出会い
暗い空に暗雲が浮かんでいる。夜の雨はただそこにある東京を幻想的に見せ、その道を歩く自分でさえも
「何者か」にさせた気がした。存在に価値をつけるのはいつだって周りだ。
「俺だって何者かになりたかった」
呟きながら歩を進める。「王」の待つビルを目指して。
黒いビルが見えてきた。東京の一等地。大企業「月島」が持つビルだ。今日はここで「王」とその幹部だ
けの食事会がある。俺はそこに「代表」として呼ばれている。ビルに入ると外の雰囲気とは裏腹にきれい
に取り繕ったエントランスが広がっていた。従業員も仕事をしていて、見た目は「こちら側だ」と感じさ
せる。エントランスを進むとエントランスの雰囲気とはどうにも合わない二人組の黒いスーツを身にまと
った男たちがエレベーターの前で待っていた。おそらくこいつらは「王」の部下だろう。
「お待ちしておりました。王たちがお待ちです。」
ここで心臓がドキッとする。今から「王」と対面するのだ。
「ああ。60階だったな」
心情を感じさせない返事をし、エレベーターに一人で乗り込む。持ち物チェックもされないとは思わなか
った。エレベーターが動き出す。重い空気と緊張を乗せて。
「60階です」
機会音が空間に伝わってから間もなく扉が開く。そこには外から見たビルから想像できるような空間が広
がっていた。黒くおぞましい真っ直ぐな廊下。エレベーターを降り廊下を進む。重い空気の中、一枚の大
きな扉に差し掛かった。
「いる。この先に。」
多くの感情と気持ちが身体を伝う。恐怖。怒り。そして…。
力いっぱい扉を開ける。
黒くおぞましい部屋に大きい横長の机と食べ物、幹部たちが目に映る。
肉を切る音、皿の音、会話の音、雨の音が耳に伝わる。
そして五感すべてが伝える存在が机の奥の真ん中にいた。
こいつだ。
とっさに銃を構える。でも心ではわかっている。
どんなに撃つのが上手でも。どんなに願っても。こいつには当たらない。殺せない。
葛藤の中、幹部たちは見向きもせず食事を続ける。
しかし「王」だけが食事を止め、こちらを見ていた。
そしてその目はどこかさみしそうで優しい目をしているような気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。このシーンは頭の中では構成されていたのですが、文字に起こすのは初めてでした。気に入っていただけたらブックマーク、評価をお願いします。