フタバちゃん2
「フタバちゃんさ、ソーイチと付き合っていたんだ。」
え?
俺は驚いて問い返した。
「いや、いや!…俺の兄貴と付き合っていたんだろ!」
「それ、高校の頃の話な。フタバちゃんがソーイチと付き合っていたのは、大学生になってからの話。偶然同じ大学でさ…。再会してそれで…いや、もうとっくに別れたけど。」
淡々と語るソージを俺は思わず凝視する。
「何?」
「いや…展開の早さに思わず…着いていけなくて…」
俺の反応を見て、ソージが少し身を乗り出して聞いて来た。
「お前、兄貴やオカンから…色々話聞いてねえの?」
ふと、その様子に一抹の不安が呼び起こされる。
『フタバちゃんとお兄ちゃん、ベランダでお茶してたわ』
『お兄ちゃんね、フタバちゃんから勉強教えてもらってるの!』
俺の独り暮らし用のマンション部屋を掃除しながらその様子を語るお母様。
俺はいつも右から左へ…スルー状態だったが、ふとある日気づいた。
ある日を境にお母様が二人の話をしなくなったのだ。
代わりにお母様は新しい家族の新居について嬉々と語っていた。
『今度のマンション、お父様の病院から近いの』
『前のマンションは狭かったけど、今度のは広いのよ…お父様の財力のおかげだわ』
お母様の会話からフタバちゃんの単語が消え、代わりに出て来るのは新しいマンションとお父様を賞賛する言葉ばかりだった。
「聞いてないっぽいな…俺はソーイチがフタバちゃんと付き合っていた頃、偶に三人で遊んでいたから、色々聞いて居るけどさ…言っていいの?…二郎、聞きたい?」
俺唾を思わず唾を飲み込み…それからゆっくり頷いた。
「大まかな結論しか言わないけど…警察沙汰になってお前んとこ、マンションから引越ししたんだよな?…フタバちゃんと同じマンション居られなくなってさ。」
「…んな事、聞いてないっ!」
俺は思わず叫んだ。
隣の席のカップルがチラッと俺達の方を一瞥する。
おいおい…ダチがドン引きした様に呟いた。
そして、ソージはと言うと、口を一文字に閉じて俺をジッっと見ていた。
「最後にこれだけ言っておくよ。お前のところのマンション…いや、フタバちゃんの住んでいるマンションって、タワマンだよな?今でも住んでる同級生それなりの数居る。おまけにソイツらにも兄弟姉妹いるからある意味、それなりのネットワーク出来てるんだよ…状況証拠じゃないけどさ、そのネットワーク内やフタバちゃんの話がいちいち噛み合ってんだよな…詳細を知りたかったら、フタバちゃん本人から聞けば?」
「聞くって…お、俺、連絡先っ」
「…マンションの近くにあるベーカリーあっただろ?そこでバイトしてる。」
「六年の…最後の年に出来た店?」
ソージが目を軽く閉じて、ウンウンと頷いた。
「フタバちゃん、ピンクに髪染めてるからスグ分かるよ…ベーカリー、日曜だけ休み、みたいな事言ってたから、気をつけてな」
ソージはそう言うと、俺のダチに向かって、二、三言葉を交わすとさっさと店を後にしてしまった。
ソージの去り行く後ろ姿が視界から消えると、横に座っているダチが…気まずそうに口を開いた。
「こりゃあ、会いに行けってフラグか?」
「…………だよ、な。」
俺は力無く応えた。
「フタバちゃんだっけ?…会うなら次は二人でどうぞ!」
愛想笑いの様な笑みを浮かべて…俺のダチはフェードアウトした。
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