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亡命者2

「ルシウス様...」


いつものように報告に来たミケルの声が、今日は少し違っていた。その目は驚きに見開かれている。


「どうした?」


「これまでと様子が違うんです。言葉通じない奴隷達がいるんです!」


ルシウスは眉をひそめた。確かにここ最近、見たことのない特徴を持つ獣人や、聞いたことのない訛りの人間が増えていた。


「案内してくれ!」


農園の東門に向かう道すがら、ルシウスは考え込んでいた。つい数ヶ月前まで、この農園に逃げ込んでくる者たちは、せいぜい近隣の領地からだった。それが今では...。


門に着くと、そこには慣れ親しんだ獣人たちとは明らかに異なる風貌の一団がいた。褐色の肌をした虎族、銀の毛並みを持つ小さな体のネズミ族、そして見たことのない羽を持つ鳥人族。


「私たち...ミストベール...ハナス様...」


 虎族の一人が、たどたどしい言葉で話しかけてきた。その手には、皺くちゃになった一枚の紙切れが握られていた。


 ルシウスがそれを受け取ると、そこには震えた字で書かれた地図があった。農園の場所を示す素朴な地図。そして隅には、ハナスオイルという言葉が。


「まさか...」


 振り返ると、ハナフィサが立っていた。


「奴隷たちの口コミみたいにして伝わてるのねここの事が...」


 幼いハナスが、この農園で始めた小さな革命が、今や世界中の奴隷たちの希望の灯火となっていたのだ。


「旦那様!」

 シャルルが息を切らして駆けてきた。


「西門にも新しい方々が!今度は砂漠の向こうから来られたようです!」


 次々と届く報告。南門には海を渡ってきた一団が。北門には雪国から逃れてきた家族が。


「これは...想像以上の事態になってきたな」

ルシウスの呟きに、ハナフィサが寄り添う。


「そうね。ちょっと問題が起きそうね」


 農園の中では、すでに様々な言語が飛び交っていた。言葉は通じなくても、同じ境遇を経た者同士、不思議と分かり合えるものがある。


 古参の住人たちが新参者の世話をし、子供たちは言葉の壁を物ともせず、すぐに打ち解けて遊び始める。


「見てください、ルシウス様」

 ミケルが農園の高台を指さした。


 そこでは、様々な種族の子供たちが、一緒になって風車を回していた。その中には、つい先ほど到着したばかりの子供たちの姿もある。


「風車か...」

ルシウスは思わず微笑んだ。


 あの日、ハナスが最初に奴隷の子供たちと遊んだのも、この風車の前だった。単純な玩具が、自由を求める魂の象徴となり、今や世界中に伝説として広まっている。


「国家の体制を脅かす存在として、私たちを敵視する声も出てきているそうです」

近くにいた書記の獣人が、静かに告げた。


「構わないさ」

ルシウスの声は穏やかだった。


「例え世界が敵に回ろうと、この場所は、自由を求める者たちの避難所であり続けるべきだ」


 ハナフィサが夫の手を握った。二人の視線の先では、新たに到着した人々が、古参の住人たちと協力して新しい小屋を建て始めていた。


 言葉は通じなくとも、心は通じ合っている。そこに種族も、出自も関係ない。


「ハナス...」

 ハナフィサが空を見上げながら呟いた。


「あなたの小さな勇気が、世界を動かし始めているのよ」


 風車が回る音が、優しく響いていた。


 ミストベールの農園は、今日も新しい希望を迎え入れていた。小さな火種は、今や誰にも消せない炎となって、世界中に灯り続けている。

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