ハナスの本気!
しばらく後、ハナスとルシウス、ハナフィサとリベットたちは再び農園にやってきた。
今日はついに、本格的な仕事が始まる日だ。朝の空気は清々しく、遠くで小鳥のさえずりが聞こえる。心地よい風が畑をなで、ハナスたちの心を引き締めた。
「ここからが本番でしゅ」とハナスはつぶやいた。隣で、ハナフィサが頷く。
農園の端にある、古びた馬小屋のような建物に視線を向けると、そこに奴隷たちが暮らしていることを思い出し、ハナスの心が締め付けられた。彼らがどれほど辛い思いをしてきたのか、想像するだけで胸が痛む。
「まずは、あの人たちを元気にしないとね」とハナスは決意を固めた。
「行こう」と、ハナスは軽く手を振ると、一行は馬小屋のような奴隷の住処へと向かって歩き出した。
到着すると、奴隷たちは疲れ果てた表情で座り込んでいた。皆、長い労働の日々に疲れきっていたが、ハナスが近づくと微かに希望の色が浮かんだ。ハナスは優しい微笑みを浮かべ、ハナフィサに目で合図を送る。
「お願いれしゅ」と静かに言った。
「任せて」ハナフィサは力強く頷き、目を閉じた。そして、手を前に差し出すと、柔らかい光がその手から放たれ、奴隷たちを包み込んだ。
「生命の泉よ、溢れ出でよ。この地に癒しの雫を注ぎ給え エリアヒールエリアヒール!」
瞬間、奴隷たちの顔に生気が戻る。彼らの体から疲れが抜け、力がみなぎり、自然と立ち上がった。まるで何年も苦しんだ重荷が一瞬で取り払われたかのようだ。
「こんなに…」一人の男性が感極まって声を詰まらせた。「こんなに楽になるなんて…」
「ありがとう…本当にありがとう…!」別の女性が涙をこぼしながら、ハナフィサに深く頭を下げた。
「気にしないで。これからは、もっと良い生活ができるはずだから」とハナスは、彼らに優しく言葉をかける。
続いて、ハナスは馬小屋のような建物をじっと見つめた。これも心に刺さる問題だった。こんな劣悪な環境で、人々が生活することを許してきたのか。
「これじゃ、だめでしゅ」とハナスはポツリとつぶやくと、手配していた周囲の職人たちに振り返った。「この建物を、立派な従業員寮に建て替えてくだしゃい」
「おう!」
「おうよ、任せとけ坊ちゃん」
職人たちは一斉に頷き、準備を始めた。ハナスは彼らを見守りながら、心の中で頷いた。
「これからは、皆が笑顔で働ける場所を作るでしゅ」
ハナスは元気よく農園を歩き回っていた。まだ小さな身体だが、その歩く姿には決意がこもっている。彼の後ろにはリベットがぴったりとついている。リベットは、彼が動くたびにそのすぐ横に立ち、ハナスの言葉を聞き逃すまいとするかのようだ。そんな二人の様子を後ろから着いて来ていたルシウスは微笑ましく見守っていた。
「坊ちゃん、そんなに急いで何をお考えですか?」リベットは優雅に一礼しながら問いかける。
ハナスは立ち止まり、振り返って小さな手で農園の広い土地を指さした。「ここ!ここにね、バララを…いっぱい植えるの!」
その無邪気な笑顔に、リベットは優しく微笑んだ。「まぁ、それは素敵ですこと。でも、坊ちゃん、それだけでは済みませんね。他にもやりたいことがあるのでしょう?」
「うん、こっちも!」ハナスは再び歩き始め、農園の端の方へと向かった。古びた倉庫や崩れかけたフェンスを見つめ、眉をひそめる。
「ここも、きれいにしなきゃ!」彼は少し拙い言葉で、熱意を込めて言った。
「さようでございますね。坊ちゃんのお目にかなわぬ場所ばかりですわ。私もお手伝いさせていただきます」とリベットは、まるでハナスがすでに立派な指導者であるかのように、丁寧に頭を下げた。なんだかリベットは誇らし気である。
ハナスはその後も農園の隅々まで歩き回り、改革を進めていった。古い倉庫を新しく建て直すこと、汚れた池をきれいにすること、労働者たちが休む場所を増やすこと――そのアイデアは尽きることがなかった。そして、そのすべてに対してリベットは、優しく支え、的確に手を貸していた。
「坊ちゃん、次はどこに参りましょうか?」リベットが尋ねた時、突然、数人の農園の管理人たちが険しい顔をしてやって来た。彼らは手伝いの者たちとともに、ハナスに向かって詰め寄った。
「ちょっと待て!お前、勝手に何をやっているんだ!」管理人の一人が声を荒げた。「この農園でそんな勝手な改革が許されるわけがない!」
他の者たちも同調し、ハナスを囲むようにして不安げな顔を見せた。ハナスは一瞬驚いたが、すぐに背筋を伸ばして言った。「でも…このままだと、みんな困るから…」
「困るのはお前だろうが!」別の管理人がさらに怒鳴りつけた。「お前のようなガキに何がわかる!」
リベットがハナスを庇うように一歩前に出たその瞬間、ルシウスが静かに前に進み出た。
「待て。彼のやっていることに文句があるなら、まずは俺に言え」ルシウスの低い声が響くと、管理人たちは一瞬静まり返った。
「俺たちはアデレード嬢の許可をちゃんと得ている。息子がやっている改革は、彼女の意向でもあるんだ」ルシウスは冷静に言い放ち、その鋭い目つきで彼らを一人一人見渡した。「何か文句があるやつは、今すぐ前に出ろ」
誰も動かなかった。管理人たちは顔を見合わせ、言葉を失ったように立ち尽くすばかりだった。
「…そ、それなら、仕方ない…」管理人の一人が小さくつぶやくと、他の者たちも同意するように頷き、静かにその場を去って行った。
ハナスはルシウスを見上げ、にっこりと笑った。「ありがとう、おとうたん!」
「気にするな、息子よ。俺たちは一緒にやってるんだからな」とルシウスは軽く肩をすくめたが、その目には確かな信頼が宿っていた。




