表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/114

魔族襲来!

ミストベールの農園の上空に、突如として異様な光景が出現したのは、本当に、つい、今しがたのことだった。黒い飛翔軍勢が、空に出現したのだ。農園を預かる獣人、ドワーフ、人族たちは、その異様な光景に息を呑み、反射的に戦闘態勢を取った。畑仕事の手を止め、武器を握りしめる者、魔法の詠唱を始める者。それぞれが、迫りくる未知の脅威に備えた。


鳥人族の娘、フィリアは、その鋭い眼光で空を凝視していた。獲物を狙う猛禽さながらの視線は、黒い影の一つ一つを捉えようとしている。彼女の表情が、緊張で引き締まっていく。


「あっ!」


突然、フィリアは声を上げた。その声は、小さな悲鳴のようにも聞こえた。


「どうした!あれはいったいなんだ!」


獣人族の屈強な戦士、レオが、焦燥を滲ませた声でフィリアに問いかけた。レオは、大剣を構えながら、空を見上げている。その表情は、明らかに困惑の色を帯びていた。


「ま、ま、魔族です……!」


フィリアは、震える声で答えた。その言葉は、まるで氷のように冷たかった。


「なに?」


レオは、思わず間抜けな声を上げた。魔族。それは、かつて恐れられた北の悪魔、忌まわしき存在の名前だった。


「飛んでるのは魔族です!間違いない!」


フィリアは、もう一度、声を大にして叫んだ。その言葉には、確信と、そして、恐怖が込められていた。


「なんじゃと!」


今度は、ドワーフの老戦士、ソーンハンマーが、その太い腕を振り上げ、声を荒げた。その手には、使い込まれた戦槌が握られている。


「魔族だと!?そんな馬鹿な!」


ソーンハンマーの顔には、怒りと動揺が入り混じっていた。かつて、魔族との戦いで、多くの仲間を失ったと先祖から伝わっていた話があった。その記憶が、今、鮮明に蘇っていた。


黒い影は、ゆっくりと、だが着実に、ミストベールの農園に迫りつつあった。農園の静寂は破られ、緊張と不安が、その場を支配していた。



魔族の群が、迫りくる中、ミストベールの農園を守るべく、人間と獣人族の混成部隊が、弓矢を構えていた。緊張が極限まで高まる中、弓の弦がピンと張り詰められ、今にも放たれんとしていた。


その時だった!


「まってーーーーーーー!」


「まちなさーーーーーい!」


不意に、上空の魔族の群れから、けたたましい声が響き渡った。その声は、悲鳴にも似た必死さを帯びていた。


皆が驚き、顔を上げると、一匹の魔族が、まるで黒い矢のように、驚異的なスピードで弓矢部隊に向かってきているのが見えた。その巨体は、一瞬で目の前に迫ってくる。


「まつのよ!」


「撃っちゃだめよ!」


さらに声は続いた。よく見ると、その魔族の巨大な背中に、何かがしがみついているのが見えた。その何かが、必死に叫んでいるようだ。


「あ!」


再び、鳥人族のフィリアが声を上げた。彼女の目は、空にいる魔族の背に乗る人物を捉えていた。その表情には、驚きと、そして少しの安堵が入り混じっていた。


「魔族の背中に乗ってるのは、リベットお嬢です!」


フィリアの叫び声に、周囲の者たちは驚いた。まさか、リベット嬢が魔族の背に乗っているとは、誰一人として想像だにしていなかった。


その場にいた全員が、驚愕と混乱の色を隠せない。弓を構えた腕は、今まさに放たれる寸前で、完全に静止していた。


魔族は、農園の住人たちが固唾を呑んで見守る中、その只中に、まるで舞い降りるかのように優雅に着地した。着地の衝撃は微塵もなく、音もなく、その巨体は静かに、しかし確実に地面を踏みしめた。黒い翼は、まるで美しい折り紙のように、滑らかに折りたたまれ、その姿は、威圧感だけでなく、どこか神々しささえ感じさせた。


魔族の背から、リベットが丁寧に降ろされると、彼女は少しだけ乱れた髪を払い、その顔にはいつもの柔らかな笑顔が浮かんでいた。


「お、お嬢……」


レオが、戸惑いを隠せない様子で、リベットに声をかけた。彼は、リベットがまさかこのような形で現れるとは、想像すらしていなかっただろう。


リベットは、レオの顔を見ると、にっこりと微笑んだ。


「みな、ごめんね。驚かせてしまって」


リベットが申し訳なさそうに言うと、農園の住人たちは、彼女が無事だったことに安堵し、胸をなでおろした。先程までの張り詰めた緊張感は、わずかに和らいだ。


魔族の軍勢は、依然として空中でホバリングを続けていた。彼らは、主であるリベットが地上に降りた後も、静かに、しかし確実に、農園の様子を見守っていた。


リベットは、空を見上げると、その優しい瞳で魔族たちを見つめた。


「みな、ここへ降りてきてちょうだい」


彼女がそう言うと、魔族の軍勢は、まるで合図があったかのように、次々と地上へ降り立ち始めた。その巨体からは想像できないほど、着地は静かで、彼らは翼を優雅にたたんで、リベットの周囲に整然と並んだ。


農園の住人たちは、目の前で繰り広げられる光景に、ただただ圧倒されていた。恐怖と混乱が入り混じる中、誰もが言葉を失っていた。


「お嬢、これはいったいどういう事で?」


レオは、混乱しながらも、勇気を振り絞って、リベットに問いかけた。


リベットは、レオの問いに、またにっこりと微笑んだ。その笑顔は、どこまでも優しく、そして少しばかり、いたずらっ子のような輝きを帯びていた。


「坊ちゃんのお使いで来たのよ」


リベットは、言った。


「魔族を連れて???」


住人たちの頭は混乱を極めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ