追われる少女
風を切る音が、耳の奥で心地よく響く。ソルゼ王国の空を、かなりのスピードで飛び越えて少し経った頃、眼下に小さな村が見えてきた。
「ああ、村だね、デルちゃん!」
ミーアは、ピンと立った耳をぴくぴくさせ、目を輝かせた。
「この辺りの村は、ソルゼ王国と同じで、植物や果物も育ちにくい土地で、困っている人がいるかもしれませんね」
彼女の言葉は落ち着いているが、ミーアの好奇心を微笑ましく思ってるようだ。
「そうねぇ、なんだか緑が少ないもんねえ」
ミーアはデルビアの背にぴったりと張り付き、村の景色を食い入るように見つめた。
次の瞬間、ミーアの瞳が一瞬にして鋭さを増した。楽しげに景色を眺めていた彼女の視線が、一点に釘付けになったのだ。
「あれ、女の子が逃げているのね!」
ミーアは、まるで獲物を見つけた猫のように、興奮した声で叫んだ。眼下の村で、数人の男たちから必死に逃げる小さな影を捉えたのだ。
「私にも見えます」
デルビアは、ミーアの言葉に落ち着いた声で応えた。彼女の瞳もまた、逃げる少女と男たちの姿をしっかりと捉えている。
「何者か知らないけど、あの女の子怖がってるんじゃない?」
ミーアは、焦燥感を隠せない様子で言った。逃げる少女の姿は、明らかに恐怖に怯えているように見えた。
「そうですね、助けますか?」
デルビアは、静かにミーアに問いかけた。
「お願いデルちゃん!」
ミーアは即座に答えた。
「しっかり捕まって下さい」
デルビアは、ミーアに優しく告げると、大きく翼を広げた。そして、狙いを定めたように、一気に急降下を開始した。風を切る音が、先程までの穏やかな空気を切り裂き、耳をつんざくように響いた。
デルビアは、逃げる少女と追いかける男たちの間に、まるで天から舞い降りたかのように、見事な着地を決めた。砂煙が舞い上がり、周囲は一瞬、静寂に包まれた。
「えっ!」
少女は突然現れたデルビアに驚き、尻もちをついてしまった。その小さな体は、恐怖と混乱で震えている。
「なんだ!」
「おい、こいつ魔族じゃねえか?」
男たちは、突如現れたデルビアの姿に、驚きを隠せない様子で立ち止まった。警戒心をあらわにし、それぞれが武器に手をかけた。
ミーアは、いち早く少女に駆け寄り、その小さな肩を優しく抱き寄せた。
「大丈夫よ、安心して。助けに来たから」
ミーアは、少女を安心させるように、優しく語りかけた。
そして、ミーアは男たちの方を振り返った。その表情は先程までの優しさとは打って変わり、怒りに燃え盛っていた。
男たちは、3人。全員が剣やナイフといった武器を手にしている。村人というより、盗賊のようないで立ちだ。
ミーアは、男たちを睨みつけながら、牙をむき出し、爪を鋭く尖らせた。全身の毛を逆立て、威嚇するように「シャーーーッ」と唸り声をあげた。
「て、てめぇ獣人のくせに!」
男の一人が、ミーアの威嚇に怯みながらも、虚勢を張るように叫んだ。そして、剣を振り上げようとしたその時だった。
鋭く、しなやかなデルビアの尻尾が、まるで鞭のように空を切り裂き、男の顔面に叩きつけられた。男は、抵抗する間もなく、その衝撃で地面に叩きつけられ、意識を失ってしまった。
「ここは、お任せください、ミーア」
デルビアは、冷静な声でミーアに言った。
「ありがとう、デルちゃん!」
ミーアは、デルビアを見た。その瞳はキラキラと輝いていた。
デルビアが、逃げようとする男たちを、再び鋭い眼光で睨みつけた。その視線は、まるで獲物を捉えた猛獣のようだ。
「ひ、ひぃ!」
男たちは、デルビアの圧倒的な威圧感に完全に恐れをなし、我先にと逃げ出した。しかし、それはほんの一瞬の出来事だった。
デルビアの尻尾が、まるで意思を持っているかのように、空を切り裂いた。その軌跡は、あまりにも速く、そして正確で、男たちは為す術もなく、叩きのめされた。
ズン!と鈍い音が響き、二人の男は、抵抗することもできず、その場に崩れ落ちた。地面に倒れた男たちは、意識を失っているのか、ピクリとも動かない。
デルビアは、男たちが完全に戦闘不能になったことを確認すると、静かに尻尾を元の位置に戻した。その表情は、先程までと変わらず、冷静だった。
「凄いね、デルちゃん、ありがとう!」
ミーアは、満面の笑みを浮かべた。
そして、ミーアは少女の方を向き直り、「ほら、立って」と優しく声をかけ、その小さな手を引いて助け起こした。
少女は、わなわなと震えながら、なんとか立ち上がった。その目は、先程からずっと、巨大なデルビアの姿を捉えたままだ。彼女は、デルビアの翼や角、そして尻尾といった、人間とはかけ離れた姿に、畏怖の念を抱いているようだった。
「大丈夫よ、この子はデルちゃん。言っとくけど、私のほうがデルちゃんよりお姉さんだよ」
ミーアは言った。
「ミーア、私は815歳だって言っているでしょう」
デルビアが、静かに言った。
「そうそう、デルちゃん15歳で、私は17歳だよ」
ミーアは、デルビアの言葉に重ねて、茶目っ気たっぷりに言った。その顔には、悪戯っぽく笑みが浮かんでいる。
デルビアは、ミーアの言葉に軽くため息をつくと、その尻尾で、コツンとミーアの頭を撫でた。
「いて」
ミーアは、頭を撫でられた衝撃に、少しだけ眉をひそめたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
その二人のやり取りを見て、少女は戸惑いながらも、つられて少しだけ笑みを浮かべた。恐怖に支配されていた心が、ほんの少しだけ、安堵へと傾いた瞬間だった。
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オレンジ




