバちゃんは俺に背を向けると腹を抱えて笑い始めた。
何が何だか分からず…訳も分からず俺は…そんなフタバちゃんを見つめるしか無かった。
フタバちゃんは1、2分程、爆笑していたが…やがて落ち着くと、俺の隣へ座った。
「言っておくけど…低学年の話ね、さっきの。」
「…は?」
「今は、全然そんな事ないから。つーか、吃って慌てふためく辺りを目にして…無理ありえない、この童貞野郎って思った。」
図星が俺の胸を抉る。
「兄貴の方はもっと無理って…最初から思っていたけど。」
「……は?…い、意味わかんね、つ、つ、つきあってたんだろ?」
「アンタのママにお願いされてね。」
フタバちゃんがチラッと横目で俺を見て肯定した。
「……へえ、ママや、兄貴から聞いて無かったんだ?」
俺の驚いた顔を見て、フタバちゃんが悟った様に続けた。
「ある意味…アンタ、あの家の中で『除け者』みたいな感じな部分、あったよね?」
フタバちゃんはそう言うと、兄貴と付き合った経緯と、状況を話し始めた。
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「フタバちゃん、良かったら…一郎と付き合ってくれる?」
先に告ったのは、フタバちゃんの方で無く、兄貴…いや、お母様の方だった。
俺は中学受験を何とか乗り越えた後、通学や学生生活に忙しかった。
本当はもっと近くの学校に通いたかったが…全落ちで致し方無く滑り止め校として県外では有名なとこに通わざるを得なかった。
それでも、お母様はとても喜んでくれたし、お父様は俺に期待していた。
『一郎があの状態だからな…頑張ってどこかの医大には入れよ…免許さえあれば俺の跡継げるから』
そうして俺は、国立は無理だったが、何とか県外の医大の歯科部には入学できた。
兄貴は…俺同様、中学受験は全落ちだった。
で、頑張って俺同様に…県外の私立高校には受かったのだが…兄貴は小学校からの悪い癖が抜けず、中卒で終わってしまったのだ。
兄貴の悪い癖…それは「サボり癖」だ。
小学校の高学年から、兄貴は行きたくないと駄々を捏ね…段々と学校に行かなくなった。
中学も基本そんな感じだったが、中学2年辺りから「癖」がひどくなった。
それでも小学校高学年や、中学1年生迄は…学校イベント等には行っていたからまだ「マシ」だった。
中学2年生以降は…もう学校に1日も行かなくなってしまった。
『いいの!いいの!!…大学さえどこか受かれば、何とかなるわ!』
お母様は毎日の様にそんな事を言っていた。
ただ、同年代の子と関わりがない事だけをお母様は大層気にしていたのだ。
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