溶けた身体
ハナスは決意を固め、調査を依頼することにした。彼はまず、名前のない少年に「ハス」という名前を与えた。ハスはその名を何度も呟きながら、頬を紅潮させて喜びを隠せない様子だった。初めて自分の名前を持った彼の表情は、まるで新しい人生を手に入れたかのようだった。
「ハス……僕の名前だ」
彼はそう呟き、レナに笑いかけた。レナもその笑顔に応え、二人は互いに手を握り合った。ハナスはその光景を見て、胸が温かくなるのを感じた。
しかし、彼の心にはまだ重い課題が残っていた。ハスが語った「大きなトカゲみたいでブツブツしたもの」――人間を食べるという恐ろしい存在の正体を突き止めることだ。
調査を依頼するため、ハナスは仲間たちに声をかけた。すると、猫耳族のミーアとデルビアのコンビ、そして鳥人族のフィリアとアーリアのコンビが名乗りを上げてくれた。彼らはそれぞれの種族の特性を活かし、危険な任務にも果敢に挑む勇者たちだった。
「場所は定かではないが、恐らくソルゼ王国から北へ、魔王領がある間のどこかにあると思われる」とハナスは説明した。「まさに人間を閉じ込めて食用にするという、『人間牧場』だ」
その言葉に、ミーアとデルビア、フィリアとアーリアの表情は一瞬にして険しくなった。彼らはその残酷な現実に憤りを感じながらも、同時に使命感を強く抱いた。
「デルビアとアーリアという魔族の力を借りれば、発見するのも時間の問題だろう」とハナスは続けた。
「任せてぼっちゃん!」とミーアが力強く言った。「どんなに隠れていても、私たちが見つけ出してみせます」
フィリアも頷き、翼を広げながら言った。「その忌まわしい場所を、絶対に見つけ出しましょう」
ハナスは彼らの表情を見て、安心感を覚えた。彼は深く頷き、静かに言った。
「よろしく頼む。君たちの力に期待している」
ハスとレナは彼らを見つめながら、心の中で祈りを捧げた。
「どうか……無事でいてください」
夜が更ける中、ハナスは遠くの空を見つめながら、これから訪れるかもしれない困難な戦いに思いを馳せた。
荒野の真ん中で、風が砂塵を巻き上げ、空は重い雲に覆われていた。時は少し遡り、一匹のグリフィンが突然、力尽きるようにして地面に倒れた。その巨体が地面にぶつかる音が、荒野に響き渡る。
次の瞬間、グリフィンの腹が裂けるような音がして、雄たけびが上がった。その声の主は、グリフィンの腹から這い出てきた一人の男だった。彼の息は荒く、顔は怒りで真っ赤に染まっている。彼は周りを見回し、歯を食いしばりながら叫んだ。
「ここはどこだ!おのれ!ヒキガエルどもめ!」
男の名はレツヤ・サメジマ。彼の身体はほとんど解けかけていた。頭と上半身、右腕が辛うじて形を保っているが、それ以外の部分は溶け、地面に吸い込まれていくかのようだった。動くことすらできず、彼はその場で怒りに震えながら、再び雄たけびを上げた。
その時、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。砂塵の向こうから、馬に跨った集団が現れた。彼らは黒いマントを翻し、鋭い目つきでレツヤを見下ろした。
「お前は誰だ?」と、集団のリーダー格の男が冷たく問いかけた。
レツヤは歯を食いしばり、怒りに満ちた目で彼らを見つめた。「俺はレツヤ・サメジマだ!」
集団の男たちは互いに顔を見合わせ、軽く笑った。「レツヤ・サメジマ?勇者の名前なんぞ語りよって、大方病気のグリフィンにでも食われたか、こんな荒野でグリフィンの腹から出てくるとは……珍しいもんだ」
男が言うと、男の仲間が大笑いを始めた。
レツヤの怒りはさらに沸騰し、彼は必死に体を起こそうとしたが、溶けかけた身体は思うように動かない。「くっ……動け!この体め!」
集団のリーダーは馬から降り、レツヤの前に立った。「どうやら、お前は何者かに恨みでもあるらしいな。だが、ここは荒野だ誰も助けには来るまい。殺すよりも捨て置いてやる。運が良ければお前は助かるかもしれないな」
レツヤは必死に頭を上げ、男を見つめた。「くっ、偉そうに!次に会ったらおまえを星にしてやる」
レツヤサメジマは憎々しげに男を睨みつけた。
「綺麗な星にならなってもいいぞ」
男は言うと馬に跨り、目の前の溶けかけている男にじゃあな!と言った。
他の者達はまた大声をあげて笑い始めた。
荒野に再び静寂が訪れ、風だけが砂塵を運んでいく。馬に跨った集団は、何事もなかったかのように去っていった。
勇者の力が残っていれば、やがて再生するはずだ。でなければ死ぬ。レツヤサメジマは覚悟を決めたように倒れ、それを見上げた。
異世界の空は残酷に青く照り輝いていた。
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オレンジ




