喋りだすハナス
うーーーんと、気張っていた。
いや、別に大をしようとしていたわけではない。
ハナスは言葉を発しようとしていた。
昼食の席だった。
ルシウスとハナフィサが座るテーブルにハナスもリベットも座っている。リベットは使用人のような立場だと思うが、ハナスが一緒に座って食べろというので、しかたがない。
うーーーーん
「どうして言葉を発するのに、こんなに苦労するんだ?」
お、お、お、
もうちょっと、もうちょっとで出る!
おとううたん!
でた!!!
ハナスの口からついに「おとうさん!」という言葉が飛び出した。声は小さく、少し震えていたが、確かに言葉になっていた。その瞬間、部屋の空気が凍りついたかのように静まり返った。
ルシウスは驚きで目を見開き、しばらくの間言葉が出なかった。ハナスの言葉が自分に向けられたことを認識するのに数秒かかったようだった。
「ハナス……」と、ルシウスは低い声で呟いた。ハナスが最初に発した言葉が「おとうさん」だということが、彼の心に深く響いた。彼の目が潤んでいるのがわかる。
ハナフィサは手で口元を抑えながら感動に浸っていた。「ハナス……すごいわ……」彼女の声も震えていた。
リベットも微笑んでハナスを見つめ、そっと頭に手を置いた。「坊ちゃん、よくがんばりましたね。初めての言葉がこんなに素敵なものになるなんて……」リベットの顔にも誇らしげな笑みが浮かんでいる。
ハナスはみんなの反応を見て嬉しそうに微笑んだ。まだたどたどしい声ではあったが、言葉を発することができた喜びで胸がいっぱいだった。
ルシウスはハナスにそっと手を伸ばし、彼を優しく抱きしめた。「ありがとう、ハナス。お前がそんな言葉を……。本当に嬉しいよ……」
ハナスは少し恥ずかしそうに笑って、ルシウスに身を寄せた。
おとううたん、フゥーやっと言えた.....。
その場にいた、全員がその言葉を聞いて吹きだした。
リベットはもうすでにこの家の家族になったようだ。ハナスはリベットがやってくると、頭をなでたり、尻尾を触ったり、耳を口の中に入れたりした。
一通り、リベットをベタベタにした頃、ハナフィサがやってきて、ハナスとリベットを並べて、文字や計算の勉強の時間だ。
ハナフィサはもともと平民ということもあり、まったく貴族らしさがなかった。
リベットとしてはありがたかった。いくら教育されてもリベットは貴族に仕えるメイドにはなれないだろう。なんたってこの間まで奴隷として長い間、作法とは異なるところで生きていたのだ。本当に貴族のメイドとして教育されたなら、ストレスで病気になってしまうだろう。
今は、ハナスの隣で目をキラキラさせながら、ハナスの勉強姿を見ている。
ハナスは実によくできる子だった。
それはそうであろう、ハナスは召喚者で前世の記憶がある。この世界の文字を覚えるのには少し苦労したが、計算は簡単だった。基本この世界では四則計算が出来れば最高頭脳と呼ばれた。基本は足し算と引き算で、掛け算や割り算を使うのは宮廷の学者くらいだ。
基本ができていれば、生きるのに困ることはない。
あんまり近くに寄りすぎると、ハナスが鼻や耳にかぶり付いてくる。そのたびにリベットは「ワキャ!」と鳴いた。
ハナスにしてみれば、前世の猫に悪戯でもしているつもりだろう。
だが、この世界の猫は限りなく人間に似ているのだから、その反応がまた面白い。ハナスはキャッキャと笑った。
「坊ちゃん、少しお手柔らかにお願いします……」
「ハナシュってよんれいいって、いったよね」
ハナスが言うと、リベットはブルンブルンと首を横に振った。
「そんな恐れ多い、坊ちゃんを呼び捨てにするなんて」
その様子を見ていたハナフィサも思わず笑みを漏らした。「ハナス、勉強に集中しなさい。リベットもあなたのために時間を割いてくれているのよ。」
ハナスはハナフィサの言葉に従い、もう一度机に向かう。そして、再び文字や数字の問題に取り組み始めた。その速さと正確さに、ハナフィサは感心せざるを得なかった。
「ハナス、本当にすごいわ。もうこんなに進んでしまったのね。普通の子なら、これを覚えるのに何年もかかるのに……」
リベットも隣で「すごいです、坊ちゃん!」と目を輝かせて言った。彼女は本当に、ハナスの勉強ぶりに心から感心しているようだった。リベットは何もかもが新鮮で、彼女自身もハナスの成長に興奮していた。




