農園
広大なアデレード・ヴィオレッタの所有する農園に向かう馬車の中、ハナス、リベット、ルシウス、ハナフィサの4人は窓から外の景色を楽しんでいた。馬車はなだらかな丘を越え、色とりどりの果物や植物が生い茂る豊かな畑が広がる農園へと近づいていく。
ハナスは興奮気味にリベットに抱きつきながら、「リベット、見て!あの果物、大きくて美味しそうれしゅ!」と声を上げた。
リベットも目を輝かせ、「そうですね、すごいですね。こんなにたくさんの植物が育ってるなんて!ここで作った精油はきっと素晴らしいものになりますね!」と笑顔で答えた。
ルシウスは静かに外の景色を見つめ、「この広さ…さすが、貴族の農園だな」と感心したように言った。
ハナフィサも軽く頷き、「こんなに豊かな土地で育つ植物なら、最高の品質のものができるでしょうね」と冷静に言いながらも、どこか楽しげな表情を見せていた。
馬車が農園の入口に近づくと、愛想の良い農園の人々が笑顔で出迎えてくれた。リベットが馬車から降りると、一人の農園のスタッフがさっそく近づいてきて、にこやかに話しかけた。「皆様、お待ちしておりました!ここアデレード・ヴィオレッタ様の農園へようこそ。さあ、まずはこの農園で採れた新鮮な果物や野菜を使ったお食事をお楽しみください!」
ハナスはその言葉を聞いて目を輝かせ、「食事れしゅ!やったー!」と喜びの声を上げた。
リベットは笑いながらハナスの頭を優しく撫で、「そうですね、楽しみですね」と微笑んだ。
一行は農園の奥へと案内され、美しい庭園に並べられたテーブルに座った。そこには色とりどりの料理が並び、すべてが農園で採れたばかりの新鮮な食材を使っていた。鮮やかな野菜や果物、ハーブがたっぷり盛り付けられた料理が目の前に広がり、その香りは彼らの食欲をそそった。
ルシウスは一口料理を口に運び、「これは…新鮮で美味しいな。まるで植物の生命力そのものを食べているようだ」と感心したように言った。
ハナフィサも小さく笑いながら、「このフルーツ、甘さが驚くほど濃いわね。ここで育てられたものはやっぱり質が違うわ」と感嘆の声を上げた。
ハナスは大きな目を輝かせながら、果物を頬張り、「こんなに美味しいの、初めてれしゅ!」と夢中で食べ始めた。
リベットも、満足そうにハーブ入りのスープを口に運び、「このハーブの香り、なんだかリラックスできますね」と笑顔を見せた。
食事をふるまった農園のスタッフがにこやかに近づいてきて、「これらの食材はすべて、この農園で大切に育てられたものです。特にアデレード様のお気に入りの果物も入っていますので、ぜひお楽しみください」と誇らしげに説明した。
ハナスはその言葉を聞き、目を輝かせて「これがアデレードさんの農園で採れたものなんれしゅね!すごいれしゅ!」と興奮気味に声を上げた。
リベットはハナスの様子を見て笑いながら、「坊ちゃん、本当に美味しそうに食べますね。この農園で採れた材料なら、きっと精油も素晴らしいものが作れますよ!」と優しく言った。
ルシウスは静かに頷き、「この食材の質を見れば、確かに精油の原料としても申し分ないだろうな」と真面目に答えた。
こうして、ハナスたちは農園の新鮮な食材をたっぷりと楽しみながら、これから始まる農園での精油作りの展望に期待を膨らませていた。
お腹がいっぱいになったハナスたちは、農園の管理人の案内で広大な野菜畑や果物畑を見て回った。豊かな作物が整然と並び、その美しさにハナスやリベットは大喜びだった。
「リベット、この果物!すごく大きくて美味しそうれしゅ!」と、ハナスは満面の笑みを浮かべて畑を見渡した。
リベットは微笑んで、「はい、坊ちゃま。本当に素晴らしい農園でございますね。これで精油を作ればきっと最高のものができますわ」と、答えた。
ハナフィサも頷きながら、「これだけ手入れが行き届いていれば、植物たちもきっといい香りを作り出すでしょうね」と感心していた。
ルシウスもその美しい光景に感嘆しながら、「確かに、これだけの規模ならかなりの量の精油が作れるな」と満足げに言った。
一同は笑顔で農園を楽しみながら母屋の方へと歩き出したが、ふとリベットの耳がピクリと動いた。あちこちに落ちているゴミや、壊れかけた納屋が目に入り、彼女の表情が曇る。
「坊ちゃま、少々汚れが気になる場所がございますね」と、リベットが気を遣うようにハナスに話しかけた。
ハナスはその言葉に気づき、眉をひそめて「あれ…なんか、ここだけおかしいれしゅね」と呟いた。辺りには手入れの行き届かない部分が多く、ところどころゴミが散らかっていたり、古びた納屋が崩れかけていた。
その様子を見かねたルシウスが、無言でゴミを拾おうとしたその時だった。管理人が慌てて駆け寄り、慇懃ながらも冷たい口調で止めに入った。「ああ、いけません、旦那様。お手が汚れてしまいます。そんなことはあいつらにやらせておけばいいんですよ。」
「…あいつら?」とルシウスが眉をひそめ、問い返すと、管理人は苦笑を浮かべながら、近くで疲れ果てた様子で歩いている少女を呼びつけた。
「おい、こっち来い!」と管理人は声を荒げて、汚れた服を着た少女に怒鳴りつけた。彼女は驚いた様子で足を止め、ゆっくりと近づいてきた。疲れ切った目が、ハナスたちを見ないようにしているのが明らかだった。
「この辺りを掃除しろ!ちゃんとやらなきゃ、食事は抜きだぞ!」と、管理人は厳しく言い放った。
その光景に、ハナスは顔をしかめた。普段明るい彼も、この場面には言葉を失っていた。リベットも小さな声で「坊ちゃま…このような扱いは…」と言いながら、目を伏せていた。
「あいつらがやるべき仕事だから、旦那様方は気にしないでください」と管理人は軽く笑って付け加えた。
ルシウスはその態度に、静かに怒りを抑えながら問いかけた。「これは彼女の仕事かもしれないが、あの様子では限界だろう。掃除一つするのも精一杯のように見える。」
管理人は肩をすくめ、「まあ、奴隷にはそれくらいがちょうどいいんですよ。あいつらはきつい仕事をするのが役目ですからね」と平然と答えた。
ハナスは心の中でつぶやいた。「ここにも奴隷がいて、ひどい扱いを受けているのか…。それもそうか、アデレード・ヴィオレッタは大貴族の令嬢だし、この世界ではこれが普通なんだな…」胸の奥に苦々しい思いが広がった。
農園を一通り見学した後、一同は母屋にある休憩の部屋へと通された。管理人はにこやかに「どうぞ、こちらでおくつろぎください」と言い、お茶とお菓子が用意されたテーブルを指差してから、静かに部屋を後にした。
部屋はしんと静まり返り、どこか重苦しい空気が漂っていた。リベットはハナスの表情を気にしながら、黙ってその隣に座った。やがて、ルシウスがため息をつきながら椅子にどっかりと腰を下ろした。「何だか疲れたな…」と、ぽつりと呟いた。
誰もすぐには言葉を返さなかったが、その静寂を破ったのは、やはりハナスだった。彼は拳を軽く握りしめ、真剣な表情で言った。「僕が管理をするようになったら、ここを改革するれしゅ。奴隷をこき使って、へとへとになるまで働かせて、それでどうにかなるなんて思ってないれしゅ。何より、そんなの僕のやり方じゃない。」
ハナスの小さな体から放たれるその言葉は力強かった。
リベットは驚きつつも、すぐに微笑んで頷いた。「坊ちゃまのお考え、素晴らしいですわ。確かに、皆が生き生きと働ける場所にすれば、ここで作る精油ももっと素晴らしいものになるでしょう。」
ルシウスはハナスをじっと見つめてから、静かに言った。「…お前の言う通りだな。効率のためだけじゃない、人としての扱いをしてこそ、本当の力が発揮される。」
ハナスは力強く頷いた。「そうれしゅ。僕は変えたいんだ。皆がもっと生き生きと働ける環境を作れば、今の2倍、いや3倍くらい効率が上がると思うんれしゅ。」
ハナフィサも微笑みながら、「確かに。生き生きとした労働環境があれば、植物たちもきっともっと元気に育つでしょうね」と静かに賛同した。
ハナスは、目をキラキラと輝かせながら続けた。「それに、効率の問題だけじゃないれしゅ。奴隷も、みんな同じように幸せに暮らすべきれしゅ。そんな場所で育った植物なら、きっともっと素晴らしい精油が作れるれしゅ!」
部屋に漂っていた重い空気が、ハナスの言葉によって少しずつ和らいでいくようだった。彼の言葉は、そこにいた一同の心を温かく包んでいた。
リベットは優しくハナスを見つめ、「坊ちゃまが本気でそう考えているなら、私も全力でお手伝いいたしますわ」と言って、そっと彼の肩に手を置いた。
ルシウスも口元に微笑を浮かべ、「お前がその未来を目指すなら、俺も付き合うよ。確かに、変化は必要だ」と穏やかに言った。
ハナスは皆の顔を見渡して、笑顔を見せた。「ありがとう、みんな!一緒に、素敵な場所にするれしゅ!」




