生ぐせえ村
埃っぽい道を、ひたすら歩く。しばらく荒れた場所が続いていたが、ちらほらと気候が変わって来て、草花がポツポツと見えてきた場所に、ポツンと佇む小さな村が見えてきた。
「くそ、俺は馬に乗れねえんだよなあ…」
独り言を呟きながら、足を進める。
「まあ、勇者の力かなんか知らねえが…」
いくら歩いても疲れない。スタミナもほとんど減らない。空腹も微々たるものだ。食事をしても、かつてのような感動はない。全てが薄味で、味気ない。
「…とびきりうまいと感じられない」
心の内も同様だった。恐怖心は皆無。何も怖くない。ただ常にイライラしている感じがする。嫌な感じだし気分沈むから、沢山快楽を求めたくなる。常に、人を馬鹿にしたり、いたぶっている時に、気持ちがやわらぐ。
「まあ、前世でもさんざん人を馬鹿にしていたし、傷つけてきたからなあ…」
人を踏みつけること。それが、俺にとって唯一の生きる楽しみだった。この世界に召喚され、勇者と呼ばれてからも、それは変わらなかった。あの薄気味悪い城の老婆――自らを魔導士と名乗る老いぼれ――も、捻り潰してやった。自分を勇者として召喚したくせに、上から目線で説教を垂れる。気に入らなかった。
「すべて粉々に打ち砕いてやった」
薄く笑みを浮かべながら、レツヤは村へと足を踏み入れた。この世界でも、自分の楽しみを追求するだけだ。
そう、俺は前世で殺人鬼だった。連続殺人鬼、シリアルキラーてやつか?
インテリとか、知能犯とかじゃねえ、純粋な衝動犯でサイコパスだ。
と、思い込んで生きてきた。そういう映画もドラマも大好きで、月刊で発売されていたマガジンも50巻近く集めた。
ロシアの殺人鬼も好きだったし、アメリカにも凶暴なのが居たなあ。とにかく俺は部屋に殺人鬼のポスターを貼っていた。
多分IQは高くない。自分でもそう思うんだ。
だって、IQが高けりゃあもっとましな人生になってたはずだからな。
人から奪って、人をだまして、もうそれも面白くねえと思ってた頃、突然おかしな光に包まれて、気が付いたらあそこに立ってた。
魔導士のババアが弟子と共に召喚したと言っていた。
まったく勝手なことしやがる。
勝手なことしやがると思ったが、まあ悪くはなかった。最初だけな。
なんせ、めちゃめちゃ強かったからな。けど強すぎた。強さにおいてはまるでライバルが居ねえ、だからまあ面白くないっちゃ面白くないが、人をいたぶることで少しばかりの快感が生まれた。だから、何度も何度も。何人も何人もいたぶってやった。
今度は、国を潰す依頼ってか?勇者は笑う。バカみてぇだ。はっきり言って報酬なんてどうでもいい、そんなものはいくらでも奪えるし、たぶんこの世界を支配しようと思えば出来るくらいの力はあるはずだが、、、
まあ、俺はIQが低い、俺が出来ることは破壊くらいしかない。何かを作ったり、想像は出来ない。
神がいるなら呪うぜ、こんな人間を生み出しやがって、人並みの幸せも何もありはしねえ。
辿り着いた村は、……しょぼかった。しょっぼっぼ。家もボロいし、なんかこう、空気が淀んでるっていうか。あと、なんか生クセぇ。生ゴミ?家畜の糞?わからんけど、とにかく生臭ぇ。
はぁ、ってため息も出ねぇくらい気分が沈んでると、ガキどもがワーキャー騒ぎながら走ってきた。獣人?.......のガキ?カラフルな色の、カエルみたいなやつらが、きゃっきゃうふふ、楽しそう(に俺には見えなかった)。爬虫類は気持ち悪い!
で、その中の一匹が、俺の足にゴツン!
「痛い!」
甲高い声が耳をつんざいた。転がってる小ガエルを見下ろす。でかいな。俺の膝くらいまである。大きな、まんまるい黒い瞳が、涙でうるうるしてる。なんか、子犬みたいに見えなくもない。……いや、カエルか。
俺は無言で、ガキを見下ろした。怖い顔、してんのかな、俺。でも、そんなん知るか。めんどくせぇ。
ガキは、俺の顔を見て、さらに目を見開いた。ビビってんのか?そりゃそうだろう。こんなデカい剣を持ったおっさんが、睨みつけてりゃビビるわな。
でもさ、悪いのはお前だろ?ぶつかってきたのは、お前だろ?
何も言わない俺に、小ガエルは、さらに小さく丸まった。なんか、今にも泣き出しそう。
ちっ、めんどくせぇ。
俺はため息をつく代わりに、剣の柄を握り直した。力、入りすぎてるかな。ガキ相手に、こんな剣、必要ねぇのに。
あぁ、もう、全部めんどくせぇ。世界も、魔王も、勇者も、全部。
そして、勇者は大きすぎる剣を軽々片手で持ち上げると、一気に振り下ろした!




