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堕ちた勇者、漆黒の野望

薄暗い王城の玉座の間で、ソルゼ王国のリュカン王は不敵な笑みを浮かべていた。窓から差し込む夕陽が、王の金の冠に反射して不気味な輝きを放っている。


「よくぞ来てくれた、北の勇者レツヤ・サメジマよ」


王の声は柔らかく、しかし威厳に満ちていた。その目は、目の前に偉そうに立つ男を値踏みするように見つめている。


レツヤ・サメジマ。その名は、北方諸国で伝説となっていた。ドラゴンを素手で倒し、魔族の軍勢を一人で蹴散らしたという英雄。だがその実態は、伝説とはかけ離れていた。


彼の瞳には底知れぬ強欲の炎が燃えていた。金貨の山を見つめる目は、まるで飢えた獣のようだ。そして、玉座の両脇に控える美しい侍女たちへの視線は、獲物を狙う猛禽類そのものだった。


「勇者殿、我が国の寵愛と、この金貨10万枚を約束しよう。そして望むなら、この城内で最も美しい侍女たちを...」


リュカン王の言葉が終わる前に、レツヤは声を荒げた。


「話は聞かせてもらった! その条件で雇われてやる!」


その声には品位のかけらもなく、ただ欲望だけが満ちていた。


リュカン王は内心で嗤った。このような男こそ、自分の計画に完璧な駒となるだろう。強さと欲望。その組み合わせは、時として最強の武器となる。


城の外では、夕陽が血のように赤く空を染めていた。それは、やがて訪れる混沌の予兆のようでもあった。


レツヤ・サメジマは確かに勇者だった。しかし、その心は既に闇に蝕まれていた。彼の存在自体が、この世界の秩序への挑戦だったのかもしれない。


リュカン王は静かに目を閉じた。計画は、完璧に進んでいる。この堕ちた勇者を操ることで、彼の野望は必ず実現するだろう。




海風が運ぶ塩の匂いが、ソルゼ王国の港町セイレーンを包んでいた。


嵐の夜。ドランゴドラと名乗る傭兵団の船が、嵐に煽られるように港に滑り込んできた。ボロボロの帆と、傷だらけの船体。ただのチンケな傭兵集団だった。


だが、リュカン王はドランを匿った。すぐに殺してもいいが、話を聞いてからでもいいと思った。それは一種の遊びだった。


「ミストベールとヴェルディアへの復讐? ふん、どうでもいい話だ」


王城の密談室で、リュカン王はドランゴドラの首領に向かって言い放った。その瞳は、獲物を見定める猛禽のように鋭かった。


「だが、『聖なる鍵』という言葉には興味があるぞ」


首領の表情が僅かに強張る。その反応を、リュカン王は見逃さなかった。


傭兵団の正体は、元盗賊、今は特殊能力者の寄せ集め。一人は炎を操り、一人は土を操り、また一人は他人の心を読む。しかし、そんな能力など王にとってはどうでもよかった。


重要なのは、彼らが探し求める「聖なる鍵」だった。


伝説によれば、その鍵は世界の理を書き換える力を持つという。そんな伝説めいた話を、普段なら王は一笑に付すはずだった。


だが、捨てきれない何かが王の欲望に触れた。世界を従える力。


「よかろう。我が国で匿ってやる。その代わりだ...」


リュカン王の声が低く響く。


「全力で『鍵』を探すのだ」


それは命令であり、取引だった。


そして運命は、思わぬ贈り物を王にもたらした。


ドランゴドラの情報網を通じ、遥か北の果ての国で召喚された、前代未聞の勇者。そいつの消息が分かったというのだ。


レツヤ・サメジマ。


驚異的な強さを持ちながら、その心は欲望に支配された男。完璧な駒が、運命の導きのように現れたのだ。


「勇者か...」


リュカン王は、暗い微笑みを浮かべた。


彼の計画は、着々と形を為していった。ドランゴドラという歯車、聖なる鍵という歯車、そして堕ちた勇者という歯車。


全ては、王の描いた壮大な図面の中で、確実に噛み合い始めていた。



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