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新事業

灼熱の溶岩が噴き出すかもしれない危険な洞窟に、魔族たち総勢72名を留めておくわけにはいかない。ユリ王女は、一旦洞窟調査を後回しにし、魔族たちの引っ越しを決断した。向かう先は、サイノッテの城下町。少々強引な気もするが、ユリ王女には勝算があった。魔族たちがハナスを魔王と崇め、絶対的な忠誠を誓っているのならば、危険はないはず。そう、彼女は判断したのだ。


ユリ王女は、ハナスと魔族たちを伴い、城下町へと続く道を歩き始めた。城門が開かれると、そこには驚きと戸惑いの表情を浮かべる人々がいた。まさか、魔族たちが大挙してやってくるとは、誰も予想していなかったのだ。


「皆さん、驚かせて申し訳ありません。ですが、どうかご安心を。彼らは皆、この少年ハナスくんを魔王と仰ぎ、この街に危害を加えることはありません」


ユリ王女は、落ち着いた声で人々に語りかけた。その言葉に、人々は半信半疑ながらも耳を傾ける。ハナスは、ユリ王女の横で静かに佇んでいた。魔族たちは、彼の背後で忠誠を示すように跪いている。その異様な光景は、人々に畏怖と同時に、興味を抱かせた。


魔族たちは、城下町の一角に用意された仮住まいに落ち着いた。最初は警戒していた人々も、魔族たちがハナスに従順に従い、大人しくしている様子を見て、徐々に打ち解け始めた。子供たちは、魔族たちの角や尻尾に興味津々で近づき、魔族たちもまた、子供たちに優しい眼差しを向けるようになった。




サイノッテ王城の一室に、ハナスの大きな声が響き渡った。


「これは出来るかもしれない!」


リベットは持っていたペンを落とし、ユリ王女は読みかけの書物を閉じ、シルベアは持っていたお茶を吹き出しそうになり、アリュゼは目を丸くし、ネグジェは持っていたクッキーを落とし、そして、魔族の娘テフロサは、大きな瞳をさらに大きく見開いて、ハナスを見つめた。


「なんですか坊ちゃん、大きな声で」


リベットは、床に落ちたペンを拾いながら、呆れたように言った。


「ほんとう、あほうだなハナスは」


シルベアは、口元を隠しながらクスクスと笑った。


「精霊様は口が悪いのね」


ユリ王女は、シルベアを軽くたしなめながら、優しく微笑んだ。


「ハナス様、何ができるのですか?」


テフロサは、期待を込めた目でハナスを見つめた。彼女は、全身を覆う漆黒の魔法の衣を身につけている。その姿は、まるで物語に出てくる魔女のようだった。特に、黒く艶やかな衣の質感は、まるで映画に登場する魔女のようだ。


ハナスは、皆の視線を集めると、少しだけ照れくさそうに頬を掻いた。そして、改めて、力強く言った。


「あのね、魔族のみんなに手伝ってもらったら、通販事業が出来るんじゃあないかと思ったんだ!」



ハナスの発言に、ざわめきが収まらない部屋の中で、さらにハナスが口を開いた。


「皆がもっと便利になるような……えっと、通販事業をやってみたいんだ!」


その言葉に、ユリ王女は首を傾げた。


「つうはん事業……? 聞いたこともないですね」


ユリ王女は、眉をひそめて、ハナスを見つめた。それは、聞いたことのない言葉に、純粋に疑問を抱いている表情だった。


「つうはんじぎょう、ですか……?」


アリュゼもまた、不思議そうな顔でハナスを見つめた。その表情は、今まで聞いたこともない言葉に、戸惑っているようだった。


「坊ちゃんの事だから、きっと優しい事業ですよ!」


リベットは、満面の笑顔でハナスを見つめた。彼女の表情は、ハナスが言うことなのだから、きっと素晴らしいものに違いないと、期待に満ち溢れていた。


テフロサは、ハナスの言葉に、まん丸な目をさらに大きく見開いた。その瞳は、キラキラと輝きを増し、まるで宝石のようだった。彼女は、ハナスの一挙手一投足を見逃すまいと、じっと見つめていた。


ハナスの口から飛び出した「通販事業」という言葉は、この部屋に集まった全員にとって、初めて聞くものだった。誰もが、それが一体何なのか、想像もつかなかった。だが、ハナスが言うことなのだから、きっと何か面白い、あるいは、画期的なものに違いないと、それぞれが期待を抱いていた。



ハナスは、少しばかり混乱した様子で、言葉を重ねた。


「えーーーと、つまり通信販売って、この場合通信で販売するわけではないから、通販とは言わないのか?宅配販売?みたいな感じかな???」


ハナスは、頭を抱えながら、ぶつぶつと呟いた。彼の言葉は、どこか要領を得ず、聞いている者はますます混乱していくようだった。


その時、シルベアが、ハナスの頭をペシッと叩いた。


「いた!」


ハナスは、思わず声を上げた。


「一人でごちゃごちゃ言ってないで、早く説明しろ!」


シルベアは、呆れたように、ハナスに言った。


すると、今度はリベットが、シルベアの頭をペシッと叩いた。


「いた!」


シルベアは、またしても声を上げた。


「坊ちゃんがあほうになったらどうするのよシルベア!」


リベットは、シルベアを睨みつけながら言った。


「リベットは手加減を知れ!」


シルベアは、リベットを睨み返しながら、頬を膨らませた。


「おお、いててて」


シルベアは、叩かれたショックで顔を真っ赤にしていた。リベットの容赦のない一撃は、かなり痛かったようだ。


アリュゼがそっと近づき、シルベアの頭を優しくなでてくれる。


ハナスの説明が、ますます混沌とする中で、シルベアとリベットの小競り合いが始まった。その様子を見て、ユリ王女は思わず苦笑いした。


一方、テフロサは、目を輝かせながら、この騒動を面白そうに眺めていた。彼女にとって、この場にいる全員が、興味深い存在だった。



ハナスは、少しだけ咳払いをして、改めて説明を始めた。


「つまりですね、ハナスオイルやドワーフの作った家具や便利品、農園の野菜や果物、ヴェルディア国の特産品やサイノッテ王国の特産品などを、魔族さんたちの翼を使って遠くにいても家まで配達してもらえるサービスを開始しようと思うんだ。」


ハナスの言葉に、テフロサの目がますますキラキラと輝いた。


「魔王様の事業に、我々がお役に立てるんですか!」


テフロサは、興奮したように身を乗り出して言った。彼女の表情は、喜びと期待に満ち溢れていた。


ハナスは、頷いた。


「そうだね、族長さんのサエラさんも、我々に何か仕事がないでしょうか、ご飯だけ施してもらうのは申し訳ないと言っていたし、ちょうどいいと思うんだ」


ハナスの言葉に、ユリ王女は感心したように言った。


「凄いことを考えたわね」


ハナスの発想力と、それを具体的な計画に落とし込む手腕に、ユリ王女は素直に感嘆した。


「それは、体を悪くした老人の家にも、障害を持ってしまった者の家にも荷物を届けてくれるってことですよね坊ちゃん」


リベットは、嬉しそうに言った。


「ほら、やっぱり坊ちゃんは優しい!」


リベットは、得意げな表情でシルベアに胸を張った。


「なぜ、ボクにハナスの自慢をする」


シルベアは、リベットの態度に納得がいかない様子で、腕組みをした。


ハナスの言葉は、単なる思いつきではなく、社会的な意義も持ち合わせている。それは、弱者や困難を抱える人々にも、等しく恩恵をもたらす可能性がある。ユリ王女は、ハナスの提案が、この世界をより良いものに変える力を持っているかもしれないと感じた。

テフロサは、ハナスの計画に胸を躍らせ、自分たちがその一翼を担えることに、大きな喜びを感じていた。彼女は、今一度魔王様を尊敬の念で見つめるのだった。

リベットは、ハナスの優しさを改めて確信し、自分の主君を誇らしく思った。

シルベアはハナスの記憶がのぞけるので知っている。〇〇宅急便や、〇〇通販、宅配食など、ハナスの元居た世界では沢山の便利なものがあった。そこに魔族の翼を使うとはなかなかやるもんだ。シルベアはひとりにっこりと微笑んだ。

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