帰還
ヨルセフと別れて、アズラの丘にルシウスは帰ってきた。その胸にはしっかりと藍色髪の赤子を抱いていた。
森は薄暗く、しかしそろそろ空け始める頃だった。
戦士たちとも別れ、馬に揺られながらようやっと自分の家が見えるところまでやってくると、人影が立ち上がり、ルシウスのもとへ駆けてきた。
ハナフィサだった。
「おかえりなさい!怪我はない?」
ハナフィサが心配そうな声を掛ける。
「ずっと起きて待っていたのか?大丈夫だ、かすり傷ひとつない」
ルシウスはそう言って、馬から降りた。
ハナフィサは驚いた顔で、ルシウスの胸に抱かれている命を見つめていた。
「赤ちゃん?その子はどうしたの?」
「色々あってな、俺たちが育てることになった」
「えっ」
差し出された赤子をみて、ハナフィサは驚いた様子だった。
「この子は……、誰の子なの?
「ローゼンクロイツ卿の子供だったが、彼は逝ってしまった」
ルシウスがそういうと、ハナフィサは色々理解したようにコクンと頷いた。
「抱いてみてもいいかしら」
ハナフィサが手を伸ばす。彼女の頬は朱色に染まっていた。
「もちろんだとも、抱いてやるといい」
ルシウスが子を差し出すと、ハナフィサはにっこり笑って受け取った。
顔をのぞきこむ、藍色の髪の東人っぽい顔立ちである。ローゼンクロイツも東人の血が半分入っていた。
「まあ、なんて愛らしいのかしら」
ハナフィサが子供に顔を寄せると、子供は小さな手を精一杯伸ばしてハナフィサの頬に両手を触れた。
「アハハ、この子ったら」
子供はあぅーと発した。
「名前を決めてやらないとな」
ルシウスが言うと、ハナフィサは藍色の髪を愛おしそうに撫でた。
それからルシウスはこれからヨルセフを手伝ってゆくこと、そのために貴族の位を授けられることなどを手短に伝えた。
「そう、だったら貴族様でも通用するような名前にしないといけないわね」
ハナフィサは冗談ぽくいった。
それからハナフィサは思いついたように。
「さあ、中に入ってご飯にしましょう、お父さん?」
ハナフィサはルシウスを見て悪戯っぽく笑うと、ルシウスは一瞬照れたような顔をした。
二人は赤子を抱えて、楽しそうに家の中に入った。