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最終話

「(…一体何がどうなっているの…)」


ヒロは、自身の20歳の誕生日パーティーが開かれる当日、自室でドレスに着替えようと思っていたら、なぜかハンナに別室に連れて行かれた。そこは、以前結婚式を挙げた時に新婦控室として使われた部屋であり、そこにはあの日着たウェディングドレスが飾ってあった。

ヒロが理由を聞く前に、ハンナや他のメイドたちが手際よくヒロにウェディングドレスを着せてしまった。ヘアーセットまで完璧に終わってから、ヒロは鏡で自分の顔を見た。あの日きちんと見られなかった、ウェディングドレス姿の自分がそこに映っていた。


「…」


ヒロは、綺麗に着飾ってもらえた自分を見つめる。そして、ゆっくり微笑む。ハンナたちは、笑顔を見せるヒロに嬉しそうに微笑む。

すると、ドアがノックされた。入ってきたのは、あの日と同じ白いタキシードを着たエドだった。ヒロは、その姿のエドに一瞬見惚れたあと、あっ、あの!とエドに詰め寄った。


「…今日は、私の誕生日パーティーだと聞いていたのですが、これは一体…」

「…」


エドは、ヒロの方を見たまま固まって何も言わない。怪訝に思ったヒロは両手をエドの目の前で振って、あの、聞いてますか?と声を掛ける。エドははっとすると、ヒロの目を見た。


「ごめんなさい、あなたがあまりにも綺麗だったから」

「……」


ヒロが恥ずかしさに固まる。エドはまたヒロの方をまじまじと見はじめた。ヒロは赤い顔のまま、あの!と再度呼びかけた。


「今日は私の誕生日パーティーじゃないんですか?これじゃあまるで結婚式です」

「ええそうです。あなたの誕生日パーティーの日に、結婚式のやり直しもしようと思ったんです」

「結婚式、の、やり直し…」


ヒロは意味が分からずにまた固まる。エドは、はい、と頷いて微笑んだ。


「前回はあんまりにも作業的でしたから。あなたときちんと夫婦になれたのだから、今度はしっかり挙げたいと思ったんです」

「だ、だからって、やり直しって…」

「そろそろ時間ですね。向かいましょう」


エドはそう言ってヒロの手を掴む。ヒロは、まだわけがわからないままその手に引かれて歩き出す。ハンナたちがそんな2人を微笑ましげにみつめながら、ヒロのドレスを持ち上げて補助をした。






式場の入り口である大きな扉の前に、ヒロは立った。2度目の結婚式という困惑により、緊張はそこまでしなかった。扉の奥からはパイプオルガンの音が聞こえる。開けますよ、という使用人の声の後、扉が開けられた。

扉の直ぐ側には、母の姿があった。ヒロは母と向かい合う。母はヒロの瞳を見つめると、優しく微笑んだ。


「またこんな機会があるなんてね」

「あ、あはは…」

「こんなに可愛いんだもの、たくさん幸せにしてもらって」


母はそう言うと、ヒロのベールに手をかけた。そして、ゆっくりとヒロの顔にかけた。ベール越しに見る母の、昔と変わらない優しい顔に胸の奥が優しく締め付けられる。ヒロは少しずつ目に涙がにじむのがわかった。ベールの奥で涙を流す娘を見た母は、もう、と言いながら自分の目にも涙を浮かべた。母はヒロを抱きしめた。ヒロは、母の腕の中でまた涙をこぼす。

母は、ヒロからゆっくり腕を離すと、目を見つめて頷いた。ヒロも頷くと、バージンロードを歩きはじめた。会場には、たくさんの人が参加していた。2回目でごめんなさい…と思ったものの、参列者は皆笑顔でいてくれた。

歩き出したすぐそこに父が待っており、彼は既に号泣していた。ヒロは驚きながら父に近づく。父は、おいおいと腕で目をこする。周りからは温かい笑いがこぼれる。ヒロは自分も泣きながら、しかし笑いながら父の腕をとり、一緒に歩き始めた。泣いている父と歩きながら、この人も昔からこんな温かい人だった、とヒロは思い出す。またあふれる涙を頬にこぼしたとき、壇上の前まで到着した。そこにはエドが立って待っていた。

父はまた涙を腕で拭うと、ヒロから手を離した。そして、優しい瞳でヒロを見つめた。ヒロはそんな父に微笑み返すと、エドの方を見た。エドは優しい笑顔でそこに立っていた。


「病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」


壇上に立つ者に、2人はそう尋ねられる。2人は一度顔を見合わせた後、また前を向き、はい、と返事をする。

色々なことがあった、とヒロは思う。以前こんなふうに結婚式を挙げてから、本当にたくさんのことが起こった。最初の結婚式の日の自分が聞いたら、驚くに違いない。約1年後、あなたはまた同じ人と結婚式を挙げて、しかも、そのときはきちんとその人のことを愛しているのだと聞いたら。

誓いの言葉が終わった後、ヒロはエドと向かい合った。ヒロは少し頭を下げ、エドはヒロのベールをゆっくり上げる。ヒロとエドは、お互いの瞳をまっすぐに見つめ合う。エドはヒロに優しく微笑みかけると、肩に手を置いて、ヒロにキスをした。あたかい拍手に包まれながら、ヒロとエドはまた見つめ合って、そしてお互い微笑んだ。




式の後は、庭でのパーティーだった。ヒロの育てた花に囲まれて、参列者たちがパーティーを楽しんでいた。前に植えたペチュニアは、色とりどりの花を咲かせて、綺麗に風に揺られている。


「ヒロ!」


マーガレットとアリスとウィルが、ヒロとエドの元へやってきた。マーガレットはヒロを見つめると、うん、と目を細めた。


「とっても綺麗よ」

「ええ本当に」


アリスも目を細める。ヒロは2人を見ると、ありがとう、と素直に微笑んだ。そんなヒロを見て、2人は嬉しそうに笑う。

ウィルは周りを見渡すと、あれ、と呟いた。


「アディントン侯爵もちゃんと参加してるじゃん。2回目の結婚式なんて馬鹿馬鹿しい、とか言いそうなものなのに」


ウィルの言葉に、エドは、確かに、と小さく笑う。


「あの人も、変わろうとしてくれてるんじゃないかな 

「なにその言い草。なにかあったわけ?」

「まあ、そのうち話すよ」

「城の仕事が君主担当になったからおかしいと思ってたんだよ」

「また話すって」


エドがそう繰り返すと、はいはい、とウィルは返した。


「エド、ヒロ!」


今度は、リサとダグ、それにリンとダンがやってきた。リンとダンは、エドに駆け寄ると、同時に飛びついた。エドは驚きながらも彼らを抱き上げた。


「おじちゃまおめでとう」


リンが照れくさそうにそう言った。エドは、ありがとう、と微笑む。

ダンは、ヒロの方を見て、おばちゃまもおめでとう、と言った。


「おばちゃま、とってもきれいだよ」

「ふふ、ありがとうございます」


ヒロが微笑むと、ダンは嬉しそうに笑う。エドは、そんな2人に少し眉を動かしつつ、しかしすぐに笑顔になった。

ダグが、いやあ、と笑った。


「やっぱ結婚式は感動するな!」

「そうよね。ヒロの誕生日パーティーでもあるんでしょう?おめでとう、ヒロ」


リサがヒロに微笑む。ヒロは、ありがとうごさいます、と微笑んだ後、リサのお腹を見た。


「お腹が大きくて大変なのに、参加してくださってありがとうございます…って、またさらに大きくなりましたね…!」

「そうなのよ、私もびっくりしてる」


リサはそう言いながら、大きなお腹を撫でた。タグは嬉しそうに、これはでかい赤ちゃん確定だぞ!と笑う。リサはそんなダグを見上げて笑う。


「また生まれたら会いに来てよ」

「はい、もちろん」


ヒロはリサに笑顔を返す。リサはヒロに微笑むと、エドの背中を音がなるほど叩いて、しっかりやんなさいよ、と言うと、リンとダンを連れて去っていった。ダグは、痛そうな顔をするエドを見て嬉しそうに笑った後、3人を追いかけていった。


「…あっ!」


マーガレットは、参加者の中からランドルフを見かけると、私行ってくる!と言うとそちらへ向かっていった。アリスは、まあ、と口元に手を当てて微笑ましそうに笑う。

しかし、マーガレットがランドルフのところへたどり着く前に、他の参加者の男性たちに呼び止められてしまった。マーガレットがしかたなく笑顔で対応して、切り上げようとするけれど、なかなかマーガレットは離してもらえない。困惑するマーガレットに気がついたランドルフが、マーガレットのそばに近づいて、しつこい男性陣からマーガレットを助けた。マーガレットは嬉しそうに目を細めてランドルフを見上げる。ランドルフは、恥ずかしそうにマーガレットから視線をそらす。


「うまくいってるみたいだね」


ウィルがうんうんと頷く。アリスも、ええ、とにこにこ笑顔で返す。ヒロも、嬉しくて口元を緩める。

エドは少し呆れたようにウィルとアリスを見る。


「君たちは本当に人の恋路の行方が好きなんだな」


エドの言葉に、アリスは笑顔で頬に手を当てる。


「あら、私たちに助けられてきた人がよく言いますわ」

「ほんとだよねー」


ウィルはじとーっとエドを見つめる。図星のエドはバツが悪そうに視線をそらす。ヒロは、本当にお世話になりました、と頭を下げる。

ウィルはエドとヒロを見て、小さく微笑む。


「こんな奴と結婚してくれてありがとう、ヒロ。末永くお幸せに」


ウィルはそう言うと、じゃあね、と手を振り、アリスと一緒に去っていった。その背中を見送りながら、こんな奴って…、とエドは小さく文句を言った。


「…今日はありがとうございます。最初は驚いたけれど、こうやってまた式を挙げられて、本当に良かったです」


ヒロはそう言うと、エドの方を見てお礼を言った。エドはそんなヒロを見つめて優しく微笑むと、ヒロに腕を回し、ヒロを抱き上げた。

突然のことに驚いて、ヒロは、わっ!と声を上げた後、エドの肩に抱き着いた。そして、肩に手を置いたままエドと目線を合わせた。エドはヒロを見上げて、また目を細める。


「世界で一番、あなたが綺麗だ」


エドの言葉に、ヒロは目を丸くする。


「世界で一番…は、ないとおもいます」


真面目に返すヒロを、エドは優しい瞳で見つめる。


「俺は心からそう思っています。だから言わせてください」


ヒロは、そう言ったエドを見つめながら、目の奥から熱い涙が溢れるのを感じる。目の前の人が、たまらなく愛おしいと思う。ヒロは幸せな気持ちで目を細めた。そのときに、瞳にこみ上げた涙がこぼれた。


「あなたがそう思ってくれることが、私にとって一番の幸せです」


ヒロはそう言うと、エドに抱きついた。エドはヒロに頬を寄せる。ヒロは笑顔でそれを受ける。

すると、周りから祝福の拍手や歓声があがった。ヒロはそれに気がつくと恥ずかしくなってきたけれど、しかし、まだエドと離れたくなかったから、照れた笑顔を浮かべたままエドを抱きしめた。








ここまで読んでいただきありがとうございました。いいねやブックマークもありがとうございました。とっても励みになっていました。

マーガレットが個人的に一番好きだったので、マーガレットとランドルフの話を王子と絡めて書きたいなと思っていたもののうまく本編に入れられなかったので、番外編とかで書けたら書きたいなと思います。

また新しいお話を書くことがあったら、読んでいただけたら嬉しいです。

お付き合いいただきありがとうございました。

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