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勇者を食う

地下へと続く長い階段は、暗く湿った空気に包まれていた。壁には苔が生え、不気味な雰囲気が漂う。ドランゴドラは幾人ものバンパイアに囲まれ、ゆっくりと階段を下りていく。足音が石の床に反響し、不気味なリズムを刻む。デフィータは最後部に位置し、その存在感はまるで闇そのもののように重く、周囲を圧迫していた。


「レツヤ・サメジマ……あのくそ勇者め……」

ドランゴドラは心の中で呟き、歯を食いしばった。

あの男は、ソルゼ王国で好き勝手に振る舞い、彼らの計画を何度も妨害してきた。その強さを鼻にかけ、彼らを散々に翻弄した挙句、今では溶けかけた身体で牢に繋がれているという。無様な末路だ。しかし、ドランゴドラにとっては、それこそが好都合だった。


「早く食いたい……あいつの力がほしい……」

彼の心は焦りと欲望で渦巻いていた。勇者の力を手に入れれば、デフィータさえも凌ぐ力を得られるかもしれない。その可能性に、彼の胸は高鳴る。


階段を下りきると、そこには重厚な鉄の扉が現れた。扉の前にはさらにバンパイアの守衛が立ち、不気味な赤い瞳でドランゴドラを睨みつける。

「ここだ。」

デフィータの声が背後から響く。彼女はゆっくりと前に出て、扉に手をかける。

「お前の望みを叶えてやろう。ただし、覚えておけ。もしお前が私に背くような真似をすれば、その瞬間にお前は消える。」


ドランゴドラは深く頭を下げ、恭順の意を示す。

「ご安心ください、デフィータ様。私はただ、あなたのためにより強力な力を手に入れ、そのご計画に貢献したいだけです。」


扉が軋りと音を立てて開く。中には薄暗い牢獄が広がり、奥には溶けかけた身体の男――レツヤ・サメジマが鎖に繋がれていた。かつての勇者の面影はなく、今や彼はただの無力な囚人に過ぎなかった。


ドランゴドラはその姿を見て、思わず笑みを浮かべる。

「くそ勇者め……これがお前の末路か。」

彼はゆっくりとレツヤ・サメジマに近づき、その溶けかけた身体の一部――爪の先を掴み取った。

「これで、お前の力は私のものだ。」


彼はその爪を口に運び、噛み砕く。瞬間、何らかの力が体内に流れ込むのを感じた。勇者の力が、彼の血肉と融合していくような感覚 。

「ふふふ……これで、私はさらに強くなった。」

彼の目には、野心の炎が燃え上がる。

デフィータを凌ぐ力を手に入れた。――そう確信しながら、ドランゴドラは静かに笑みを浮かべた。




次の瞬間、重く重厚な鉄の扉が背後で閉ざされた。鈍い金属音が地下牢に響き渡り、ドランゴドラは驚いて振り返った。扉の向こうには、バンパイアたちが不気味な笑みを浮かべながら立ち並んでいる。その中にデフィータの姿も見えた。彼女は冷ややかな目でドランゴドラを見下ろし、まるで実験動物を観察するかのような視線を向けていた。


「デフィータ様……これはいったいどういうことでしょう?」

ドランゴドラは焦りながら問いかける。しかし、その声には既に不安が滲み出ていた。


デフィータは軽く肩をすくめ、からかうような口調で答えた。

「うん?それを食らって、お前がどんな風に変化するのか見てやろうと思ってな。実験には最適の環境だろう?」

彼女の声は冷たく、どこか楽しげだった。


ドランゴドラの胸に怒りが沸き上がる。

「ふざけるな……!」

彼は拳を握りしめた。


勇者の力を手に入れた今、この鉄の扉など簡単に吹き飛ばせると確信していた。

........こんな鉄の扉ごとき、バンパイアどもをろとも吹き飛ばしてやる!


ドランゴドラは全身の力を込めて鉄の扉を勢いよく叩きつけた。

――が、次の瞬間、彼の手は骨ごと砕け散り、激しい痛みが走った。

「ぐあああああっ!」

彼は悲鳴を上げ、その場に膝をつく。鉄の扉はビクともせず、むしろドランゴドラの力がまるで通用しないかのようだった。


「うひゃひゃひゃひゃひゃ!」

バンパイアたちの嘲笑が地下牢に響き渡る。その笑い声は、ドランゴドラの自尊心をズタズタに引き裂くかのようだった。


デフィータは冷静に、しかしどこか楽しそうに言葉を続ける。

「この扉は、お前のような存在が簡単に破れるものではない。勇者の力を手に入れたと思ったか?」



デフィータの言葉に、ドランゴドラは凍りついた。彼女の声は冷たく、どこか嘲るような響きを帯びていた。

「ほれ、後ろを見てみみぃ~。」

その言葉に、ドランゴドラは恐る恐る振り向いた。

そこには、溶けかけた勇者の姿はなかった。代わりに、大きなネズミのような化け物が死にかけの状態で倒れている。その姿は醜く、不気味で、ドランゴドラの目を疑わせるには十分だった。


「これはいったい……!」

ドランゴドラは声を震わせ、混乱と恐怖が入り混じった感情に襲われる。彼の頭は一瞬で真っ白になり、何が起こっているのか理解できない。


デフィータの声が再び響く。

「おまえ、本当に勇者を食えると思ったのか?」

その言葉に、周囲のバンパイアたちが一斉に笑い声を上げる。その笑い声は、ドランゴドラの心をさらに深く傷つけるかのようだった。


「わしの幻影魔法じゃよ、お前が見た勇者の姿は。」

デフィータはどこか楽しげにいった。

「お前が食らったのは、ドロリーラットじゃ。この辺に生息する汚い魔物じゃ。」


ドランゴドラは自分の手を見る。そこには、ネズミの薄茶色の毛が大量に生え始めていた。彼の顔にも、同じように毛が生えているのを感じる。

「な、なんと……!」

彼は自分の身体の異変に驚き、声を上げる。しかし、その声さえもどこかネズミのような軋む音に変わっていた。


「ふふふ……どうやら、魔物の力がお前の身体に融合し始めたようだな。」

デフィータは冷ややかに笑い、ドランゴドラの変化を楽しむかのように見つめる。

「お前が望んでいたものを手に入れたろう?おめでとう」


ドランゴドラは怒りと絶望で胸が張り裂けそうだった。

「くそったれ……デフィータ……!こんなことになるなら……!」

彼は歯を食いしばり、必死に身体の異変を抑えようとするが、毛はどんどん生え続け、彼の身体はネズミ人間の怪物へと変貌していく。


バンパイアたちの笑い声がさらに大きくなる。その中で、デフィータは最後に一言を残す。

「さあ、どうなるか楽しみだな。お前がどんな怪物になるのか、知性は少しくらい残るのか?どちらにせよ、結果は私の糧となる。」


そう言い残すと、デフィータはバンパイアたちを引き連れ、階段を引き返していった。

ドランゴドラは独り、暗く冷たい牢獄に取り残される。彼の身体はどんどん異形のものへと変貌し、彼の心には怒りと絶望が渦巻いていた。


「くっ……デフィータ……!この屈辱……必ず……必ず晴らしてやる……!」

彼の声は軋み、ネズミのような鳴き声に変わっていく。しかし、その目にはまだ一筋の光が残っていた。


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