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炊き出しをしよう

ハナスとリベットは、今日も今日とて市場調査のため、賑やかな城下町へと繰り出した。しかし、今日のメンバーはいつもと少し違う。


「テフロサ、お前は目立つからなあ……」


ハナスは、屈強な戦士であるテフロサを連れて行くのを少し躊躇していた。だが、テフロサ本人が「用心棒として絶対に行く!」と頑として譲らないため、渋々ながら許可することになった。


すると、テフロサの後ろから、小さな影がひょこひょこと隠れながらついてきていることに気づいた。それは、アリュゼ姫だった。テフロサがその首根っこを掴み上げると、アリュゼ姫は「うぅ……」と今にも泣き出しそうな顔をしている。


「仕方ないですね」


リベットは苦笑しながら、アリュゼ姫も連れて行くことに決めた。よく見ると、アリュゼ姫の細い腕には緑色の蔓が巻き付いている。これは、シルベアの転移場所を示すものだった。どうやら、アリュゼ姫はシルベアに護衛されているらしい。


「まあ、いいか」


ハナスはそう呟くと、目的の場所へと歩き出した。


今回の目的の一つは、新しく設置された通貨発行所だ。以前からあった空き家をリフォームして再利用したため、一か所の発行所で扱える金額は限られている。しかし、大きな取引がある際には、城から騎士が現金輸送を行うという手はずになっている。


ハナスは、街の様子を見ながら、通貨発行所の場所を確認する。新しい制度がどのように浸透していくのか、興味津々だった。


リベットは、市場を歩きながら、人々の様子を観察している。商品の価格、売れ行き、そして何より、人々の表情に注意を払っていた。


テフロサは、ハナスたちの周りを警戒し、何かあればすぐに動けるよう、常に気を張っている。


そして、アリュゼ姫は、テフロサに抱えられながら、きょろきょろと周りの景色を見つめていた。時折、巻き付いた緑の蔓に話しかけているようにも見える。


賑わう市場の喧騒の中、ハナスの目に飛び込んでくるのは、活気溢れる笑顔ばかりではなかった。ふと視線を落とせば、暗い影を落とすように佇む人々がいる。それは、紛れもない貧困の姿だった。


この世界では、生産効率の悪さが常に問題となっていた。技術的な遅れもさることながら、人々のスキル不足、そして何より、その数に見合うだけの仕事が存在しないという構造的な問題が、貧困を生み出していた。


ハナスが今、心血を注いで取り組んでいるのは、まさにこの現状を打破することだ。経済を活性化させ、効率的な生産システムを確立し、人々の数に見合うだけの職業を作り出す。それは単なる理想ではなく、実現可能な目標として、ハナスの心に強く刻まれている。


さらにハナスが目指すのは、病気などの理由で物理的に働くことができない人々も、貧困に苦しむことのない社会だ。ヴェルディア王国、サイノッテ王国、そしてソルゼ王国。この三つの国を舞台に、誰もが希望を持って生きていける、そんな未来を創造しようとしている。


「見て見ぬふりはできない」


ハナスは、市場の片隅で小さく俯く子供の姿を捉え、心の中で強くそう呟いた。貧困は、ただ見過ごせる問題ではない。それは、この世界が抱える大きな歪みであり、最も重要な課題なのだ。


ハナスは、賑わう市場の一角で、道端に一人佇む少年に目を留めた。その身にまとっているのは、擦り切れ、汚れきったボロボロの衣服。その姿は、この街が抱える貧困の現実を、痛いほどに物語っていた。


「一緒にご飯食べないかい?」


ハナスは、優しい声をかけながら、少年へと近づいていく。その顔には、一切の打算も警戒心もない、純粋な笑顔が浮かんでいた。


少年は、ハナスの突然の言葉に、一瞬、怯えたような目を向けた。見知らぬ人に声をかけられた警戒心、そして、もしかしたら裏切られるかもしれないという不安が、その小さな瞳に映っていた。


しかし、ハナスの曇りのない笑顔を見た瞬間、少年の心にほんの少しだけ、安堵の色が灯った。おずおずと立ち上がった少年だったが、次の瞬間、ハナスの後ろに控える、3メートルはあろうかという巨躯のテフロサに気づき、再び怯えの表情を浮かべた。


「大丈夫だよ、彼女はテフロサって言うんだ。とっても優しいから安心して」


ハナスは、少年に優しく語りかけると、テフロサの背中に隠れるようにしていたアリュゼ姫を指さした。


「ほら、彼女だって怖がってないでしょ?」


ハナスの言葉に、少年は恐る恐るテフロサを仰ぎ見た。その表情は、依然として不安の色を帯びてはいたが、先ほどのような警戒心は薄れていた。少年は、小さく頷くと、ハナスの顔をじっと見つめ返した。


「あの……」


少年の震える声に、ハナスは耳を傾けた。


「なんだい?」


「妹も連れてきていい?」


ハナスの問いに、少年は恥ずかしそうにそう答えた。


「いいよ」


ハナスは、迷うことなく快諾した。


その言葉を聞いた瞬間、少年の顔がぱっと明るくなった。希望の光が、その瞳に宿ったのを見て、ハナスは胸を熱くさせた。少年は、ハナスに背を向けると、どこかへと駆け出した。


ハナスは、少年の後を追いかけるように、アリュゼ姫とテフロサ、そしてリベットと共にゆっくりと歩き出した。少年が連れてくる妹はどんな子だろうか。どんな境遇で暮らしているのだろうか。ハナスの心の中には、様々な思いが渦巻いていた。


少年の後を追って進むと、目の前に現れたのは、蔦に覆われた不気味な建物だった。貴族が捨て去った空き家のようだった。ハナスは一瞬、その異様な雰囲気にたじろいだが、少年は躊躇なく、その建物の中へと入っていく。ハナスたちも、少年を追って建物の中へ足を踏み入れた。


中に入ると、そこはハナスが前世で見たテレビニュースの避難所によく似た光景が広がっていた。まるで体育館のような広い空間に、様々な種族の人々がひしめき合っていた。しかし、その場の雰囲気は、活気に満ちた市場とは正反対で、どこか重苦しく、皆が元気がない。あちこちから咳が聞こえ、中には明らかに病気に苦しんでいる人もいるようだった。


ハナスたちが呆然とその光景を見ていると、少年が妹の手を引いて戻ってきた。


「お兄ちゃん、妹のレナだよ」


少年がそう言うと、レナと名乗る少女は、痩せこけた体で、ハナスたちに挨拶をした。その痛々しい姿に、ハナスは胸を締め付けられた。


ハナスは、少年、レナ、そしてリベット、テフロサ、アリュゼ姫にも聞こえるように、はっきりと告げた。


「ここに食べ物を買ってきて、炊き出しをしよう」


リベットが、首を傾げながら尋ねた。「炊き出しって何ですか、坊ちゃん?」


ハナスは、微笑みながら説明した。「ここの庭で料理を作って、みんなで一緒に食べようってことだよ」


その言葉を聞いた瞬間、周囲にいた人々の目が、まるで暗闇に灯がともるように、キラキラと輝き始めた。


「食べ物があるんですか?」


人々は、希望を込めたまなざしで、ハナスに近づいてきた。


「待っていて、買い出しに行ってくるから」


ハナスは、人々を安心させるように笑顔で応えた。そして、少年とレナの頭を優しく撫でた。


「君たちも、待っていてね。たくさん食材を買ってくるから、みんなで食べよう」


ハナスの言葉に、少年は瞳を輝かせ、レナは顔を綻ばせた。その純粋な笑顔を見たハナスは、久々に前世の鍋を作ってみようかなどと考えていた。

いつもイイねをくださる優しい「あなた」ありがとうございます。イイねがあればそれだけ拡散されますし、ブックマークされれば、表示も増えてより沢山の人に読んでいただける可能性が広がります。作者のモチベーションが上がるのはもちろんの事、やっぱり単純に読んでいただけるのは嬉しいので、良ければイイねや、ブックマークよろしくお願いします。


オレンジ

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