獣人の村が襲われた
サイノッテ王国の空に、不穏な影が落ちた。
……ドラゴン?
って言われて想像してたより、ちっちゃい。でも、ちっちゃいって言っても、五メートルくらいある。馬車より大きい。なんか、トカゲ、でっかいトカゲが、空飛んでるみたいな。
城壁の上の見張りが、ザワザワしてるのが聞こえる。そりゃそうだ。いきなりドラゴン、しかも明らかにソルゼの紋章、なんていうの、鱗?皮?とにかく、ソルゼの国旗が描いてあるドラゴンが飛んできたら、そりゃ怖いでしょ。
ワイバーン、だっけ?なんか、そんな名前だって聞いたことある。ちっちゃいドラゴンは、ワイバーン。
それが、城の中庭に、ズドン!って着地した。地面、ちょっと揺れた。すごい、迫力ある。
見張りの兵士たちが、槍を構えて駆け寄っていく。でも、ワイバーンから降りてきたのは、人間。ソルゼの騎士だ。鎧、ピカピカ。
「リュカン様からの書状です!ユリ王女殿下に、大至急、お渡しください!」
騎士の声、ちょっと震えてる。いや、そりゃそうでしょうね。ワイバーンに乗って、敵国に乗り込んでくるんだから、そりゃ緊張するよね。
書状、差し出された。なんか、封蝋でガチガチに封印されてる。重要そうな感じ。
……リュカン様、って誰だっけ?ソルゼの、なんか偉い人?王子?王様?わかんないけど、とにかくヤバそうな雰囲気。
ユリ王女、今、朝食中じゃなかったかな……。こんな緊急事態、朝食台無しね?
とりあえず、私もトレイに載せた坊ちゃんの朝食を早く持ってゆかなきゃ。
朝食の席を中座し、一同はユリ王女とマリエルの待つ部屋へと集まった。
「皆さま、朝からお集まりいただきありがとうございます」ユリ王女は切り出した。ソルゼ王国からの使者が文を届けたのだ。
「それで、文には何と?」ヴェルディア王が尋ねる。
ユリ王女は頷き、口を開いた。「勇者が、リュカン王の言葉に背き、ロックエリアへ向かわず、直接このサイノッテを目指しているとのことです」
「なんと!どこまでも身勝手な!」ヨルセフは唇を噛み締めて呟いた。
「至急、リュカン王も全軍で勇者を追跡し、サイノッテを目指しているそうですが、間に合わぬ場合、勇者が先にサイノッテに到着する可能性があるとのことです」ユリ王女は続けた。
ルシウスは腕組みをし、黙って話を聞いていた。
「ただ、ソルゼ王国のドラゴン部隊は勇者よりも先にサイノッテに到着できるだろう、とも書かれていました」ユリ王女は言い終えた。
重苦しい沈黙が部屋を支配した。一同、それぞれが考えに沈み、言葉を失っていた。
その時だった。部屋の扉が勢いよく開き、伝令係が飛び込んできた。
「ユリ様!」伝令係はユリ王女に一礼した。「近くの獣人の村が勇者に襲われました!」
「何ですって!?」ユリ王女は思わず立ち上がり、顔色を失った。「あの村には子供たちがたくさんいるのよ!」険しい表情でそう言うと、すぐさま指示を出した。
「直ちに兵たちに伝えなさい!全軍出陣します!」
ユリ王女の凛とした声に、ヨルセフ、ルシウス、ヴェルディア王、ハナフィサ、ハナス、そしてリベットも一斉に立ち上がった。緊迫した空気が部屋を満たした。
ハナスの目はくぎ付けになった。
中庭に集結したサイノッテ兵の先頭に立つユリ王女。普段の柔らかな物腰、どこか儚げな雰囲気はどこへやら。青い甲冑を身に纏った彼女は、まるで戦いの女神が舞い降りたかのように美しく、凛とした気高さを湛えていた。
「我々もお供しますぞ!」
重厚な声と共に、ヴェルディア王が歩み出た。王もまた、真紅の鎧を身につけ、紅の騎士団を率いている。
その時だった。青空を切り裂くように、無数のワイバーンが姿を現した。
「坊ちゃん、あれ!」リベットが叫び、空を指差す。
ワイバーンの背には、黄金の鎧に身を包んだ騎士たちが騎乗しているのが見えた。
「いよいよ面白くなってきやがったなあ」ルーベンは、高揚感を隠しきれない様子で隣に立つセルフィーヌにニヤリと笑いかけた。
セルフィーヌは冷めた目でルーベンを一瞥し、「はしゃぐな、戦闘狂め」と静かに窘めた。まるで子供を諭す母親のような、それでいてどこか呆れたような口調だった。




