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「ねね」ちゃん  作者: きゃんぷ3
苦い思い出1
13/24

フタバの回想

人間関係は面倒くさい。

面倒くさい理由は、わかっている。

簡単に言えば、気を遣うからだ。

この気を遣うという行為。

自分自身が相手に対して「この行為」行う事に値する人間なら、その「バランス」の取れている感覚は心地良いと感じるかもしれない。

じゃあ…「バランス」が取れてない時は?

私の中で呼び起こされる記憶は…古い記憶では保育園から…新しい記憶では「高校時代」迄の記憶だ。


****

「ああ、それ…『マイベストフレンズ』…だよね?好きなの?」

私がナナから初めて声をかけられたのは、大学で心理学の講義が始まる5分前の事だった。

大学に入って一年間の間、「ぼっち」だった私は驚いて…声の主を見上げた。

当然、声の主と数秒ではあるがお見合い状態となる。

「ごめんね、いきなり。…私、ナナっていうの。懐かしいドラマ観てるなって思ってさ…ねえ、いつもこの席の近辺に座っているよね、何て呼べばいいかな。。」

少し戸惑い気味の「ナナ」に向かって、私は言った。

「…フタバ。…私、高校の頃にこのドラマをよく観てて…途中から観なくなったんだけど…サブスクの中で観てるメニューの中に…他に観たいのなくって…で、適当に観てたの。」

誰かから話しかけられるとは思ってなかった私は…軽い動揺を抑えてナナに答えた。

ナナとの出会いはそんな感じだった。


『マイベストフレンズ』は、アメリカの西海岸を舞台にした…4人のセレブ家庭出身の大学生達を中心に話が展開していく…というタイプの海外ドラマだ。

4人と先程言ったが、元は5人組のセレブ大学生だ。

このドラマは、5人の内のひとりが冒頭で自殺するという、過激な展開で物語の幕が上がる。

自死の原因究明を…肝心の家族達が放棄する中、残された仲良し4人組が友人の自死について謎解きをするストーリーで、シーズン9迄作成された人気ドラマだ。

人気の理由は、4人組のファッションが一番の理由だけど…他にも恋愛模様、家族関係…の絡み方が複雑且つ、面白い。

親友の自死の理由の謎解きと言ったが、その実…残された親友4人は表面だけ仲良しのフリをした嘘つき集団で、お互いがお互いに足の引っ張り合いをするその醜さが、ゴージャスなセレブファッションとの対比で面白おかしい部分もあるのだ。

私は高校生の頃、ドラマ同様に「表面だけの親友達」にこのドラマを薦められて視聴するようになった。

「セレブ海外ドラマ」と「表面だけの親友達」…彼等はびっくりする程、共通点があった。

紐解いてわかり易く言えば、「エゴ」と「上っ面だけ」だけどの関係だ。

そんなもんで繋がっている間柄だからこそ、なのだろう。

お互いがお互いを繋ぎ止める題材は…複数必要だったのだろう。

例えば、ブランド品のキーチャームだとか…自分達と共通点の多いこのドラマだとか、だ。

そんな上っ面だけの繋がり方だからこそ、学生生活が終了すると縁も切れる。

私も、大学一年の時は半年だけ…高校生の友達と頑張って会っていた。

だけども半年も経過すると、その頑張りが自分でも馬鹿みたく思えてくるのだ…ま、高校生活の半ば辺りから、その「浅い繋がり」を薄々感じてはいたけどね。

「じゃあ、その時点でバイバイすれば良かったじゃん?」

それを話すと、ナナは開口一番にそう返してきた。

「こ、高校生活と…大学生活は違うじゃん…だってさ、始業から終業まで…週に6日も学校生活しなきゃならないんだよ。それってさ、自分の家族よりも長い時間過ごすって意味だし…ぼっちはキツすぎるって…ある意味、大学の方がそういう無理しなくていいから『じぶん』でいられるよね。つーかさ、ナナはどうだったの?」

私がナナにその矛先を向けると…ナナはケロリといった。

「『ぼっち』だったよ?」

ほら、やっぱりそうじゃん!それみたことか!と言わんばかりの調子で私はいった。

「…キツくね?それ?」

「いっときの事でしょ?…それを凌げないからって、自分の心に嘘つくって…その『いっときを凌ぐ』事よりも無理してるよね」

ナナは、またもやケロリとそう返してきた。

それは目から鱗…だった。

ケロリ、とナナの口から言い放たれたその一言は…ある出来事で頑張っていた私を冷静に見つめるキッカケになった。

ある出来事とは、例の「じゃもじ山姥」事件だ。

この事件が発生して以降…お線香レベルではあるが、私の中にある何かをくすぶらせていた。

おいしく温かい御飯に有り付く為、キモい兄貴の相手としゃもじ山姥の嫌味に耐えると言う『いっとき凌ぎ』に耐える…その耐え忍びに見合った対価があったのだろうか…?しゃもじ山姥の料理に固執するよりも…潔く、自分の親に向かって「定食屋で暖かい御飯を食べるから夕飯代を増額してくれ」と要求した方がマシだったんじゃないか?


何故、あの頃の…高校生の私は自分の親にそんな要求をする事が出来なかったのだろう…。


「しゃもじ山姥」事件の後、暫く間ではあるが…両親は私に同情的だった。

『仕事ばかり優先してごめんね、フタバ!』

毎日、両親は私にそう謝罪すると、山姥からしゃもじで叩かれた私への見舞い品と言わんばかりに…色々な物を買って来てくれた。

母親も暫くは、休みを取り私と一緒に過ごしてくれた。

そして母親は、『朝昼晩』手作りの御飯を私の為に作ってくれた。

しかし、私の母は料理が得意ではない…だから、『朝昼晩』手作り料理のレベルは「食べれればいいでしょ?」レベルではあったが…それでも、私の事を気にかけてくれる両親対して、私は心の奥底部分が擽ったくも少しキリっと痛んだ。

しかし、両親の私に対する「かわいそうな被害者扱い」も事件から10日前後迄の話だった。

次第に両親は、私を責める様になった。

「温かい御飯が食べたかったって…それだけの理由で、山姥に近づかないだろ」

「高校生っていっても…考えの浅い…まだまだ子供ね。」

そう言うと、両親は私に夕飯代を多めに渡すと同時に、料理教室に通う事を薦めてきたのだ。

「話が違うじゃん、ママ!仕事セーブして、毎日御飯作るって言ってたくせに!…あたしがっ自分で料理するの?!」

「ママは料理不得意なの!今更直らないわっ!それよりも、フタバが出来るようになった方が花嫁修行にもいいし…私とパパもフタバに料理作ってもらった方が助かるから…一石二鳥でしょ?」

「…フタバ、お前、部活やってないし…丁度いいんじゃないか?」

「ひどいっ…パパまで!」

「…パパもママも、フタバの学費の為に働いているのよ!…そんな言い方ないでしょ!」

「パパの会社は夜も食堂がある、何ならフタバも食べにこればいい。」

「家からパパの会社まで…片道2時間もあるじゃん!」

「1時間半だ。前にフタバが来た時は…フタバがのんびり歩いていたから2時間もかかったんだ。」

「1時間半だろうと、2時間だろうと…わざわざ御飯の為にパパの会社行かないでしょ?じゃあ、最初の提案通り定食屋通いと、料理教室通いね、フタバ」

「ひどいっ!何も変わんないじゃん!」


結局、「しゃもじ山姥」事件は奇妙な事件だったね、というだけで、私の状況はそんなに変わらなかった。

思い起こせば、ママは昔からそうだ。

私の中にあるママの記憶。

もちろん、色々あるが強烈に印象に残っているのは、保育園に私を預ける時のママの表情だ。

『ママっ!いやだっ!行かないでっ!!』

毎朝、お決まりの様に泣き喚く私を…保育園の先生がガッチリホールドする様に抱き上げる。

その時のママの顔は何とも言えない表情をしていた。

眉尻と口角を思いっきり下げ、その表情の前で両手を合わせていた。

先生と私に何度も頭を下げながら、入り口へフェードアウトしていくのだ。

そうだ。

ママは変わらない。

あの頃から、ずっと変わらない。

申し訳なさそうな顔を見せつつも…絶対に折れないのだ。

だからこそ、私は諦めて『代用品』を他所に求め…痛い思いをしたんじゃないか。


そして実のところ、私は高校時代の親友達には「しゃもじ山姥」事件の事は言ってない。

何故言わなかったか?

当時の私はその訳を上手く説明出来なかった。

が、今ではわかる。

友達の反応の予想がつくからだ。


笑い転げるorドン引きする。

表面だけの慰めの言葉をかけてくる。


そして、高校時代の友人達から影で言われるのだ。

『フタバってやっぱ、変わってる…友達無理じゃね?』

次第にハブられる。


ピーっ!高校生活終了…終わったわ…私…ってな感じになる。


ダメダメダメっ!

無理無理無理っ!

絶対に、言えない。

「しゃもじ山姥」事件の事をゲロったら、それは学校生活終了のフラグが立つのだ。


だから、高校時代の友人には言わなかったのだ。

私が自ら素直に…この「喜劇」と言われても致し方ない『しゃもじ山姥』事件について語る事の出来た最初の人物こそ…ナナだったのだ。

不思議な事に…ナナになら言ってもいいと思った。

ナナになら…ドン引きされてた挙句、距離を取られてもいい…そう思った。


*****


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