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休み明けの月曜日、ウィルが城の事務室に向かうと、机に顔を伏せるエドの姿が見えたので、ウィルは後ずさった。ウィルは恐る恐るエドの隣の席に座り、顔を突っ伏し続けるエドの方を見た。


「(…あの無茶振り資料作りの翌日、落ち込んでるかと思ったら楽しそうに歌劇の案内を観ていた、かと思えば、休み明けに闇落ちしている…)」


ウィルは、状況が分からずに首を傾げる。エドはようやくウィルの存在に気がつくと、勢い良く顔を上げた。そして、ウィルの方を見て、おはよう、といつも通り返した。そんなエドにウィルは目を少し丸くした後、おはよう、と返した。


「…会議のダメージが時差で来たのか、休みの日に何かあったのか、どっち?」

「……俺を友人と思うなら聞かないでくれ」

「友人だなんて思ったことがないから教えて」

「おい」


エドはウィルの方を睨む。ウィルは両手を挙げて敵意のないことを示しながら、冗談冗談、と言った。

エドは小さくため息をつくと、自分の仕事に取りかかり始めた。ウィルはそんなエドの方を見たまま考え込んだあと、エドの顔を伺いながらぽつりと話し始めた。


「…日曜日に、女性と遊びに行ったけれど、うまくいかなかった」

「……」

「君とのデートを楽しまない女性か、誰だろう。いや、…ここ最近珍しく君の女性の噂を聞いていないな。遊びに行っている様子もない」

「……」

「そういえば君、前に奥さんに贈り物をしたとか言ってたな。もしかして、最近奥さんと仲良くしていた、もしくは、君が奥さんのことを気になってきていた」


エドの手が一瞬止まる。それを見逃さなかったウィルが、へー、と面白そうに呟く。


「なるほど、君の奥さん関係か」

「…やめてくれないか。君は探偵かなにかか」

「奥さんと歌劇を見に街へ出かけたけれど、それが上手く行かなくてへこんでいるのか。なるほど。まあそういうこともあるさ。アリスの友だちのヒロだろ?君が付き合ってきた女性と全くタイプが違うじゃないか。今度妹に彼女が何を好きか聞いてこようか?」

「ちがう、そこはぎりぎり上手く行ったんだ」


エドがムキになってウィルに返すと、゛そこは゛ね、とウィルは目を光らせる。エドはそんなウィルを見て口を噤むと、黙ってまた仕事を始めた。


「街へ出かけた後の話か、なるほどね」

「……」

「…まあそんなにへこむなって。拒否される日だってあるさ。仕方ないだろ」

「……」


反応しないようにしていたエドだけれど、図星を突かれてしまいまた手が止まる。ウィルに無言で肩を叩かれて、エドは勢い良くその手を払った。そのとき、事務室のドアがあき、ウィルの父であるスチュアート公爵が入ってきた。まん丸の体と顔の親しみやすい見た目をした男性で、見た目の通り皆に親しみやすい態度をとるけれど、家柄が高貴すぎるため、彼には皆わきまえた態度で接する。

エドは、スチュアート公爵に頭を下げた。ウィルは、父さん、と軽く彼に声をかけた。


「どうしたんですか?」


ウィルが尋ねると、いやあ、とスチュアート公爵は頭を掻いた。


「前の件で、エドが必要以上に落ち込んでいないかなって心配しててさ。兄さんも、エドに無理言ってしまったって落ち込んでいたから」

「(陛下のことを兄さんって呼ぶのか…)」

「叔父さん、エドのこと気に入ってるもんね」


ウィルの言葉に、ねー、とスチュアート公爵が同調する。エドが、そうなんですか、と不思議そうに返す。そんなエドに、そうだよ、まあ王子はエドのことを嫌ってるけど、とスチュアート公爵が笑顔で返す。するとウィルが、王子はもてる男全員敵対視してるから、と続ける。


「(え、王子に嫌われているのか俺は…)」

「実際、資料は良くできていたよ。…アディントン侯爵は怒っていたけど、陛下も含めて皆エドに感心してたから。だから、落ち込まないで」


スチュアート公爵が優しくエドに微笑む。相変わらず優しいスチュアート公爵に、エドは感謝の気持ちを持って、ありがとうございます、と頭を下げる。


「父さん、エドはもうそんなことで落ち込んでいませんよ」


ウィルがスチュアート公爵にそう話す。スチュアート公爵は、なんだあよかった、と笑う。するとウィルは、ひそひそとスチュアート公爵に耳打ちをした。ウィルの内緒話を聞いて目を丸くしたスチュアート公爵が、さっきよりも優しい顔でエドを見た。


「…大丈夫だよ、エド。私にも覚えがある話だから」

「おい、ウィル」

「さて、今日は会議があるんだった」

「おっと、私も」


スチュアート公爵とウィルはそそくさと事務室から出ていってしまった。エドは、2人が出ていったのを見たあと、はあ、と本日何度目かわからないため息をついた。

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