おまけ
リサが無事出産したというので、頃合いを見て、ヒロとエドはオーサー邸へ向かった。
そこにはなんと、3台のベビーベッドと、そこに寝転がる3人の赤ちゃんだった。ヒロとエドはその光景に呆然とする。
「あら、いらっしゃい」
ソファーに座ってリンとダンと遊んでいたリサが、ヒロとエドに気がつくと、遊ぶのを中断してこちらをみた。ヒロはリサの方に近づいた。
「お加減はいかがですか?」
「もークタクタ。ほんとに壮絶な出産だったわよ…」
「さ、3人、ですものね…」
ヒロは、想像するだけで顔を青くする。ダグは、赤ちゃんたちをあやしながら、本当に頑張ったよね…!とリサに微笑む。
「リサのおかげで、わが家がまたいっそう幸せになったよ…!」
「はいはい」
リサはダグを軽くあしらいつつ、しかし幸せそうにそう返す。ヒロはそんな2人を見て微笑む。
エドは、リンとダンと一緒にベビーベッドに眠る赤ちゃんを順番に眺める。
「名前は決まったの?」
エドが尋ねると、決まったわよ、とリサが返す。
「ケイ、メイ、ユイよ。三つ子の女の子」
「わー、名前までかわいいですね」
ヒロはベビーベッドのそばに向かうと、静かに赤ちゃんをのぞき込んだ。まだまだ生まれたてでふにゃふにゃだけれど、溢れんばかりの愛らしさに、ヒロは自然に目尻が垂れる。
「お母様伝いに、お父様が見に来たいって言ってるらしいことを聞いたのよ」
リサは淡々と答えた。エドは、へえ、と呟く。
「で、どうしたの?」
「あの日のこととこれまでのことを謝ったら良いって言ったわ」
「それは…一生見に来られないだろうな」
エドが苦笑いを漏らす。リサは、ふん、と鼻を鳴らす。そんなリサを、まあまあ、とダグがなだめる。
「そういうなって。お義父さんみたいな人は謝りたくても謝れないんだから。態度もだいぶ変わってきたみたいだし、少しまゆを下げて申し訳なさそうな顔をしてたら、それでよしとしてあげなよ」
「…考えておく」
リサは、しかしツンと返す。ダグは、そんなリサに苦笑いを漏らす。
「そうだ、抱っこしてあげてよ」
リサはそう言うと、ソファーから立ち上がった。そして、ベッドに眠る赤ちゃんを抱き上げると、ヒロに近づけた。ヒロは恐る恐る首の座らない赤ちゃんを腕に抱いた。小さくて軽くて、でもずっしり重い赤ちゃんに、ヒロはまた、かわいい、と呟く。リサは、でしょう、と微笑む。手から伝わる命の熱を感じて、ヒロは心が温かくなる。赤ちゃんからは柔らかいいい匂いがした。
リサは、ほらエドも、と言うとエドにも赤ちゃんを抱かせた。緊張して固まるヒロと違い、慣れた手つきで赤ちゃんを抱くエドに、ヒロは驚く。
「じょ、上手ですね…」
「え?ああ…リンとダンが生まれたときも抱っこしていましたから」
何度もあやして、寝かしてやってたんだぞ、とエドはリンとダンに言う。すると、リンは不服そうにエドを見上げる。
「そんな、きおくにもないことでえらそうにされてもこまるわ」
「え、えらそうになんてしてない。君たちが可愛くて、だから可愛がってたって話だよ」
「おじちゃまもこんなにかわいかったじきがあったんだとおもうとふしぎだよね」
ダンの言葉に、ねー、とリンが同調する。エドは、ぐ、と口をつぐむ。リサが笑いながら、そうよ、と言った。
「エドも赤ん坊のときはものすごーく可愛かったんだから。今は見る影もないけど」
「…うるさいな」
「まあ、…前よりは可愛くなったかな」
リサはそう言って微笑む。エドは、え、と呟く。
「ヒロのおかげね」
リサはそう言ってヒロに微笑みかける。ヒロは少し目を丸くした後、嬉しそうに笑った。
リサたちと別れを告げて、ヒロとエドは馬車に乗り込んだ。
馬車に揺られながら、ヒロは、赤ちゃんを抱いた感覚を思い出す。そして、慣れた手つきで赤ちゃんを抱いていたエドと、いつも仲よさげに甥っ子と姪っ子と遊ぶエドのことを思いだした。
ヒロはかなり迷ったあと、勇気を振り絞って、あの、と向かいに座るエドに話し掛けた。エドは、はい、とヒロの方を見た。
「赤ちゃん、可愛かったですね」
「ああ、そうですね」
「ちいちゃくて、でも重くて、いい匂いがしました」
「そうですね」
「…」
「…?」
「その、…自分も欲しいなーとか、…思いましたか?」
ヒロの質問に、エドは少し目を丸くする。ヒロは慌てて、リンやダンとの関わりを見ていたら、こどもが好きなのかなと思って、と続けた。エドは、ああ…、と声を漏らした。
「俺は、あの日言ったことが本心です。あなたと一緒にいられるのならなんでもいい」
エドのまっすぐな言葉に、ヒロは胸をくすぐられるような気持ちになる。エドは、それに、と続けた。
「子どもが好きというか、リンとダンのことなら、彼らが俺を同レベルだと思っているんですよ。だからあんなふうに接してくるんです」
「ああ…」
「……前から薄々感じていたんですが、やはり俺のことを子ども扱いしていませんか?」
エドが疑わしそうにヒロの方を見る。ヒロは慌てて頭を振って、そんなことありません!と否定する。しかしエドは、まだ疑うような瞳でヒロを見たあと、小さくため息をついた。
「…もっと、大人の男になれるように努力します」
そう言ったエドの瞳をヒロは見つめると、ゆっくり微笑んだ。
「…そんなもの、ならなくて良いです。私はそのままのあなたが一番好きです」
エドは、ヒロの言葉に目を丸くすると、嬉しそうに微笑んだ。
「…やはり、俺のことは子どもだと思っているということでいいですか?」
「ち、違いますよ!言葉のあやというものです…!」
慌てて否定するヒロを見て、エドが嬉しそうに笑ったので、ヒロもつられて笑った。




