親友「ナナ」
「…アンタ…馬鹿?」
私の「しゃもじ山姥」事件を聞いたナナに…開口一番で言われた言葉はそれだった。
「…う、そう非難されても…仕方ないよ…ね…」
>『ナナになら…ドン引きされてた挙句、距離を取られてもいい』
あんな事を自分で言っておきながら、何だが…やっぱり…面と向かって「馬鹿」と言われると何かしら心を抉る…何かがある。
しかし、不思議な部分もあった。
ナナの「馬鹿」には、嘲りだの、見下だの、といった類いのものが感じられない。
彼女の表情を見ていると「あれまあ」という…純粋な驚きが滲み出ているのだ。
それでも、ナナにとってはこの「しゃもじ山姥」事件は…大層奇抜な事件に聞こえたのだろう。
ナナは暫くの間、自分のグラス4分の3を占めていたアイスティーを…まるで自分の中に咀嚼して飲み込むかの様にゆっくり吸い続けた。
アイスティーの茶色が層が1センチを切ると…ズズズっとナナが頑張ってアイスティーを飲み干す音が私の鼓膜に大きく響く。
それは、奇妙な「しゃもじ山姥」事件を苦労して飲み込んでいる様に、私の耳に届いた響きだった。
「2対1…詰んでんじゃん…」
「…え…?」
「マザコンとマザコン山姥…対するフタバは、ひとりぼっち…もうさ…最初から勝ち目ないよ、それ。」
ナナのセリフを聞いて私は理解した。
アイスティーを飲み終えたナナが「2対1」と言った理由を…。
理解し始めた私は、ナナの答えを自分の中に定着させる様に、軽く頷き続けた。
「おまけに…『マザコン兄は添え物』ってフタバ言うけどさ…解釈間違えてるよ。添え物はフタバ、アンタの方。」
「…うっ…え、ええっ?」
ナナって…結構辛口?
動揺する私に向かってナナは続けた。
「…マザコン&マザコン山姥カップルの『仰せのままに』…従い、『自我を殺したフタバ』が抵抗を一切せずに従う…それが、マザコン親子の取説ね。」
ストローで、アイスティーの氷をカラカラ混ぜながら、ナナが言った。
「しゃもじ山姥」事件について、私の両親さえここまで掘り下げる事をしなかった。その私の両親よりもずっと年下のナナ。
不思議な事にナナのその考察というか、指摘というか…それは妙に的を得ている感覚がした。
「…な、な、何で『取説』ってそんな事…ナナがわかるの?」
私は…ナナの指摘の根拠が知りたくて、ナナに対して食い下がる。
その話の間に、ナナのグラスの中の氷が少しずつ溶け、底にあるへばりついたアイスティーと混ざり…元のアイスティーよりも薄いアイスティーが姿を現す。
ナナは、その薄いアイスティーを再度、ズズズっと音を立てて飲み干して言った。
「私のパパと、ばあば…二人が典型的なマザコン親子だったからね。」
ケロっとした様子で、フタバが続けた。




