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影の潜入者

 北方の山岳地帯、切り立った崖の中腹に巨大な洞窟が口を開けていた。この自然の要塞こそが、ドランゴドル盗賊団の新たな拠点の一つだった。洞窟の入り口には、鋭い目つきの見張りが立っている。彼らの背後には、松明の灯りが揺らめき、内部の喧騒が聞こえてくる。


 ヨルセフの部下であるロクスは、盗賊団の新入りを装って、緊張した面持ちでその入り口に立っていた。彼の姿は、やせこけた若者のそれに変化していた。ボロボロの服を身にまとい、顔には適度な緊張と期待が混ざった表情を浮かべている。


「お前が新しく入った奴か?」厳しい声で見張りの一人が尋ねた。


ロクスは小さく頷いた。「はい...ドラン様に、その...力を認められて...」


見張りは軽蔑的な笑みを浮かべた。「へっ、またか。最近、ドラン様は珍しい能力の持ち主を集めているからな。さっさと中に入れ。」


ロクスは恐る恐る洞窟の中に足を踏み入れた。内部は予想以上に広く、まるで地下都市のようだった。中央には大きな広場があり、そこでは数十人の男たちが武器の手入れをしたり、談笑したりしていた。


彼は慎重に周囲を観察しながら、人々の会話に耳を傾けた。


「聞いたか?次の標的はミストヴェールだってよ。」

「まじか!もう一度攻められたらあそこももう終わりだろうよ」

「ドラン様は特殊能力者を集めてるからな。あわよくば王都まで侵攻したりしてな」


 ロクスは静かにその情報を頭に刻み込んだ。ミストヴェール...それはまさにヨルセフの領地だった。


 突然、洞窟の奥から大きな声が響いた。「新入り!こっちに来い!」


 振り返ると、そこには巨漢の男が立っていた。彼の右目には大きな傷跡が走り、左腕には龍の刺青が施されている。これこそがドランゴドルの幹部の一人、通称「龍腕のガルド」だとロクスは直感的に悟った。


 ガルドは新入りたちを集め、厳しい目つきで彼らを見下ろした。「お前たち、ここにいるのは特別な力を持つ者だけだ。だが、力があるだけじゃ生き残れねえ。お前たちの力が、俺たちの計画にどう役立つか、それを証明しろ。」


 ロクスは緊張した表情を作りながら、内心では冷静に状況を分析していた。彼は自分の「特殊能力」をどのように見せるべきか、そしてどうやってドランゴドルの信頼を得るべきか、慎重に考えを巡らせた。


 その時、洞窟の最奥部から、さらに強い存在感を放つ男が現れた。彼の全身から漂う威圧感に、周囲の者たちが一斉に身を引き締める。


ガルドが恭しく頭を下げた。「ドラン様。」


 ドランゴドル、その名を冠する盗賊団の首領が、静かに新入りたちを見渡した。彼の目は鋭く、まるで一人一人の心の中まで見通しているかのようだった。


 ロクスは、自分の変装が完璧であることを祈りながら、ドランゴドルの視線に耐えた。彼は知っていた。この瞬間から、試練が始まるのだと。


 洞窟の奥深くで、ドランゴドルの計画が着々と進められていく。そして、その影に紛れ込んだロクスの潜入作戦も。

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