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1-4.Sideシーヴ-1

「どうなってんだ、くそが!」

 円形のホールに、怒声が響きわたった。

 広々としたホールだ。シーヴのカラーである青を基調とした内装に、高い天井から吊るされた煌びやかな照明が色を添える。壁に施された複雑な銀色の文様は、高価な魔法銀の細工で、ギルド本部であるこの塔を守る、簡易的な結界の役目も果たしている。

 この大陸において、各都市の名を冠するギルドの力は、そのまま都市の力と権力の強さを表す。

 それは言葉のとおり、年に一度、大陸中の都市にランクがつけられ、大陸中に示される。

 大陸の中央にある王都への貢献や、日々の魔物討伐、各所から舞い込む依頼達成の質や量がスコアとなり、集計されるのだ。

 娯楽の少ない一般市民にしてみれば、年に一度のお祭りのようなものだが、各都市ギルドに所属する者たちにとっては、それどころではない。

 都市間における一年間のパワーバランスが決まってしまうのだから、死活問題だ。意地とメンツはもちろん、ギルドの運営そのものにかかわる一大事だ。

 シーヴギルドのエースと名高い槍使い、ジャック・グリフが、豪華なホールのど真ん中で悪態をついたのは、簡単なはずの魔物討伐が、あわや失敗かというぎりぎりの結果に終わったからだった。

 ここ数年で、大陸五大都市の一角にまでのしあがったシーヴは、このままの勢いで大陸トップを狙おうと息まいていた。そこへきて、このざまだ。こんなところでつまずいていては、トップどころか、五大都市からの陥落もありえる。

 ジャックは自身の装備に視線を落とす。

 新調した槍も鎧もぼろぼろで、特に槍は、最後の一撃でへし折れてしまっている。

 討伐に参加した他の十数人も、同じありさまだった。

 魔力が底をつきかけ、土気色の顔をした魔術師たち。盾役の三人は骨折した上、治癒も間に合っていない。

 どうにか目的の魔物の討伐を果たして逃げ帰ってきたものの、全員に疲労と憤りの色が見えている。

 あくまでジャックの感覚としてではあるが、相手は強敵だったわけではない。

 これまでなら、鼻歌混じりに適当にあしらって、飽きたらさっさと倒して終わりにしてきたような、そんな相手だ。

 それが余計に、ジャックの神経を逆撫でした。

「あんたたちがサボってくれたせいで散々よ。報酬はこっちで七割もらうからね」

 ジャックにしなだれかかりながら、取り巻きのバーバラ・スチュアートが、補助魔法を得意としていた術師三人を顎でさす。

「冗談じゃない。こっちはいつもどおりやってる。アタッカーのあんたたちがもたもたやってたから、陣形が崩壊したんだろ!」

「俺に口答えしようってのか?」

 ひしゃげた槍の切っ先を三人に向けてジャックがにらむと、三人は悔しそうに首を振った。

 危ういところではあったが、意地を見せて、今回の魔物にとどめを刺したのはジャックだ。補助術師たちが言い返せるはずもない。

「悪かったよ……でも本当だ、俺たちは手を抜いたりなんかしてない。そんなことするわけないだろ?」

「……いいだろう、もう行け。次に手抜きしやがったら俺のチームから外すからな」

 ジャックが三人を追い払うと、ギスギスした雰囲気と疲労感から、他のメンバーも次々とその場を後にしていく。

 残ったのは、ジャックとバーバラの二人だけになった。

「ねえジャック、あいつらの肩を持つわけじゃないけど、今日はちょっとおかしくなかった?」

「別に、たまたまだろ」

「そう……よね」

「お前まで何か文句があるのか?」

「そういうわけじゃないけど……なんとなくジャックも、調子悪そうだったかなって」

「んなわけねえだろ」

 バーバラを振り払って歩き出してから、ジャックは舌打ちをした。バーバラが息をのむのがわかるが、振り返りはしない。

 バーバラや補助術師たちに言われなくとも、体が重く、いつもの調子が出ていないことにジャックは気づいていた。

 体調が悪いわけではない。いつもどおりにやっているのに、何かがおかしい。他の連中もそうだとすれば、原因は何だ?

 得体のしれない苛立ちを覚えたジャックが危惧したとおり、快進撃を続けてきたジャックたちのチームは、この日を境に思わぬ苦戦を強いられることになる。

 大きな違和感を覚えながら、その原因に彼らが気づくことができるのは、しばらく先の話だ。

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