窮地
「聖なる鍵はこの祠にあるのか?ロクス」
龍腕のガルドが、冷ややかな笑みを浮かべて立っていた。
ロクスの頭の中で、様々な思考が疾走した。逃げるか、戦うか、それとも...
「聖なる鍵?何のことですか?」ロクスは冷静を装って答えた。「私たちは任務通り、村の食料を調査していました......。」
ガルドは笑みを崩さずに歩み寄ってきた。「そうか?それでこの古い祠にはもともと食料もありそうにないが?」
ナミダが震える声で割り込んだ。「それは...私のせいです。私が村の様子を詳しく知りたいと言い出して...」
ガルドの視線がナミダに向けられた瞬間、ロクスは老人に目配せをした。 老人はかすかに頷き、ゆっくりと祠の方へ後退し始めた。
「そうか、ナミダ。」ガルドの声には皮肉が滲んでいた。「お前はここに聖なる鍵があるのをしっているな?探してきて俺に差し出せば命だけは助けてやるぞ...」
次の瞬間、ナミダの目から涙が溢れ出した。それは、まるで霧のように周囲に広がっていく。
「な...何だこれは!」ガルドが叫んだ。
ナミダの涙の霧が辺りを包み込み、視界を遮った。ロクスはこの機会を逃さなかった。
「老人、逃げるんだ!」
老人は素早く祠の中に駆け込んだ。ロクスも後に続こうとしたが、突然、強い力で引き戻された。
「甘いな、ロクス。」ガルドの声が耳元で響いた。「お前の正体は、とっくに見抜かれてんだよ。」
ロクスは焦った。しかし、この時!。
「そうか、バレていたか。」ロクスは静かに言った。「それなら話が早い」
そう言うと、ロクスの体が突然、霧のように溶け始めた。ガルドの手をすり抜け、ロクスは祠の中へと消えていった。
「くそ!?」ガルドの驚愕の声が響く。
祠の中、老人は既に祭壇の前に立っていた。
「この場所が?。」ロクスは息を切らしながら言った。
老人は頷いた。「そうだ、何らかの力が宿る場所だ。」
ロクスは一瞬考え込んだ。そして、決断を下した。
「老人、その祭壇の横の穴に入って身を隠してください。私は、応援を...」
突然、大きな音が響いた。そこには、涙の霧を払いのけたガルドが立っていた。
「逃げ切れると思うか」
ガルドの右腕の龍の刺青が光り出す。「俺が直々に相手してやる」ガルドはニヤついている。
ロクスは老人の入った穴の前に立ちはだかった。「ナミダ、ここを守ってくれ!」
ナミダは頷き、穴を守るように立った。
ガルドの腕から、炎の龍が現れ、ロクスたちに襲いかかる。ロクスは再び体を霧状に変え、攻撃をかわした。
「面白い能力だな。」ガルドが言う。「だが、どこまで続くかな?」
ロクスは苦しい戦いを強いられた。ガルドの炎の龍は、彼の霧の体さえも焼き尽くそうとする。しかし、ロクスは諦めなかった。彼は、霧となって祠内を駆け巡り、ガルドの注意を自分に引きつけた。
その隙に、ナミダが行動を起こす。彼女の涙が、今度は水となって溢れ出し、ガルドの炎を消そうとする。
「くっ...」ガルドが舌打ちした。
ロクスはこの機会を逃さなかった。彼は素早く、ナミダと老人の元へ駆け寄った。
「逃げるぞ!」
三人は穴を通って祠の裏口から逃げ出した。ガルドの怒号が背後で響く。
「待て!こざかしい!」
しかし、彼らは既に森の中へと消えていった。逃げながら、ロクスは小さな光る石を取り出した。それは、ヨルセフから密かに渡されていた通信用の魔石だった。
「ヨルセフ様、聞こえますか?」ロクスは息を切らしながら石に話しかけた。『潜入がバレました』しかし、奴らの探しているものがおぼろげながら見えてきました。至急、応援を...」
突然、石が強く光った。そして、見覚えのある声が響いた。
「よくやった、ロクス。」ヨルセフの声だ。「今すぐそこを離れろ。我々が直ちに出動する。」
ロクスは安堵のため息をついた。




