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魔法陣

サイノッテ城の近くに広大な屋敷を与えられたものの、今は魔族のほとんどが、娘のテフロサまで遠征に出払っていた。そのため、テローサはサイノッテ城で寝泊まりしていた。幸い、テローサの姉の件以来、彼女は皇后マリエルからも、ユリ王女からも恩人として扱われている。


まだ薄暗い明け方、テローサが庭へ出ようと廊下を歩いていると、物音とガヤガヤとした人の気配がした。そちらに目をやると、ユリ王女が冒険者風の動きやすい格好で、騎士たちと共にどこかへ出かける準備をしている。テローサはユリ王女に近づき、声をかけた。


いくさかい? だったら手を貸すよ」


その声に、ユリ王女も騎士たちも振り返った。ユリ王女は少し驚いたように目を丸くし、すぐに笑顔を浮かべた。


「テローサ、いえ、違うのよ。ほら、あなたたちが隠れ家にしていた洞窟があるでしょう? あそこの地下に熱い海があったら大変だから、もう一度潜って確かめようと思って」


ユリ王女が言うと、テローサは顎に手を当て、少し考えるような仕草を見せた。


「あの洞窟が熱いのは当たり前だね」


テローサがそう言ったので、ユリ王女は首をかしげた。


「洞窟が熱いのは当たり前ってどういう事かしら?」


ユリ王女が尋ねると、テローサは一瞬考えた。


「なんだい、ユリ様は知らなかったのかい?」


「ええ、分からないわテローサ。良かったら教えてくれるかしら」


ユリ王女の言葉を聞いて、テローサは頷いた。


「洞窟の中に古びた魔法陣があっただろう」


テローサに言われて、ユリ王女はハッとした。そういえば、洞窟の奥にあった魔法陣を警戒して、ルシウスが皆に触るなと注意していた。その時は深く考えなかったが、今思えば異様な存在感を放っていた。


「あの魔方陣は古代のものだよ。あの魔法陣でこの土地を温かくしているんだ。恐らくだけど、魔法陣を消してしまったら、この土地は今ほど作物が実る土地じゃあないのかもしれないね」


テローサの言葉に、ユリ王女は驚きを隠せなかった。豊穣の大地とまで言われたサイノッテが、実はそうではなかったというのか?ユリ王女は頭の中で、サイノッテ周辺の地図を思い浮かべながら考えを巡らせた。サイノッテから少し行けば、カエルたちが暮らす獣人の村があり、さらにその先にはソルゼ王国がある。ソルゼ王国は不作の土地として知られ、カエルの村もどちらかと言えば農業には不向きな場所だ。もしテローサの言う通りなら、このサイノッテだけが特別に恵まれた土地ということになる。


「恐らく」


考えを巡らせているユリ王女に、テローサが言葉を重ねた。


「古代、ここにやってきた者たちが、不作の土地に魔法陣を描いたんだね。そして、温暖にして緑豊かにしていった。緑が豊かになると、自然に土も育つ。長い時間はかかるが一度そういうサイクルが出来上がると、土地は豊饒になるのさ」


まるで教科書を読み上げるように、テローサは淡々と説明した。ユリ王女は思わずテローサの目を見つめた。


「いったい誰が?」


ユリ王女は、テローサに問いかけるように聞いた。


「テローサ、あなたには分かる?いったい誰があの魔法陣を描いたのか?」


テローサもユリ王女を見つめた。


「ああいうものに詳しい民、そして森を豊かにすることに長けた部族と言えば、恐らくエルフだよ」


テローサは、静かにそう言った。その言葉は、まるで古代の謎を解き明かす鍵のように、ユリ王女の心に深く響いた。


エルフ族。森の民と呼ばれる、幻の長命種族。


「彼らがこの土地を作ったのなら、どうしてこの土地を離れたのかしら?」


ユリ王女の問いかけに、テローサは首を横に振った。


「そこまでは分からないよ。何かとんでもないことが起きて土地を手放したのか、それとももっと良い土地を見つけてそちらに移ったのか……古代に生きた私たちでも、エルフを見たのは数えるほどしかない。そうして、ここ数百年はまったく見なくなったね」


テローサの言葉には、古代の歴史の断片を語るような、どこか遠い響きがあった。ユリ王女は、その言葉の中に、歴史の深淵を垣間見た気がした。


「そうなのね、テローサありがとう」


ユリ王女は、そう言ってテローサの手を握った。


「だったら、あの洞窟の魔法陣が消えたり、消されたりしないように、あの洞窟を守る必要があるわね」


ユリ王女が言うと、テローサは深く頷いた。


「そうだね。魔法陣が消えたらどんなことが起こるか分からない。用心に越したことはないよ」


ユリ王女は、テローサの言葉に深く頷いた。自分たちが住むこの土地が、古代エルフの魔法によって守られている。その事実に、彼女は畏敬の念を抱くと同時に、この恵みを未来へと繋げていく責任を感じた。


「さあ、行きましょう。騎士たちにも伝えて、魔法陣の警備を強化しないと」


ユリ王女は、そう言うと騎士たちの方へ歩き出した。テローサもまた、ユリ王女の背中を追いかけた。

いつもいつもお読みいただきありがとうございます。少し仕事が忙しくなってきたので、書くペースが落ちてきました。出来るだけ頑張って書きたいのですが、今までのようなペースでは書けないかもしれません。なのでよろしくお願いします。変なあとがきになってしまいましたが、温かく見守っていただければ幸いです。

オレンジ

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