戦闘の天才
森の中を駆け抜けるロクス、ナミダ、そして老人の姿。彼らの背後では、ドランゴドルの手下たちの怒号が響き渡っていた。
「大丈夫か!」ロクスは息を切らしながら叫んだ。
突然、彼らの前方から地面が隆起し、巨大な土の壁が立ちはだかった。
「くっ、追いつかれたか!」ロクスは歯噛みした。
壁の上に現れたのは、見覚えのある顔だった。ドランゴドルその人である。
「残念だったなロクス。」ドランゴドルの声には皮肉が滲んでいた。「ここまでだ。『聖なる鍵』を渡せ。」
ドランは俺が鍵を持ってると思ってるのか?ロクスはナミダと老人を守るように立ちはだかった。
「渡すわけにはいかない。この鍵が、あなたの手に渡れば...」
ナミダも何かを察したようで、ドランを担ぐ気のようだ。
ドランゴドルは冷笑した。「命だけは助けてやろう。聖なる鍵でこの世界を手にしたら、お前たちにも良い席を用意してやるぞ」
「世界を手にする?」ナミダが声を上げた。「鍵にそんな力が?」ナミダがドランに言う。
ドランゴドルの表情が一瞬綻んだ。「ああ、あるとも、鍵は世界を手に入れられる力を秘めている」
その時、森の奥から轟音が響いた。地面が揺れ、木々が倒れていく。
「な...何だ!?」ドランゴドルも驚いた表情を浮かべる。
轟音の正体が姿を現した。それは巨大な魔法獣、その背に乗っているのは...
「ルーベン!」ロクスの表情が明るくなった。
ルーベンは戦闘の天才である。彼は時にどこから持ってきたのかこの世のものとも思えない戦闘マシーンを引き連れていることがある。
茶色の髪をなびかせ、ルーベンが魔法獣の背から飛び降りた。彼の周りには、部下たちの姿もあった。
「よくぞ持ちこたえてくれた、ロクス」ルーベンの声に力強さが溢れている。
ドランゴドルに動じる様子はない。「お前の仲間か...仲間の介入がこんなに早いのは想定外だったな、...」
その言葉を遮るように、ルーベンは腕を前に突き出した。彼の腕から光が現れ、その光は見事な一振りの剣になった。
「ドランよ、ここがお前の墓場だ。」ルーベンの声が響く。
ドランゴドルは無表情にルーベンを見ている。
両者の間で、緊張が高まる。
ロクスは、考えを巡らせた。「聖なる鍵」、ドランゴドルの野望、想像以上に鍵はこの世界の運命を握っているらしい。
ドランゴドルは何かを企むように薄笑いを浮かべていた。
ルーベンが動き出した瞬間、空気が凍りつくように変化した。ドランゴドルの目が僅かに見開かれ、その指が素早く複雑な印を結んだ。
「フン!」
彼の声が響き渡るや否や、大地が唸りを上げ、巨大な土の壁が眼前に立ち現れた。ドランゴドルの姿は、土煙と共にその向こうへと消え去った。
その瞬間、まるで暗闇から這い出てきたかのように、ドランの配下たちが四方八方から襲いかかってきた。彼らの目には狂気じみた光が宿り、武器を振りかざしながら、ルーベンたちに殺到した。
「来るぞ!」ロクスが叫んだ。
ナミダは老人を庇うように立ち、その手には既に短剣が握られていた。しかし、彼女が動く前に、異様な光景が彼女の目に飛び込んできた。
ルーベンの乗る巨大な魔法獣が、まるで生きた要塞のように立ちはだかったのだ。その巨体が唸りを上げ、長い腕を振り回すと、襲いかかってきた敵兵たちが、まるで藁人形のように宙を舞った。
「くっ!」
悲鳴と共に吹き飛ばされる敵兵。だが、その隙間を縫うように、さらなる敵が押し寄せてきた。
ルーベンは、魔法獣の背に立ったまま、優雅とも言える動きで剣を抜いた。その刃が空気を切り裂く音が、戦場に鳴り響く。
「はぁっ!」
一閃。
二閃。
三閃。
ルーベンの剣筋は、まるで舞うかのように美しく、そして致命的だった。彼の剣の軌道に触れた敵は、悲鳴すら上げる間もなく倒れていく。
「す、凄い...」ナミダが息を呑んだ。
ベンの剣さばきは、まるで芸術のようだった。無駄な動きは一切なく、それでいて優美さを失わない。その姿は、まさに伝説の剣士と呼ぶにふさわしいものだった。
敵の数が目に見えて減っていく。残された敵兵たちの目に、恐怖の色が浮かび上がる。
「ひ、避けろ!」
「逃げろ!」
悲鳴にも似た叫び声と共に、残党は一目散に逃げ出した。彼らの背中には、恐怖と敗北の色が濃く滲んでいた。
戦場が静寂に包まれる。
ルーベンは、息を整えながら周囲を見回した。その目には、獲物を追う狩人のような鋭さが宿っている。
「ドランゴドル...」
彼の唇から、低く呟くような声が漏れる。ルーベンは、魔法獣から軽々と飛び降り、土壁へと駆け寄った。
「待て、ルーベン!」ロクスが叫ぶ。「罠かもしれない!」
だが、ルーベンの足は止まらない。彼は、まるで壁を突き抜けるかのような勢いで土壁に体当たりした。
土煙が舞い上がる。
砂埃が晴れる。
そこに広がっていたのは...何もない荒野だった。
ドランゴドルの姿はどこにもない。まるで、最初からそこにいなかったかのように。
ルーベンの目が険しく細めらる 。その表情には、獲物を取り逃がした猟犬のような焦りと怒りが混じっていた。
「くそっ...」
彼の拳が強く握り締められる。ドランゴドルとの決着は、まだ先になりそうだった。




