第二話 フレイヤとギム
しばらくバルバドスさんの視点はないかもしれません。まだ、バルバドスをどういった考え方の奴にするか決めてないからです(笑)悪者にしようかな……?
アデル達は順調に洞窟内を進んで行った。特にアデルは、迷った時の経験から、準備も怠っていない。お小遣いをためて、大きめのランプを買ったのだ。これで、大抵の魔物は近づけないだろう。
ただ、ランプには欠点があった。神力を光としてまき散らすランプは、魔物こそ近づけさせないが、自らの位置を知らせるようなものなのだ。つまり、ランプが切れる前に洞窟を出なければならない。
燃料の変えは持ってきているが、それでも限りはある。
(あの人に会えるかな………)
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「アデル!」
私は、この日のために買ったドレスを着て行った。洞窟に行くから、動きやすい恰好をしなきゃいけないのは分かってたけど、どうしてもアデルに見せたかったのだ。
アデルは苦笑いしながら、着替えてこいといった。いつものように憎まれ口を叩きながら、私は走って家に戻った。
ドレスを見せることができた。それだけでとても嬉しかった。途中、ドレスに引っかかって転んでも、私は笑顔だった。
…………私はアデルのことが好き。
でも、アデルは好きな人がいるみたいだった。丁度、アデルが洞窟で行方不明になって、無事に戻ってきてから、アデルは誰かを追うように洞窟に入り浸っている。聞いたところ、綺麗な女の人がアデルを洞窟の外まで連れて行ってくれたのだそうだ。
そんなことは有り得ない。だって、この洞窟には魔物しかいないのだから。もし、他に居るとするなら、悪魔……?それとも、魔女……?
「カレン」
アデルに呼ばれ、ボーっとしていたことに気づく。アデルのことを考えると、どうしてもこうなのだ。
アデルは最近私と目線を合わせない。私の目より少し目線を上げて、私の髪を見ている。
髪が好きなのかしら………?
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ここだ。ここで俺は迷っていたんだ。
アデルは今、自分が迷って立ち往生し、助けられた場所に居る。あの日から、アデルにはこの洞窟の構造が分かるようになっていた。
それがあの女性のおかげなのか、それとも俺がこの洞窟に認められたのか、はたまたただの偶然か、それは分からない。でも、どれにしても便利なことだ。
わかれ道の端にジリジリと動く影がある。多分、魔物だろう。ランプがあるから動けないのだ。もう少し進んでみよう。もしかしたら、この先にあの人がいるかもしれない。
まだまだランプの燃料は余裕がある。
ドォン
アデルがそう思った直後、地響きが起こった。
ドォン ドォン
この洞窟で地震なんて起きたことはない。それに、この一定のリズム………。まるで、巨人が歩いてるみたいな…………、まさか!足音……なのか!?
ドォン ドォン ドォン ドォン
足音は、すぐそこまで来た。俺等が来た道から、ヒョイと顔のない巨人が姿を現した。体表は黒い。あれは、あれは、
「カレン!あれは魔物だ!このランプじゃ近づいてくる、逃げろ!」
俺とカレンは思い切り走り抜けた。あの巨大な魔物、でかい割にはかなり早い………!このままじゃ、追いつかれる!
落ちつけ、落ち着いて考えるんだ。何故アイツは顔がないのに、俺等を追うことができる………?どこかに目があるのか、それとも、何か触覚のようなもので俺等を感じているのか……?だとしたら、何を?
そうだ!ランプだ!これを消せば、アイツは俺たちを追って来れないはずだ!
「アデル!消しちゃダメ!」
カレンの声で俺はランプを消すのをやめる。カレンは続けざまに、足音に邪魔されないように大きな声で叫んだ。
「それを消したら、きっとあの大男も追って来れないでしょうけど、それだと魔物が来ちゃうわ!きっと、魔物たちはそれが目的なのよ!」
そうか………そうだった。ランプを消せば、ランプで近づけない魔物がやってくる。クソっ、詰んでるじゃないか!
魔物にそんな戦略的思考が出来たのか?否、出来るわけがない。となると、答えは一つ。
魔物を動かしている奴がいる……!
ふと、あの女性のことが頭に浮かんで、アデルは頭を振った。
そんなことは有り得ない。あんなに優しい人が、俺たちを殺すようなことを、するはずがない!
とりあえず、現状をどうにかするしかない。
「カレン、消すぞ!」
「え!?何言ってるの?消したら……」
「そんなことは分かってる!だけど、あんな巨人に潰されちゃお終いだ。弱い魔物と戦う方が、生き残れる可能性があるんだ!」
カレンが覚悟を決めたように頷く。それを合図に、俺はランプを消した。同時に、辺りが暗闇に包まれ、後ろで巨人が雄たけびを上げている。
暗闇に慣れた目で見ると、予想通り後ろから魔物が追いかけてくる。巨人と違って犬のような魔物なのだが、案外スピードはない。これなら………!
「キャッ!」
「カレン!」
カレンが転んだ。この暗闇じゃ、足元も見えない。クソっ…………!このままじゃ、カレンもオレも、死んじまう!
そう思った時だった。
辺りが淡い光によって光った。おかげで視力の戻った俺は、見覚えのある人を見つけた。
あの時の、あの人だった。
彼女はカレンに近づくと、カレンの足に手をかざした。転んで擦り剥いたらしい所が、だんだん塞がっていく。
次いで、彼女は魔物に近づいていった。危ない!と声をかけようとしたのだが、喉が枯れてうまく声が出せなかった。
彼女は、魔物を抱き、頭を撫でた。
「あの人たちを許してあげて。」
彼女がそう言うと、魔物は満足そうに鳴いて、暗闇の中に姿を消した。
「あ、の……時、の……!」
ようやく出せた声。ちゃんと伝わったか心配だったが、彼女は此方を見て微笑んでくれた。その微笑みは、この間のものと同じ、優しくて、どこか寂しそうな微笑み。
「この前の子ね。ここは危ないから、この娘を連れて早く帰った方がいいよ。」
自分のことを言われたカレンは一瞬肩を震わせたが、黒い髪の人を怪しむように睨んでいる。
「貴女、何者なの……?」
そういうと、黒い髪の人はカレンの方を向いた。そして近づき、カレンの前にしゃがみこんだ。
「私は、フレイヤ。ここに住んでるの。それだけ。」
そう言って、フレイヤと名乗った女性は立ちあがった。そして、暗闇の向こうを見つめる。
何かあるのかと、俺も向こうを見つめるが、暗闇しか見えない。すると、向こうから声がした。
「フレイヤ……。何故人間を助ける。自分の名を明かしてまで、女神の子が愛しいか?」
フレイヤの発する光があたるところまで来た声の主は、フレイヤと同じ黒い髪に黒い瞳の、二十歳くらいのローブを被った男だった。
「ギム、私は、彼らを殺してしまうのはどうかと思う。私たちと同じく、母から生まれたのだから。」
「しかしな、奴らはバルバドスを崇めている。我らの存在が唯一神に知れれば、それこそ母の努力は無駄になってしまう。お前の気持ちも分かるが、もう少し、非常になれ……フレイヤ。お前は優しすぎるのだ。」
俺とカレンは、ただ二人を見ていた。唯一神、バルバドス様を、彼らは嫌っているようだった。だとすれば彼らは、もしや悪魔なのだろうか?フレイヤは魔女なのだろうか?
「バルバドスも、きっとこの洞窟は突き止めているはず。確信はないだろうけど、私たちが生きながらえていることを、彼は知っている。」
ギムという男は顔を顰めた。
「やはり、バレているのか。確信がないというのが救いだが………。まぁ、お前のおかげでバルバドス等は此処に近づくことさえ出来ないだろうがな。
いい加減、我らと一緒にバルバドスを討たぬか、フレイヤ。もう、隠れて生きるのは疲れた。お前が協力してくれれば、きっと……!」
「………………」
フレイヤは、答えなかった。
「お前はやはり優しすぎる。我らがバルバドスに殺されてしまうのを恐れているのだろう。だがな、フレイヤ。恐れるだけでは、何も手に入らんぞ。……その人間はお前に免じて見逃すが、もう二度と来るなよ。」
俺とカレンはいきなり話を振られ、肩を震わせた。フンッと鼻を鳴らしてギムが帰って行った。
腰を抜かしている俺に、フレイヤが近づいてきた。
「さあ、赦してくれるらしいから、もう大丈夫だよ。家へお帰り。」
嫌だ。フレイヤに聞きたい事が山ほどある。フレイヤに見せたい物もたくさんある。フレイヤともっと話していたい。
……そして俺は気を失った。