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イーリスへ

 朝日が昇り始める頃、ミストベールの東門で一行は馬の準備を整えていた。四頭の馬が用意され、ハナスとリベットで一頭、ロクスとナミダがそれぞれ一頭ずつ、残りの一頭は荷物用だった。


「坊ちゃん、お弁当はしっかり詰めましたわよ」リベットは誇らしげに言った。「今朝早くから作りましたの」


「わあ、すごい!」ハナスは荷物用の馬に積まれた大きな籠を見て目を輝かせた。「最近のリベットのお弁当は母様仕込みで美味しいもんね!」


 ルシウスとハナフィサも見送りに来ていた。


 「気を付けて行ってらっしゃい」ハナフィサは少し不安げな表情を浮かべながらも、優しく微笑んだ。


 「行ってきます!」一同は声を揃えて答えた。


 馬を進めながら、ナミダは朝もやの立ち込める街並みを振り返った。「私、ミストベールに来て本当に良かった」


「どうして?」ロクスが尋ねた。


「こんなに優しい人たちに出会えて...」ナミダは目を潤ませながら言った。「本当に感謝しています」


「えへへ」ハナスはリベットと一緒に乗る馬の上で、得意げに胸を張った。「僕たちはナミダのお母さんを絶対に助けるからね!」


 街を出て暫く進むと、広大な草原が広がっていた。朝日に照らされた露が、無数の宝石のように輝いている。


「わあ、きれい!」リベットが感動の声を上げた。


「ロクス」ハナスが突然声をかけた。「この道、危ない魔物とかいないの?」


 ロクスは少し考えてから答えた。「この街道は比較的安全です。それに私も多少は戦えますから」


「そうそう」リベットが元気よく言った。「私も坊ちゃんを命をかけて守りますからご心配なく!」


「でも油断は禁物ですね」ナミダが真面目な表情で言った。


 ハナスは腕に巻き付いた一本の緑の蔓を見た。「うん、大丈夫。シルベアも見守っていてくれるはずだよ」


 草原を吹き抜ける風が心地よく、馬のひづめの音が規則正しく響く。時折小鳥のさえずりも聞こえてきた。


「あ!」リベットが突然声を上げた。「野花が咲いてます!」


 道端には色とりどりの可愛らしい花が咲いていた。紫や黄色、白い花が風に揺られている。

「ナミダさん」ハナスが声をかけた。「お母さんは花は好き?」


「ええ」ナミダは懐かしそうに微笑んだ。「特に白い花が好きなんです。庭にもたくさん植えていました」


「じゃあ」ハナスは嬉しそうに言った。「お母さんが元気になったら、また一緒に庭いじりができるね!」


「ハナスくん...」ナミダは感動して、目に涙を浮かべた。


 

 緩やかな丘の上で、一行は馬を止めた。眼下には緑の草原が広がり、遠くには青い山々が連なっていた。


「ここでお昼にしましょう!」リベットは嬉しそうに籠から弁当を取り出した。


その時、ロクスとナミダが同時に身構えた。「この気配...」


「ナミダも感じたか?」ロクスの手が短剣の柄に伸びる。


 突如、茂みから三人の男が飛び出してきた。黒い布で顔を覆い、手には短剣を握っている。


「おとなしく荷物を置いていけ!」一人が叫ぶ。


「坊ちゃん、私が...」リベットがハナスの前に立ちはだかる。


ロクスは素早く短剣を抜いた。「なるほど、この辺りで噂の強盗ですか」


一瞬の内に戦いが始まった。ロクスは二人の男と剣を交え、ナミダは小さな声で素早く詠唱を始めた。


「霧よ、我が敵を打ち倒せ!」


ナミダの詠唱と共に、水の形をした霧が一人の盗賊を吹き飛ばした。同時にロクスの剣が閃き、もう一人が倒れる。


残された一人は、驚くべき速さで逃げ出した。


「あの速さ...風の加護の魔法を使っているわ!」ナミダが叫ぶ。


「私が追います!坊ちゃん、お願い!」とリベット


 ハナスは小さな手を前に出し、真剣な表情になる。目が紅く染まる!


 リベットの体が美しいオーロラのように輝き始める。


 その瞬間、リベットの姿が光の帯となって走り出した。ハナスの魔力によって何倍もの速さを得た彼女は、あっという間に逃げる盗賊に追いついた。


「いただきましたわ!」リベットは軽やかに宙をまって、逃げる盗賊の前に着地。「もう逃げられませんわよ!」


 魔法の光に包まれたリベットの姿に、盗賊は硬直した。「ば、ばけもの...」


「失礼な!」リベットは怒って、盗賊の頭をぶん殴った。盗賊はいともたやすく気絶した。


丘の上でハナスが両手を振る。「リベット、すごーい!」


「まったく」ロクスは倒れた盗賊たちを縛りながら苦笑した。「まさか昼飯前にこんな騒ぎになるとは」


 ナミダは心配そうにハナスの元へ駆け寄った。「ハナスくん、大丈夫?魔力を使い過ぎてない?」


「平気だよ!」ハナスは元気に答えた。「リベットを強くするのなんて、僕にとっては簡単なんだ!」


「それにしても、すごい魔術ね、見たこともないわ」ナミダが言うとロクスも頷いた。


「そうだな、俺もあんな魔術はじめてみた」


「坊ちゃんったら」捕らえた盗賊を引きずりながら戻ってきたリベットが、誇らしげに微笑んだ。「でも、本当にありがとうございました。あの増幅魔法のおかげで、こんなにも力が出せました」


「それにしても」ロクスが真剣な表情で言った。「この辺りで盗賊が出るようになったのは最近のこと。イーリスへの道中、もっと警戒が必要かもしれんな」

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