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魔王誕生

よく見ると、あの女型の魔族は、たぶん少女と呼べる年頃で、まだ若い整った可愛らしい幼い顔をしている。けれど今は、枯れ草の上に体を横たえ、ぐったりとしている。先程の威勢は、見る影もない。


「お父様から、魔族は恐ろしいと聞いていたけど……」ユリ王女は、辺りでぐったりとしている魔族たちを見渡しながら、誰にともなく呟いた。「こんなに弱った姿を見せられると、複雑な思いね。」


「それに、話してみると、言葉も通じるのね。」彼女は、驚いたように付け加えた。


ユリ王女の言葉に、ラウラが反応した。「私は、素材集めに各地を転々としまして、北方の魔族とも何度か会いましたが、魔族にも良い者と悪い者がいて、我々と同じだと感じました。」


ラウラの言葉を聞いて、ユリ王女は「そうね」と小さく頷いた。彼女の表情には、魔族に対する先入観が、少しずつ変化していく様子がうかがえた。


その時、耳に飛び込んできたのは、楽しげな「えいえい」という声だった。


声のする方へ視線を向けると、そこにはシルベアがいた。彼女は、一匹の魔族のオスを指先でつついて、遊んでいる。魔族のオスは嫌そうな顔で、シルベアから逃れようともがいていた。


「もう、大精霊様!からかっちゃかわいそうでしょ!」


アリュゼ姫がシルベアを叱りつけた。シルベアは、少しばかり残念そうに手を止めたが、その顔には悪戯っ子の笑みが浮かんでいる。


一方、セルフィーヌとエイラは、魔族のオスを興味津々といった様子で見つめていた。


「我々も長く冒険者をやっているが、魔族をこんなに間近で見るのは初めてだ」


セルフィーヌが呟いた。エイラもそれに同意するように頷いた。魔族は強敵で恐ろしく邪悪な生き物というのが常識だが、目の前にいる実体は生命力を失いつつある。彼女たちにとって驚き以外の何物でもなかった。


そしてユリ王女は、何気なく、何やらガサゴソと音を立てているハナスとリベットに目をやった。


「何やってるの、二人とも?」


彼女が尋ねると、ハナスとリベットは、手慣れた様子で肉を切り分けていた。


「それ、予備に持ってきたシャドウ・ウルフの肉ね?」エイラが言うと、リベットが、切り分けたばかりの肉を両手に持って、こちらにやってきた。


「そんなものどうするの?食べるの?」ユリ王女が驚いて尋ねると、「魔物の肉は魔素を含んでるらしいから、これで魔素補給できるんじゃないかと思って」と、ハナスが答えた。


その言葉を聞くと、魔族の老婆が首を横に振った。「駄目じゃ、駄目じゃ。魔王領の魔物ならいざ知らず、ここらの魔物は、魔素が少なくても生きていけるように変化したものじゃ。その肉に、我らの身体を維持できるほどの魔素なんてありはせん」


老婆が言うと、リベットが持っている肉に向けて、ハナスが手をかざした。「だから、こうやって試してみるんですよ!」


そう言うと、ハナスは、増幅の祝福をリベットの持つ肉に送った。


リベットの手の中で、肉は一瞬、オーロラ色に輝いた。


「坊ちゃんって優しいですよね?」リベットがユリ王女に微笑む。


ユリ王女も微笑み返した。


「なるほどな」


ルシウスが納得したように声に出した。



「さあ、おばあさん。騙されたと思って、この肉を食べてみて」ハナスがそう言うと、老婆の顔色が変わった。


「この肉は……何とも、魔素の強い良い匂いがするのう」彼女は、肉をじっと見つめながら、そう呟いた。そして、意を決したように、その肉を一口かじった。


「おお、これは……何とも、力が漲ってきよる!」老婆は、驚きと喜びの入り混じった表情で、そう叫んだ。


その頃にはもう、ぐったりとしていた魔族たちが、次々と起き上がって、リベットの持つ肉のところに集まってきていた。


「何ともいい匂いだ」

「私にも、肉をください」

「俺にも、分けてくれ」


魔族たちは、先程までの虚ろな様子はどこへやら、今や、魔素が増幅された肉に群がり、まるで飢えた獣のように貪り始めた。彼らの目には、生きる力が再び宿っていた。



「これは、魔王領でとれたシャドウウルフの肉ですか?」

「いや、こんな良質な魔素の肉、魔王領でもなかなかお目にかかれないぞ!」

そんな声が、魔族たちの間で飛び交った。


見ると、魔族の身体は、先程までよりも明らかに大きくなり、皆、体の色つやも、目に見えて良くなっていくように見えた。まるで、枯れかけていた花が、再び水を得て咲き誇るかのようだ。


「ああ、力が漲るわ」

「久々ね、こんな感覚!」

「今なら、勇者にだって勝てるような……!」


そして、老婆だった魔族は、その姿を大きく変貌させていた。いや、もはや彼女は老婆ではない。外見だけで言えば、美しい女性と呼べるほどに若返っていた。その瞳は力強く輝き、肌にはハリと艶があった。


「これは……この力は……!」美しい彼女は、立ち上がり、涙を流しながら言った。「魔王様が居た時に祝福を与えてくれた時と、匹敵する力ぞ!」


彼女の声は、喜びと感動に震えていた。その言葉は、洞窟内に響き渡り、他の魔族たちの心を揺さぶった。



「娘さん、これは……この力は、どういうことだい?」美しい魔族の彼女が、リベットに尋ねると、リベットは胸を張った。


「これは、ここにいるハナス坊ちゃんの力なのです。坊ちゃんの力は偉大なのです!」リベットは、まるで自分のことのように誇らしげだ。


次の瞬間!


魔族たちは一斉にひざまずき、ハナスの前にひれ伏した。その光景は、まるで何かの宗教儀式のようだった。


「魔王様!おかえりなさいませ。我らは、あなた様の忠実なしもべ。今度こそ、あなた様を必ずお守りしてまいります」


そう言ったので、ハナスは「ええええええええ!」と、間抜けな声を上げた。


予想もしていなかった展開に、ハナスは完全に閉口してしまっていた。事態が急展開しすぎたため、何が起こっているのか理解が追いついていないようだ。


「ま、まおうさま......。」先ほどの幼い魔族の娘がキラキラした目でハナスを見つめていた。


俺、魔王になっちゃったよ。

現実は小説よりも奇なりってか。


シルベアがハナスの隣りに来ると、肩をポンポンと叩いた。

「ハナスが魔王なら、魔王領もハナスのものか?」

そう言って笑った。


「ハナス様って、魔王様だったの!」アリュゼ姫が目を丸くして驚いている。

この子天然なのか?


「魔王様の父親ってのは複雑だよ.......」

ルシウスも苦笑するしかなかった。

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