街が襲われた
さて、これから夕飯にありつこうかというその時、アズラの丘にあるルシウス夫妻の所に、騎士風の男が早馬で駆け付けた。今まさに戦火の中から飛び出してきたように、鎧は血や煤で汚れていた。
「ルシウスどの!」と騎士は倒れこみながら叫んだ。
「いったいどうしたんだヨルセフ」
ルシウスは騎士に駆け寄ると、彼の体を支えた。ヨルセフと呼ばれた男の腹から、血が滲んでいた。
「頼むハナフィサ!」
ルシウスが大きな声を出すと、ハナフィサがルシウスの隣へきて、騎士に回復魔術を施した。
騎士ヨルセフは、魔術で腹の傷が癒えると、ふぅぅと小さな声を上げた。
「ドランの連中が攻めてきた。奴ら女、子供構わず皆殺しにしてやがる」
ヨルセフが口を開くと、ルシウスは険しい表情を作った。
アズラの丘から北に少し行くと水に囲まれたミストヴェールというアズラの丘の6倍ほどの規模の街があった。
ミストヴェールは王都と他の都市の中間地点にあって、王都へ行く者たちは、アズラの丘を通り過ぎ、宿や物資の充実しているミストヴェールで骨休めするというのが一般的だ。
「ドランめ、生き残りになるまで追い詰めたのに、また数を増やしたのか」
ドランというのは、要するに盗賊団である。もとは落ちぶれた貴族らしいが、その名前をドランゴドルという。かつての貴族の名残を感じさせる上質な素材の黒いコートを着用して、銅製の鎧に身を固めている。兜の一部が欠けているのか、耳が少し見えているがその耳には高価そうな宝石が付いたピアスをぶら下げている。
ドラン盗賊団は壊滅に追い込んでも、数年間なりを潜めては仲間を増やして、あちこちの貴族が治める村や街を襲ってくるのだ。
どうやらドランゴドル本人を始末しなければ駄目らしいが、奴はしぶとくなかなか尻尾を掴ませない狡猾な男なのだ。
数年前、ミストヴェールの貴族と手を組んで、ミストヴェールの騎士ヨルセフが率いる騎士団とルシウスが率いるアズラの丘の戦士たちで、ドラン盗賊団を壊滅まで追い込んだのだが、恐らく今回の襲撃はその時の報復といっていいだろう。
となればだ、当時一緒に戦ったローゼンクランツ卿のお命が危ないな、とルシウスは唇を噛んだ。
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オレンジ