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ただの過保護なお父さん

翌日、サイノッテ王国の王城広間は、まるで異質な空気に包まれていた。ユリ王女が身につけていたのは、普段の華やかなドレスとはかけ離れた、本格的な冒険者装備だったからだ。


「まるで、どこかの凄腕冒険者みたいですね!」


ハナスが思わずそう言うと、ユリ王女はいたずらっぽく微笑んだ。「ありがとう、これでも冒険は好きなのよ」


その言葉に、ハナスが内心で感心していると、背後から声が聞こえた。「私も見て、ハナス君!」


振り返ると、そこには小さな冒険者の格好をしたアリュゼ姫が立っていた。可愛らしい革のブーツ、動きやすいズボン、そして小さなリュックサック。その姿は、まるで絵本から飛び出してきたようだ。


「本当にアリュゼ姫も行くんですか?」


ハナスが驚いて尋ねると、アリュゼ姫は胸を張って答えた。「当たり前です!」


「お姫様は、行くって言ったら聞かないんだから……」


困った顔で現れたのは、シルベアだった。彼女の言葉には、アリュゼ姫の頑固な性格への諦めが滲み出ていた。


さらに、ハナスは奇妙な姿のリベットに目を留めた。彼女の顔には、まるで異様な毒ガスマスクが装着されている。


「どうしたんだ、そのマスク?」


ハナスが尋ねると、リベットは少し照れくさそうに答えた。「ユリ王女様が貸してくれたんです。兵士たちが臭気を出す魔物を退治するときに使うマスクなんですって」


なるほど、とハナスは納得した。さすがサイノッテ王国の騎士が使う装備、臭気マスクまであるとは。




「さて、皆、準備は万端かな?」


その声と共に現れたのは、ルシウスだった。ハナスは思わず声を上げた。「父さん!」


ルシウスは微笑むと、ハナスの頭を優しく撫でた。その温かい手に、ハナスは安心感を覚える。ついでに、ルシウスはリベットの頭もぽんぽんと撫でた。リベットは、その予期せぬ優しさに、でへへへとだらしなく笑っていた。


「父さんも行くの?」ハナスが尋ねると、ルシウスは当然だと言わんばかりに頷いた。


「当たり前だ。お前たちの護衛を、人に任せてはおけないからな」


その言葉に、ハナスは胸が熱くなった。頼れる父の存在は、すべての不安を吹き飛ばしてくれる。


そこへ、ラウラとリリスも現れた。ハナスは驚いて声を上げた。「あれ?ラウラさん、リリスさん!」


魔法使いのラウラは、にやりと笑いながらハナスに言った。「よう、ハナス。地底調査なんて、貴重な鉱物があるかもしれないからな。私もついて行ってやる」


ラウラらしい、好奇心に忠実な理由に、ハナスは苦笑する。


「リリスは?大丈夫?」


今度はリベットが、心配そうにリリスに尋ねた。リリスは少し頬を赤らめながら、モジモジと答えた。「私も、その、興味があって。ルシウスさんもいるし、守ってもらえるかなって……」



その賑やかな空気に、さらに新しい風が吹き込まれた。現れたのは、見慣れない二人の女性、エイラとセルフィーヌだった。


ハナスは、ラウラとはまた異なる雰囲気を持つ二人に、少しドギマギした。


「魔法使い繋がりでな、同行させてもらおうと思ってな」


セルフィーヌが、どこか気さくな口調で言った。その言葉に、ハナスは「なるほど」と納得した。魔法使い同士、何か通じ合うものがあるのだろうか。


「魔法使いってね、暗くてジメジメしたとこが好きなのよ」


エイラがクスクス笑いながらそう言うと、セルフィーヌは苦笑した。


ハナスの目を奪ったのは、二人が身につけている装備だった。それは、これまで見てきた冒険者たちのものとは一線を画す、使い込まれた風格を漂わせていた。本物の冒険者が身につける革の胸当てや籠手、そして腰に下げられた剣。それらの道具は、長年の冒険で傷つき、磨かれてきたかのような、独特の存在感を放っていた。


「すごい……」


ハナスは思わず呟いた。目の前にあるのは、絵空事の世界ではなく、現実の冒険者が使う本物の道具なのだ。その事実に、彼は言葉を失ってしまうほど感動していた。


エイラとセルフィーヌは、堂々としていた。彼女たちの纏う空気は、自信と経験に満ち溢れ、それは、ハナスにとって新しい刺激となった。


「ルシウス殿、われらの同行ご了承いただきありがとうございます。」


二人がルシウスに恭しく頭を下げたので、ハナスはその光景をまじまじと見つめた。


父さんが、偉大ってこんなきもちなんだなぁ。


その時、どこからともなく現れたのは、ヴェルディア王だった。


「行くなー!アリュゼ、行ってはならんぞ!洞窟は危険なんだ!」


王はアリュゼ姫の腰に縋り付くと、まるで幼子が駄々をこねるように叫んだ。必死の形相で、その腕はまるで鋼鉄のように固く、姫を離そうとしない。


「もう、お父様!離してください。ルシウス様もハナス様もいらっしゃるんですから。それに、私はもう子供ではないのです!」


アリュゼ姫は体を捩り、なんとか王の拘束から逃れようと試みた。しかし、王の力は予想以上に強く、抵抗は無駄に終わる。普段は威厳に満ちた王の姿はそこにはなく、ただ一人の娘を心配する父親の姿があった。


(またか……)


アリュゼ姫の狼狽ぶりを目の当たりにし、シルベアは内心でそう呟いた。王のこの執着ぶりを見る限り、姫が洞窟に行くことを許すとは思えない。


アリュゼ姫には気の毒だが、このままでは冒険を諦めざるを得ないのだろうか。シルベアは状況を打開する策を懸命に考え始めたが。


どうにも無理そうだ。


でも、このままではアリュゼ姫がいつまでたっても自立できないかもしれない。


場にいたみんなはため息をついた。


「お義兄さん!」


場に響き渡ったのは、ユリ王女の声だった。


皆が一斉に視線を向けると、そこには凛とした表情で立つユリ王女がいた。


「それではアリュゼがあまりにも可哀そうですわ!」


彼女は言葉を続ける。「もっと、彼女の意志を大事にして、自立心を尊重してあげないと、そのうち見向きもされなくなりますわよ」


ユリ王女の言葉は、ヴェルディア王の心に深く突き刺さったようだ。ハッとした顔で、彼はアリュゼ姫から手を離した。


「見向きもされなくなるのか、アリュゼ……?」


ヴェルディア王はまるで独り言のように呟いた。その声には、深い悲しみと不安が滲み出ている。


アリュゼ姫は腕を組み、少しばかりふてくされたように言った。「そうですわ、お父様。あんまりしつこいと、アリュゼはお父様を嫌いになるかもしれません」


その言葉を聞いた瞬間、ヴェルディア王はガクッと膝をつき、床にへたり込んでしまった。そして、大粒の涙をポロポロと零し始めたのだ。


「すまない、アリュゼ!」


王はまるで子供のように叫び、顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくっている。その姿は、ただの過保護なお父さんだった。





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