通じる心
「さて、どんな服が似合うかしら」
ハナフィサが鼻歌を歌いながら、リベットの体に服を合わせていると、リベットはものすごく恐縮して、ワナワナと体を震わせていた。
「あぅぅー」
とハナスが言葉を発すると、リベットは少し緊張を解いて、笑顔になる。
「私は、このままの格好でも大丈夫です奥様」
「あら、駄目よ、そんな汚れた格好じゃあ」
そう言って、ハナフィサはリベットに何着か着替えさせてゆく。
「うん、これも似合うわね」
そして、リベットの衣装が、10着ほど増えた。
「奴隷には身に余る待遇でございます奥様」
リベットが言うと、ハナフィサは腰に手を当ててリベットを見た。
「あら、あなたはもう奴隷ではないわよ」
言われて、リベットはぽかんという顔をしている。
「あなたは、奴隷から解放されたのよ、どう感想は」
「か、か、感想と言われましても、奴隷以外になったことはないので、これからどう生きてゆけばいいか」
「あら、ここに家があるんだから、ここで暮らせばいいじゃない」
そう言われてリベットは顔を赤らめて喜んでいた。ん?喜んでいるんだよな。
それから、ハナスはリベットの手を引いて、いや、手を引かれて、いや胸に抱かれて、浴場へと赴いた。
「あらリベット、どこへ行くの?」
ハナフィサが不思議そうに尋ねると、坊ちゃんが浴場の方へ連れて行ってって言ってるんです。
そう、話せないけど何故かリベットは俺の考えていることがわかるのだ。野生の勘ってやつだろう。それともリベットにはもともとテレパシーのような人の心を読む力があって、俺の近くにいることによって増幅しているのかもしれない。
浴場といっても、湯がなみなみと張っているわけではない。水浴びができる場所というだけだ、まあもっとも俺が大きくなったら、湯をなみなみと張れる湯舟を作るつもりだ。
リベットはハナスの服を脱がすと、自分も服を脱いで一緒に水浴びをした。これで、リベットの獣臭も消えるだろう。とハナスはうんうんと満足そうだ。
「坊ちゃんは水浴びが好きなんですか?」
リベットが表情を崩して言うと
ハナスは首を横に振った。
「本当はここに湯を張って、ゆっくりつかりたのだ」そういう意味を込めて「あううー」といった。
「はぁー?ここに湯を張るんですか?、坊ちゃんは面白いことを考えてるんですね」
思ったことが完璧に通じたのっでビビった。
そこでハナスはこう考えた。この調子なら喋れなくてもリベットに自分の代わりにいろいろ揃えてもらう事が出来るかもしれない。
ハナスはリベットに抱かれて、街へ繰り出した。
まずは市場調査だ。
ハナスにはとりあえず、なくてはならないものがある。そのうちの一つが、お風呂ではあるが、良い香りのするアイテムなんかも必要だ。差し当たっては、果物の香りなんかが良い。
以前暮らしていた世界には当然アロマオイルがあったし、ハナスはそれが大のお気に入りだった。
ハナスはリベットと共に市場に出かけた。彼は赤子の姿でありながら、頭の中には以前の記憶が生き続けていた。新しい世界での生活が始まったとはいえ、彼の心はまだ定まっていない。以前の世界では、貧困と孤独が彼の生活の中心だったが、ここでは愛情と自由を手に入れることができそうだった。