第三章:異世界に、発酵の風が吹く
これはAIが書いたものです
「なあ、そろそろ“暮らし指導官”さんの次のワザ、見せてくれよ!」
焚き火の夜を経て、俺はすっかり村の人気者になっていた。
水を浄化し、石鹸を作り、鍋をピカピカに磨くだけで、こんなに感謝されるとは思わなかった。
「じゃあ、そろそろ“保存食”の話をしようかな」
「ほぞんしょく……って?」
「腐らない食べ物。長持ちするやつ」
ミーナが「それは便利そうじゃ」と頷く。村は山間の土地で、冬は雪に閉ざされるという。保存できる食べ物は、まさに生死を分ける。
「というわけで、まずは“味噌”を作ります」
「みそ……?」
村人たちの頭の上に、またしても“?”マークが並ぶ。
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豆を煮るところから始めた。
「これ、硬くて食えたもんじゃない!」と子どもたちに言われた乾燥豆を、大鍋でじっくり煮る。朝から火を絶やさず、ようやく指で潰せるほど柔らかくなったのは、夕方だった。
「これを潰します。みんな手伝って!」
湯気の立つ豆をすりつぶし、木の桶に移す。
そこへ加えるのは――
「これ、米をほったらかしにしておいたら、白いカビが生えたんじゃが……」
「それ、すごくいいやつです!」
「えっ!? 捨てようとしてたぞ!?」
「それ、麹です。発酵に使います」
麹という単語に、村人たちは神妙な顔になった。
カビ=悪という認識しかなかった彼らにとって、カビが“命を守る”とは想像もつかないことだった。
塩と麹を混ぜ、潰した豆に加える。
まるで泥遊びのような作業に、最初は戸惑っていた子どもたちも、やがて楽しそうに手を動かし始めた。
「これで……ほんとに、食べ物になるの?」
「時間が必要です。三ヶ月ほど」
「さ、三ヶ月も……!?」
「そのかわり、毎日がちょっとずつ豊かになりますよ」
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味噌玉を木の桶に詰め、蓋をして、重しを載せる。
「この中で、目に見えない力が働いてるんです。時間と、微生物の魔法でね」
村人たちは、なんとも言えない顔でその桶を見つめた。
信じたいけど、信じきれない。
でも、何かが始まりそうな気がする。
「これができれば、野菜も魚も美味しくなる。体も強くなる。――未来が変わります」
静かにそう告げると、ミーナがうんうんと頷いた。
「なんだかのう……あんたが来てから、この村が少しずつ明るくなってる気がするんじゃ」
「そうですか?」
「うん。水もきれいになったし、手を洗う習慣もできたし、子どもたちも笑っとる。味噌ができるころには、もっと楽しくなる気がするのう」
遠くで、夕焼けに照らされた子どもたちの笑い声が響いていた。
火も魔法も使えない俺にできるのは、ただ――
“丁寧な暮らし”を積み重ねることだけだ。
でも、それが少しずつ、人を救っている。
そう思えた夕暮れだった。