強いデルビア
ミーアは、少女が落ち着きを取り戻したのを見計らって、優しく問いかけた。
「それで、どうして追われていたの?」
ミーアの言葉を聞いた瞬間、少女の瞳に、みるみる涙が溜まっていった。そして、次の瞬間、堰を切ったように、大声で泣き始めた。
「お母さんが、さらわれちゃったーー!」
少女は、そう叫びながら、大粒の涙をこぼした。その小さな体は、悲しみと絶望に打ちひしがれているようだった。
ミーアは、少女の背中を優しくさすりながら、しばらくの間、その悲しみに寄り添った。デルビアもまた、静かに少女を見守っている。
少女は、少し落ち着きを取り戻すと、震える声で語り始めた。
奴らは、突然現れたのだという。そして、村の人々を、まるで家畜を連れていくかのように、片っ端から攫っていったという。少女の母親もまた、少女を逃がすために、自らが囮となり、奴らに捕まってしまったのだという。
少女の言葉は、悲痛だった。その小さな体は、恐怖と悲しみで、今にも壊れてしまいそうだった。ミーアとデルビアは、その悲惨な状況に、心を痛めていた。
「許せないわね!」
ミーアは、怒りを露わにした声でそう言い放ち、鋭い視線をデルビアに向けた。その瞳には、正義感と、沸々と湧き上がる怒りが宿っている。
「すぐ追いかければ、見つけられると思いますよ」
デルビアは、冷静な声で言った。
「行こう、デルちゃん!」
ミーアは、デルビアの言葉に目をキラキラと輝かせ、興奮した声で言った。
ミーアは、まず少女をデルビアの背中にそっと跨らせた。そして、自分もその後に飛び乗った。
「落ちないでくださいよ、飛ばしますから」
デルビアは、優しい声で少女に語りかけた。その言葉は、少女の不安を少しでも和らげようとする気遣いだった。
「えっ?えっ?」
少女は、突然の展開に戸惑いを隠せない様子で、デルビアとミーアを交互に見つめている。
そんな少女を、ミーアは優しく、そしてしっかりと抱きかかえた。
「もし怖かったら、目を閉じてるのよ」
ミーアが、少女にそう囁くと、次の瞬間、デルビアは、まるで雷光のように、素早く空へと飛び上がった。風が、二人の頬を撫でる。
「キャーーーーーー!!!」
少女の絶叫が辺りに響き渡った。
「大丈夫、しっかり抱きしめているから!」
デルビアの黒くしなやかな、それでいて力強い背に跨りながら、ミーアは少女に語りかけた。少女はまるで縋り付くようにミーアの服を掴み、ぎゅっと目を閉じている。風を切る音と、デルビアの翼が空壁を叩く音が、まるで心臓の鼓動のように響いていた。
「ねえ、あなた名前なんて言うの?」
ミーアは少女の恐怖を少しでも紛らわせたかった。
「……アンナ……」
風に掻き消されそうな、か細い声が返ってきた。その声は、まるで今にも消えてしまいそうなほど、小さく震えていた。
「アンナね? 可愛い名前ね!」
ミーアは風に負けまいと大きな声でそう言った。まるで太陽のような笑顔を浮かべている。アンナの肩が、ほんの少しだけ、力を緩めた気がした。
空をしばらく進むと、眼下に砂塵が舞い上がっているのが見えてきた。デルビアは背中に乗るミーアとアンナに声をかける。
「ほら、見えてきましたよ。あれがアンナの母上を攫った奴らですね?」
デルビアの言葉に、アンナはミーアにしがみつきながら、恐る恐る顔を眼下へと向けた。
「ひっ!」
あまりの高さに、アンナは悲鳴を上げ、さらに強くミーアに抱きついた。
「大丈夫よ、アンナ。私がしっかり支えてるんだからにゃあ」
ミーアは、以前リベットに教えてもらった「にゃあ」を語尾につけて言った。なんでも人族は、この語尾を聞くと顔が綻ぶらしい。使い方間違ってないかな?
アンナはギュッと目を閉じ、ミーアに必死にしがみついている。
(うーん、空の上では「にゃあ」は効き目がないみたい)
そろそろ砂埃の真上あたりまで来ると、攫われた人族を乗せる馬車と、それを囲むように走る馬の一団が見えた。
「あいつらね、全部で10人ほどかしら!?」
ミーアはデルビアに聞こえるように大きな声で言った。
「降りますか?」
デルビアがミーアに問いかける。
「私も何人かと戦えると思うけど、デルちゃん大丈夫?」
ミーアが心配そうに尋ねた。
「ミーアは、攫われた人の解放をお願いします。あの程度の人数なら私一人で大丈夫ですから」
そう言って、デルビアはミーアにウインクをした。
「すごいね、デルちゃん!」
ミーアは目を輝かせる。
「では、しっかり捕まって、降りますよ!」
背中の二人に気を配りながら、デルビアは素早く降下した。馬車の手綱を握っていた者たちを、尻尾で叩き落として地面に転がすと、そこへミーアとアンナをそっと降ろした。デルビアが横目で確認すると、ミーアはすでに走る馬車を難なく操縦していた。
さすがミーアね!
デルビアは小さく呟くと、次の目標を見定めた。馬に跨って走る、恐らく奴隷商人たち。彼らは馬上で剣やナイフを抜き放ち、臨戦態勢に入っていた。
「この化け物め!」
「化け物とは……」
高貴な魔族をつかまえて、、どちらが化け物か。お前たちのツラのほうが化け物だわ。
デルビアは小さくため息をつくと、素早く移動し、しなやかで大きな黒い羽と尻尾を使い、2、3人の奴隷商人を叩きのめした。
気配を感じて振り返ると、残りの奴隷商人たち、6人ほどが馬を止め、剣を構えている。デルビアは羽をたたんで地上に降り立った。
(逃げなかったのは偉いわね。せっかく攫った奴隷が惜しいか、バカ者どもめ)
デルビアは心の中で呟くと、右手を斜めに揺らした。すると、漆黒の槍がどこからともなく現れた。例の洞窟で、魔族が握りしめていた黒槍だ。今は、槍からぽたぽた滴り落ちるものはない。デルビアはその様子を見つめ、満足そうに頷いた。もう、魔力ダレは起こっていない。魔族の槍は魔力が弱いと、魔力ダレを起こして本来の力を発揮できないのだ。
「さすが、魔王さま……ハナス様。このみなぎる力、1000人相手でも勝てそうだわ」
(でも……ミーアたちの前だし、捕縛することにしますか?)
デルビアは震えながら剣を構える奴隷商人たちを睨みつけた。
「お前たち、ミーアに命を救われたな」
そう言うと、一瞬デルビアの姿が消えた……ように見えた。誰もその姿を捉えられなかった。次の瞬間、6人の奴隷商人たちは意識を失い、地面に倒れていた。
「すごいのですよーーーー、にゃあ!」
ミーアはそう言いながら、満足そうに倒れた奴隷商人たちを見下ろしているデルビアの隣に、馬車を操ってやってきた。
「デルちゃん、ほんと強いのね、にゃあ」
「ミーア、その取ってつけたような『にゃあ』は何ですか?」
デルビアが苦笑する。
「ほんと強いです。で、で、で、デルちゃん」
「アンナ、恐る恐る言わなくても大丈夫ですよ」
そう言って、デルビアは大きな手でアンナの頭をなでた。
私も、私も!
ミーアが言うので、デルビアは苦笑して、ミーアの頭をなでた。
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オレンジ




