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復興

 復興といっても、最初は瓦礫などの片づけや、街の大掃除だった。

 ミストヴェールの街はかなりの部分が破壊されていた。

 死者も多いが、怪我人も多い。その為、アズラの丘からも沢山の人が派遣されて、復興の手助けをしていた。

 教会のあった場所に、臨時の治療所を設けて、そこでハナフィサも治癒魔術を使って、怪我人の治療にあたっていた。

「はい、ハナスはここにいるのよ」

 ハナシウスと名づけられた藍色の髪の赤子は、ハナフィサの近くに置かれた小さなベッドに寝かされた。

 ハナフィサとルシウスの子供でハナシウスってありか?と赤子が思ったかどうかは分からないが、悩みに悩んで、何となく引っ付けてみたら何故かしっくり来たのだ。それで彼の名はハナシウスに決まった。呼名はハナスである。

 ハナスは今もキョロキョロと首をもたげて辺りを見回している。

 ハナフィサはその様子を見てニヤニヤと口元が緩むのをこらえながら治療にあたっていた。

 しかし、ハナフィサが治癒魔術を使えるからと言って、そうそう何人も見れるわけではない、魔力を練るにも体力や心力がいる。それに傷が大きいほど、使う力の量も大きいのだ。

 そうして何人か見ているうちに、頭に猫のような耳が生えている娘がハナフィサの前にヨロヨロとよろけながらやってきた。

 随分と汚れた身なりの獣人だ。

 どこが悪いのかしら?そう思って、ハナフィサが手を動かそうとすると、猫耳娘はビクリと怯えたような態度をとる。

「大丈夫よ怖がらなくても、どこが悪いのかちょっと診せてくれないかしら?」

 ハナフィサが言っても、猫耳娘はびくびくと震え、目を合わせようとしない。その時、怪我をしている者たちの後ろの方から、ひと際大きい声が聞こえてきた。

「おい、リベット!治療はまだか、早くせんか。治療代がただだってんでわざわざ連れてきたのに、こう待たされちゃあイライラするわ」

 怪我人たちの後ろから現れた男は見るからに趣味の悪そうないで立ちをしている。不機嫌な表情で、リベットと呼ばれたさっきの猫耳娘の隣にやってくると、彼女の頭を強く叩いた。

 強く叩いたからと言って、通常はその程度で倒れる事はないが、リベットは違った。

 バタッとその場に倒れた。

 倒れて、横向きになり腹を押さえて顔色を青白くさせて、冷や汗をかいている。

 ハナフィサは眉間に皺を寄せた。

 恐らく、このリベットという娘は内臓を痛めていて、叩かれた振動が伝わり、今までの我慢が限界に来たのだろう。

 ハナフィサがそう考えていると、、、

「あうぅーー」

 と声がして、ハナスが猫耳娘の近くまで、這ってきていた。

「ハナス、、、」

 ハナスはそれからハナフィサを じっと見つめるとまた

「あぅぅーー」

 と声をあげた。

「ハナス、心配してるのね。大丈夫治癒魔術で治るわ」ハナフィサは言ってみたものの、損傷の大きさによっては、この娘を助けられないかもしれない。とも考えていた。

「あぅぅーー」

 ハナスは顔面蒼白で苦しんでいる猫耳娘を指さして、ハナフィサに早く治癒するように要求しているようだ。

 「分かったわ」

 ハナフィサが手を翳そうとすると、猫耳娘が、ハナフィサの手を震える手で掴んだ。

「お、お願い。。。このまま死なせて、私は奴隷なの、ここで治療しても、また死ぬまで働かされるだけ、私はもうあんな生活」

 そこで、また酷く痛み出したのか、猫耳娘は腹を押さえてギャーと悲鳴を上げた。

「あうーあうー」

 ハナスが手をバタバタさせている。

 ハナフィサは目の前の娘の苦しみようを見てはいられなかった。奴隷云々の問題はあとからどうにかなるだろう。そう考えると、治癒の手を猫耳娘に翳した。

 数秒が経過した。

 リベットは荒い息をつきながら、必死で痛みをこらえている。

 ハナフィサはさらに魔力を練った。

 だが、リベットの状態は好転しない。

 ハナフィサの呼吸も荒くなって来た。額にはじんわりと汗が滲み出して来た。

「あうぅーあうぅー」

 ハナスがハナフィサを見ていた。その時一瞬、ハナスの藍色の目が紅く染まったような気がした。

 突然、ハナフィサの治癒の手がオーロラのような光を放ったかと思うと、リベットの呼吸が静かになった。そして、安らかな顔をしている。

「あぅぅ?」

 ハナスが首を傾げてるような気がしたので、ハナフィサもゴクリと唾を飲み込み、リベットの様子を伺った。

 リベットは寝息をたてているが、安らかな表情に変わりはない。

 ひどい内臓の損傷だったはずけど、治癒出来たのかしら?でも、あんな力私には無かったはず……。どう考えても解せなかった。あの瞬間、リベットに手を翳して精一杯の魔力を練った瞬間、ハナフィサはまるで何か他の力にアシストされるように、自分の魔力が引き上げられたように感じた。そして、自分の手が言葉には出来ないような色で輝いた。次の瞬間、心のどこかでハナフィサは確信した。リベットは治ったのだと。それは、不思議な出来事だった。


 おいおいおい、と龍ことハナスは驚いていた。

 めっちゃ可愛そうだったのだ。あの猫耳の女の子、リベットと呼ばれた子が。

 ハナスと名づけられてからしばらくして、龍は急速にこの世界の言語が理解できるようになっていた。まだ、自分で喋ることは出来ないが……。

 そこで母ちゃんがんばれ!と思わず。

 えっ、母ちゃんでしょ?この銀髪の綺麗な人。母様になったのでしょ?

で、何でも貴族になったらしいし、なんか恵まれてない?

 まあ、この話はおいといて。

 なんか、脚が自由に動かせる感覚も嬉しいんだけど。

 俺、動物好きなんだよね。この猫耳の女の子奴隷だって、そんなの許せないよね。いっそうこのまま死にたいって言ったんだよこの子、それは悲しすぎる。あまりにも悲しすぎる。

 そう思った瞬間、母様がんばれって、治癒魔術でうっすらと光る手をアシストするように自分も力を入れていた。そう、TVに出ている格闘家と一緒に戦うような感覚。超能力でスプーンを曲げる人を見て、こっちも曲がれと念じてしまう感覚に似ていた。

 その瞬間、全身に熱い液体が駆け巡るような感覚が生まれて、目の玉が熱を帯びた。

 力が、これが魔力というなら、空気を伝って、ハナフィサの体に伝わってゆくような感じ。そして放たれた力は、ハナフィサの体内を駆け巡り、治癒の手をオーロラのような光で染め上げた。

 治ったよねえ。リベットの体治ったよねえ。そんな感覚もあった。魔力の残像のようなものが、相手の体が治ったことを伝えていた。

 やったぁ、ハナスがそう思っていると。奴隷商人の男がリベットの茶色い髪の毛に手を伸ばした。

「おらぁ、治ったらさっさと起きやがれ!」

 しかし、ハナフィサが男の胸の前に手を差し出した。

 ハナスも男を睨んだ。

 次の瞬間、男はバシュンという音とともにその場所から吹き飛ばされた。

 窓を割って、教会の外の路地へ落ちた。

 ハナフィサの放った風魔法だった。

 ハナフィサは今やここ、ミストヴェールの領主ヨルセフの片腕であるルシウスの妻というえらい立場なのである。

 男はなんなく近くにいた騎士に捕らえられた。

 その後、奴隷商人がどうなるかは分からないが、金で買ったとはいえ、貴族である。裏で政治的な取引が行われるのは目に見えた。

 ここはどうにかして、リベットを守ってやらなければな……とハナスは思った。

 ただ、「あうぅぅー」としか言えなかった。

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