2話
階段──
別に、いつも通り。何でもない、ただの下り道。
でも、今日は違った。
あの日。
あの、恥ずかしくて、それでも忘れられない一日の翌日だから。
たった一段、一歩降りるだけなのに、心が重い。
妙に長く感じるのは──たぶん、記憶のせいだ。
⸻
「……っ」
ほんの一瞬のことだった。
でも、ハッキリ覚えてる。
俺は──冬に、階段から突き落とされたんだ。
⸻
「……っ、ふぅ、は……っ、ふぅ……っ」
「……優、どうしたの?」
「っ、な、なんでもないよ!」
「……隠し事はなしだよ?」
「えっ……」
まるで、心を読んだかのようなタイミングで、冬が笑った。
「あ、えっと……いや、その……」
ま、まさか。
さすがに冬でも、俺が今さっき“あの妄想”を思い出していたことまで知ってるわけじゃないよな!?
いや、妄想っていうか……いや、記憶?
口に出してたっけ!? いや、出してない、絶対!
「大丈夫だよ。ただ、なんか急に息が切れて……熱とかじゃないと思う」
「……そうなのね」
「う、うん。そうだよ」
……ビビった。マジで。
でも──やっぱり冬は優しいな。
俺のこと、心配してくれてたんだ。
なのに俺は、あんな最低な妄想(記憶?)を……
⸻
「ねぇ、優」
「は、はいっ!」
というか、冬とこんなに話すの初めてじゃないか!?
っていうか、女の子とここまで会話したの何年ぶり!?
ドキドキが止まらない。
ていうか、冬……めっちゃ可愛い。
「これ、見て」
冬は、自分の髪を軽く押さえながら、髪止めを見せてきた。
氷の結晶みたいな、透き通った飾り。
「可愛い氷結晶でしょ?」
⸻
「……冬だし、似合うかなって思って」
「……っ、それ……くれるの? 俺なんかに……あんな酷いことされたのに」
「……ううん。もう、過去は許した。だから、これは……ね」
冬は、少し照れたように笑った。
その笑顔が、まぶしくて。
でも──
胸の奥が、ちくっと痛んだ。
⸻
……今の記憶。
確かに思い出したのは「過去の傷」だったのに。
なぜだろう。辛くはなかった。
──いや、でも。どこか、苦しい。
これって……何なんだろう。
恋愛感情。
だけど、同時に許せない自分もいる。
口では「許した」って言ったのに、心の底にはまだ、黒い何かがある。
──そういう感じ。
⸻
「でしょ!」
ドキッとした。
その声、その笑顔。
……今、たぶん、きっと。
クラスでも滅多に見せない、本当の笑顔を見せてくれたと思う。
やばい、ドキドキする。
そして、ムラムラもする。
でも、なんだろう──
同時に、心の奥に何か熱いものが込み上げてくる。
怒り……?
いや、違う。でも、確かに何かがうごめいてる。
⸻
「これの新しいやつ、一緒に買いに行こう?」
「……うん。いいよ」
そのまま、冬が俺の手を繋いだ。
柔らかくて、あったかくて。
でも、心はザワついていた。
⸻
この瞬間、俺は夢を見ていた。
女の子と、手を繋ぐ。
そんなの、ずっと憧れていた。
ずっと緊張すると思っていた。
頭が真っ白になって、何を話していいか分からなくなると思っていた。
でも──
なぜか俺の心は、どこか醒めていた。
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