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行進は続く

 紅騎士団の行軍は、まるで深紅の大河のようにミストベールの大地を染めていった。

しかし、その威厳ある進軍の列から、意外にも軽やかな会話が漏れ聞こえてくる。


「騎士団長!」

 若い騎士が馬を進めながら声を上げた。

「領主城は...調べなくともよろしいのですか?」


 団長は髭を撫でながら、前方を見据えたまま答える。

「斥候から領主は農園にいると報告を受けている」


「そうですか...」

 若い騎士は何か言いかけて、口ごもった。


「何だ?まだ何か?」


「いえ、その...今回の遠征は、どうして私たちまでなんでしょうか。紅騎士団を総動員するほどの...」


団長は深いため息をつく。

「それだけヴェルディア様が成功を望んでるんだろうよ」


 その時、ひと際体の大きな騎士が、まるで祭りの棒術師のように華麗に槍を回し始めた。

その姿は紅のマントをはためかせ、朝もやの中で異様な存在感を放っている。


「しかし腕がなりますなあ!」

 大柄な騎士の声が響く。

「久しぶりの合戦じゃわい!わしの槍も喜んでおる!」


「馬鹿野郎!」

 大柄な騎士の隣りにいた老齢のベテラン騎士が怒鳴る。

「俺たちは戦に来たんじゃねえ!」


槍を回していた手が止まる。

「へ?」

大柄な騎士の面頬の隙間から、間抜けな声が漏れる。

「じゃあ何しに来たんだ?こんな大軍隊で」


団長は目を細め、遠くに見える農園を見つめながら、

「それは帰ったら国王様に訊いてくれ」

と言って肩をすくめた。

「わしに訊いてもしらん」


「しらんて...」

大柄な騎士は槍を下げ、子供のように首を傾げる。

その仕草は、重厚な甲冑との対比が妙に滑稽だった。


「団長、またそうやってはぐらかして」

別の騎士が笑みを浮かべる。


「整列!前へ進め!」

補佐役の副団長が声を上げた。


 五百強の騎士たちは、再び厳かな雰囲気を取り戻す。

しかし、どこかでかすかな笑い声が聞こえ、誰かが「まったく、あの槍使いときたら」と呟いている。


 深紅のマントが霧の中でゆらめき、重装騎士たちの足音が地を震わせる。

その威圧的な姿と、騎士たちの人間味のある会話が、奇妙な対比を成していた。


 遠くでは、農園の姿が微かにみえる。そこに向かって、紅の大河は、着実に、そして少しばかり賑やかに流れてゆく。





 銀髪のセルフィーヌは、周囲の紅騎士団の動きを冷静に観察していた。重装の騎士たちが次々と農園の方向に進んでいくのを、彼女は無表情のまま見つめている。


「不思議だわ」

ふと隣を歩くルーベンに呟いた。

「あの軍勢には、ほとんど殺気を感じないのよ」


ルーベンは両手を組みながら、のんびりした口調で答える。

「そうか? まあお前がそういうならそうなんだろうなあ」


「あなた?あれだけ腕が立つのに、殺気とか分からないの?」

 セルフィーヌは一瞬彼を横目で見る。


 ルーベンは頭をかいた。

「面目ない、いつも殺気なんて感じる前に決着ついてるんでな」笑った。


「大規模な軍隊が、このように静かに農園を目指して、本当に奴隷を捕まえるだけかしら?」


「まあ、様子を見守るのもいいかもしれないな」

ルーベンは軽く肩を竦める。

「行動する前に、ヨルセフ様の指示を待つのが賢明だろう」


セルフィーヌは再び前を向いた。

「そうね。急ぐ必要もないわ」


二人の会話は、重々しい紅騎士団の歩みと対照的に響いていった。



時折、騎士団の馬に囲まれた上級貴族が乗る馬車の中から、神経質そうな男が顔を覗かせて叫んでいる。

「さっさと行くぞ! 目的地は農園だ。さっさと進め!」


 その言葉に、紅の軍勢はさらに勢いを増す。

 しかし、セルフィーヌとルーベンの足取りはゆっくりと、余裕を感じさせるものだった。


 セルフィーヌは、遠くに見える農園の姿を見やった。

 あの農園は、つい最近まで大貴族の農園だったが、ルシウスとその家族が管理を任されるようになってから、今までになかった効能の精油を売り出し、街の人々の病気、心の病などにも評判がいい。現にセルフィーヌも一瓶買って持っている。

 瓶を開けると、体全体にオレジの香りが吸い込まれて、とても心安らぐのだ。

「ハァ〜、今日もよい天気ね」と呑気な声を発した。

 ミストベールの霧は不思議で、霧が出ていても曇っていたりするだけではない。太陽が当たって、辺りに漂う霧が虹色に輝くこともある。なんとも不思議な街だ。

「おいおい、余裕だなお嬢さん」ルーベンが笑った。


 ぼんやりと朝霧に包まれる中を、二人は紅騎士団とは少し距離を置きながら、ゆっくりと歩を進めていく。

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