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帰ってきた平穏

ユリ王女は、少しばかり拍子抜けした気分で、城へと帰還した。勇者討伐のために重装騎兵隊を率いて意気揚々と出陣したものの、結局、勇者の影すら見つけることができなかったのだ。


「……一体、どこへ消えたというの?」


ユリ王女は、自室の窓際で、遠くの空を見つめながら、小さく呟いた。その表情は、少しばかり疲労の色を帯びている。


彼女のもとへ、次々と情報が届けられた。竜騎士からの報告、そして各地に忍ばせている斥候からの密告。しかし、それらの情報は、どれも勇者の居場所を示すものではなかった。まるで、勇者がこの世界から完全に姿を消してしまったかのように、手がかりは何も掴めなかったのだ。


「……どうすれば、レツヤ・サメジマを捕らえることができるのか……」


ユリ王女は、再び呟いた。その声は、疲労に加え、焦燥感とわずかな不安を滲ませていた。


その時、部屋に騒がしい声が響き渡った。


「王女様~~、そんなとこで難しい顔してないでこっち来て遊ぼうよう!」


声の主は、ユリ王女が毎日餌をあげている鳥たちの女王、ネグジェだった。彼女は、鮮やかな色彩の羽を輝かせながら、窓枠にとまってからユリ王女を覗き込んでいる。


「ネグジェ、王女様は忙しいんだよ!」


少し怒ったような声で、ネグジェを窘めたのは、大精霊の姿に戻ったシルベアだった。彼女は、普段のハナスの可愛らしい姿とは異なり、凛とした美しさを放っていた。


シルベアの隣には、アリュゼがちょこんと座っていた。彼女は、シルベアの声など気にも留めず、ポリポリとクッキーを食べている。その姿は、まるで子供だ。


ユリ王女は、三人の姿を見て、思わず小さく微笑んだ。彼女は、この三人といる時だけは、王女という立場を忘れ、ただの一人の少女に戻ることができた。


「……少しだけなら、いいかしら。」


ユリ王女は、そう呟くと、窓を開けた。すると、ネグジェが嬉しそうに飛び込み、ユリ王女の肩に止まった。


「ね、ね、遊ぼうよ!王女様、最近ずっと難しい顔してるから、ネグジェ心配だったんだ!」


ネグジェは、ユリ王女の頬に頭を擦り付けながら、そう言った。その仕草は、まるで子供が母親に甘えるようだ。


「……ありがとう、ネグジェ。少しだけ、付き合ってくれる?」


ユリ王女は、ネグジェの頭を撫でながら、そう言った。彼女の表情は、先程までの疲労と焦燥から解放され、優しい笑顔に変わっていた。


「もちろん!シルベアも、アリュゼも一緒だよ!」


ネグジェは、嬉しそうにそう言うと、シルベアとアリュゼの方を振り返った。シルベアは、少し不服そうな顔をしていたが、結局は、ユリ王女の側に歩み寄った。アリュゼは、変わらずクッキーを食べながら、小さく頷いた。


こうして、ユリ王女は、しばしの間、王女という立場を忘れ、ネグジェたちと楽しい時間を過ごした。それは、疲れた彼女にとって、貴重な癒しとなった。


しかし、勇者レツヤ・サメジマの行方は、依然として不明のまま。そして、この平穏な時間は、いつまでも続くのか。と、思ったりするユリ王女だった。




王城の一室、そこは、穏やかな日差しが差し込み、暖かな空気に満ちていた。


「……あの残忍な勇者が、いなくなった?」


腕組みをして、難しい顔をしているのは、ハナスだ。その顔つきは、幼いながらも、どこか鋭さを帯びている。彼は、眉間に深い皺を寄せ、まるで難解な事件に挑む名探偵のように、唸っていた。


「坊ちゃん。あの悪党勇者様のことなんて、リベットにはさっぱりわからにゃい!いなくなったんなら、せいせいするにゃ!」


猫耳をぴょこぴょこさせながら、ハナスの肩を叩いたのは、リベットだ。彼女は、可愛らしい見た目とは裏腹に、ズバズバと物を言う性格の持ち主かもしれない。


「リベット、なぜ語尾ににゃあをつけた?今までそんな話し方したことなかっただろう?」


ハナスは、少し呆れたように呟いた。


「シルベアがね、男の子はみんなにゃあつけるほうが好きだって言ってたの」


リベットは嬉しそうに言った。


ちなみに、シルベアはハナスの記憶を覗き見ることが出来る。きっと、ハナスの記憶のどこかからにゃあ語尾を探し出してきたのだろう。困ったもんだ。


「リベットは勇者様、大嫌いだもん!坊ちゃんを、危険な目に遭わせるんでしょ?」


リベットは、頬を膨らませながらそう言うと、ハナスに抱きつこうとした。しかし、ハナスは、スッと身をかわす。


「やめろ、リベット。今は、あの勇者のことについて考えているんだ。」


ハナスは、少し頬を赤らめながら、そう言った。どうやら、リベットのスキンシップは、少し苦手らしい。年頃になってから、ハナスはリベットの胸があたるとドキドキするのだ。


「まあまあ、息子よ。そんなに難しい顔をするな。あんな悪党、どこかで自業自得な目に遭っているのだろう。」


ハナスの頭を軽く撫でたのは、ルシウスだ。今回の勇者騒動で徐々に明らかになってきたが、彼はあのルーベンよりも腕が立ち、勇者くらい強いと言われているらしいが、本当なの?


その口調は、どこか飄々としていて、いつも息子をからかうことを楽しんでいる。


「父様、勇者は、きっと悪知恵が働く人です。きっと何か企んで、姿を消したに違いありません。」


レツヤ・サメジマという名前からしてきっと勇者は同郷の人間だろう。ならばハナスと同じくらいの知識や悪知恵を持っていると考えたほうが妥当だ。


「あらあら、ハナスったら、ずいぶんとあの勇者のことを警戒しているのね。」


優しく微笑みながらそう言ったのは、ハナフィサだ。彼女は、美しい容姿と、包み込むような優しさで、家族を支えている。


「今回は、まあ姿を消してくれて助かったよ、本当に戦ったら国ごと潰しちゃうくらい強いらしいから」


ハナスは、少しだけ顔を青ざめながら、そう言った。どうやら、ハナスは、同郷でありながら人々を苦しめる勇者のことを、許せないようだ。


「坊ちゃん、勇者様のこと、そんなに嫌いなんだー?それなら、リベットも、もっともっと勇者様のこと、嫌いになる!」


リベットは、嬉しそうにそう言うと、ハナスの周りをぴょんぴょん跳ね始めた。


「……リベット、お前は少し落ち着け。」


ハナスは、呆れたようにそう呟いた。しかし、その口元には、微かな笑みが浮かんでいた。


「まあ、勇者がどこへ行ったかはともかくとして、とりあえず、ハナスは剣を頑張るんだぞ?あんな悪党を追いかけるよりも、まずは自分が強くなることだ。」


ルシウスは、ハナスの頭を軽く撫でながら、そう言った。その言葉には、剣士で父親としての愛情と、息子への期待が込められていた。


「……わかったよ、父様。」


ハナスは、少しだけ困った顔をしながらも、そう答えた。


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