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2-1.

 レイリアのギルドは、シーヴのような塔ではなく一階建てだ。中は酒場を兼ねていて、正面のカウンター兼受付では、食べ物や飲み物の注文もできるし、依頼の受発注もできる。

 もちろん、機密性の高い依頼の場合は奥に個室が用意されているが、基本的にはざっくばらんにやり取りする形式をとっていた。

 椅子やテーブル、カウンターをはじめ、よく手入れはされているが、どれも年季が入っているのは外の街並みと同じだ。

 カウンターの奥には、所狭しと様々な種類の酒瓶や樽が並べられており、外の看板や、カウンターの一部に置かれた依頼受付の札やギルドの紋章がなければ、酒場そのものの作りだ。

 まだ早い時間だというのに中はほとんど満席で、顔を真っ赤にして酔っ払った者たちも多い。一方で、依頼をやりとりしにきたであろう難しい顔もぱらぱらといて、なんだか不思議な空間だった。

 都市全体はともかく、ギルドの内部に限って言えば、シーヴよりよっぽど騒がしい。

 体験したことのない空気に、ノアは呆気にとられると同時に、少しだけほっとしていた。

 レイリアの閑散として影のある様子は、馬車の中でパイクやエミリーが濁していた、レイリアの抱える問題の深刻さを物語っていた。

 エミリーに案内してもらった街並みにも、ノアは内心で不安を覚えていた。

 頼りの大図書館は、いったん外から眺めただけではあるものの、人の気配がないように感じられたし、商店街にしても、エミリーの実家では明るい笑顔に出迎えられたものの、半分ほどが営業しておらず、客入りもまばらだった。

 議会にはそれなりの人が出入りしていたが、あまり明るい表情には出会えず、悲壮感すら漂っていた。

 この調子ではギルドもどうなっていることか、と心配していたところに、この活気だったのだ。

「どうだ、すげえだろ?」

 パイクが自慢げに腕組みをして、ふふんと笑う。

「うん、すごい」

「だろ? 依頼のきっかけになるネタは旨い酒場か飯屋に集まるもんさ。そんなら、ギルドでそいつを作ってやればいい。ギルドより酒場の方が盛りあがっちまう日が多いのは、ご愛嬌ってやつだな」

「すごい熱気というか、活気があるよね」

「うるさいって言っちゃっていいよ。まあ、すぐに慣れるし、これで意外と便利なんだよね」

 パイクとエミリーの姿を認めたギルドの客たちが、歓声をあげる。どこをほっつき歩いてやがっただの、こっちきて一緒に飲めだの、野太い声が次々にとんでくる。

 確かにパイクは、自分で言うようにギルドに顔がきくようだし、エミリーも大人気のようだ。

「ちょっとガラの悪そうな人が多く見えるかもしれないけど、基本的にはみんないい人だから」

 入り混じった歓声と野次を適当にあしらいながら、エミリーが説明してくれる。

 依頼のやり取りにはうるさすぎる気もするが、そこはレイリアに住む人たちの暗黙の了解があるのだろう。依頼受付と札のかかったカウンター付近は、他に比べれば落ち着いた雰囲気が出来上がっていた。

「とりあえず今日は奥だな。あれこれ手続きもあるし、説明事項も多い。そんなお堅いもんは、ばっと渡して本人が好きに読んでおけってなもんだと思うんだが、うるさいやつが多くてな」

「そういうところをちゃんとしなくなったら、ギルドが取り仕切ってる意味がないでしょ?」

 ほれ、うるさいやつの筆頭がここにいるだろ?

 わざとらしくエミリーに嫌そうな顔を向けてから、パイクは人でごった返した酒場の中をずんずん進んでいく。エミリーもそれに続いて歩き出し、するすると器用に人を避けていく。ノアだけがまだ慣れず、あちらこちらでぶつかっては謝りながら、どうにかついていった。

 酒場を抜けて、カウンターの切れた端にある扉をくぐると、いくつものドアが左右に並ぶ廊下に出た。

 機密性の高い依頼の詳細を聞いたり、今回のノアのように移住や長期滞在を希望している場合など、手続きに時間がかかるときに使う部屋なのだと、エミリーが説明してくれる。

 どの部屋にも入ることなく奥へ進んでいくことを、ノアは不思議に思っていたが、三人は結局、一番奥の立派な両開きの扉の前までやってきた。

「さて、ここを入ればギルド長の部屋だ」

「長期滞在の手続きで、いきなりギルド長さんが会ってくれるの?」

 手続きや説明事項があるのはシーヴでも同じだったが、担当はたいてい、ギルドでも新しいメンバーか、専門の事務方メンバーだった。よほどの重要人物でもない限り、ギルド長が直接対応することはまずない。

 恐縮した様子のノアに、パイクとエミリーは顔を見合わせて吹き出した。

「うちのはね、ギルド長っていっても全然まったく、いっさい緊張しなくて大丈夫だから!」

「そんなこと言われても」

「うははは! よーし開けるぞ!」

 両開きの扉を開けると、手前の酒場が嘘のような、洗練された部屋が現れた。

 目に優しいクリーム色の塗り壁に、シンプルな応接用のソファとテーブル。奥には執務用と思われるデスクが配置されている。

 天井の一角が吹き抜けのようになっていて、大きな窓が斜めについていた。壁には窓がひとつもないのに、ほんのりと明るい。日差しが強い日でも室内には直射日光が当たらず、快適に過ごせるよう設計されているらしかった。

「適当に座ってくれ」

 言いながら、パイクがソファにどっかりと腰をおろす。エミリーもその隣に座り、ノアにも正面に座るよう促した。

「あの、ギルド長さんは?」

 執務用のデスクにも、部屋のどこにも人はいない。

 おずおずと聞いたノアに、パイクとエミリーは部屋に入る前と同じように顔を見合わせて、にやりと笑う。

「あっはっは! そんだけきょとんとしてくれると、言わなかった甲斐があったな!」

 えほん、とわざとらしい咳払いをひとつして、パイクがこれまたわざとらしく背筋を伸ばし、どこまでもわざとらしい真面目そうな顔を作った。

「ようこそ、レイリアギルドへ。俺がギルド長のパイク、ジェイ・エス・パイクだ」

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