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「それでは私は、これにて失礼します」


 木々様は私と柊様を残して帰って行った。


「あっリリニアさんの部屋をまず案内します。この国のお偉いさんが準備していたから、住みやすい部屋ですよ」


 事前に聞いていた通り、私が生活するために必要なものは準備されていたみたい。とはいってもソラ様と同じ屋敷じゃなくて、離れに用意されているのが残念だけど。


 とはいえ靴を脱いで室内に入る感じはかなり懐かしかった。王国や帝国では室内でも靴は履いたままだったから、靴を脱いで日本へ戻ってきたという感じがかなりした。


「こちらの部屋です。こちらが部屋の鍵と家の鍵です。小さいのが部屋の鍵で、大きいのが家の鍵ですよ」


 2階の部屋の案内をした後で、鍵を渡してくれる柊様。


「ありがとうございます。素敵な部屋です」


 部屋にはベッドと机があり、どれも質が良さそう。そしてウォークインクローゼットもありそうなので、収納には困らないかもしれない。


「では後で村を案内しますので、一旦失礼します」


 柊様はそう言って、部屋から去っていく。


 とりあえず部屋の鍵を閉めて、ウォークインクローゼットを確認する。


 私が住んでいた王国や栄えていたはずの帝国ではない現代日本っぽい、きっちりとして丈の短いワンピースが何枚かある。下着もどこからどう見ても、前世よく見かけたような化学繊維っぽいものだ。


 念のためにタグを見てみると、前世聞いたことがある有名な会社の名前がそこにはあった。


 すなわちこれらの服は世界を渡ってやってきたということ。異世界転移者である柊様がいるのだから、物だって世界を超えるのは普通かもしれない。


「すみません、他の村民のところへ行きますか?」


 ノックの後、柊様がこう提案をしてきた。


「行きます」


 私は答えて、部屋の外へと出る。


「そういえばリリニアさんって貴族令嬢なんでしょう。なんかなろう系や新文芸の小説に出てきそうなお嬢様です」


 目をキラキラさせて、柊様は語る。


「柊様こそ異世界転移されているのですから、物語に出てきそうな人です。とはいえ髪色が日本人っぽくはありませんが、染めていますか?」


「これは魔法で髪色を変えているんです。僕一応家出中の高校生ですから。知り合いがここに来るとは思えないですが、一応身元を隠したいですので」


 流石ここは異世界ってことだろうか、髪色は魔法で変えることが出来るらしい。


 前世では黒や茶の色だったはずの柊様の髪色は、今灰色の混じった紫だ。


「そうそう、柊くんとよんでください。多分僕の方がリリニアさんよりも年下だし、様付けされることはなれません」


「私は19歳です。そうですね、私の方が柊くんよりも年上です」


 慣れないながらも頑張ってくんづけにしてみる。身分制度がない日本出身だもの、年上から様付けされることはなじみが柊くんにはないみたい。


「19歳ってことは成人していますね」


「成人って20歳なのではないでしょうか?」


「少し前に成人が20歳から18歳になったのです。成人式が20歳のつどいになったり飲酒や喫煙できる年齢がそのままだったりしますが、一応18歳で大人です」


 私が王国で生きていた間に、平成が令和になって成人年齢が18歳になる。うん、変わりすぎでしょ、日本。ていうかなぜ、成人年齢が18歳になったんだ?


「あっあそこに村の人がいます」


 村の入り口近く、水色が印象的な若い男性とワンピース姿の落ちついた女性がいる。


「この人はリリニア。アラリーヌ・シレラさんです。お屋敷に住んでいるソラ・アゴーニさんの婚約者です」


 柊くんはその2人に私を紹介してくれる。


「俺は梅屋敷胡桃(うめやしきくるみ)だ、ソラさんとは会ったことがないけど、婚約者さんよろしくお願いします」


「私は佐藤藍紫(さとうらんし)です。私もソラさんとは会ったことがありません。婚約者さん、よろしくお願いします」


「私がご紹介にあずかりましたリリニアです。皆さんソラ様と会ったことがないのですか?」


 意外だ。柊くんもそうだけど、私のようにややこしい関係になっていない人達は、ソラ様と会ったことくらいありそうだけど。


「ソラ様はおやしきから出てきませんから。この村の人は会ったことがないのです。そういえばリリニアさんは婚約者ということは、会ったことがあるのですか?」


 柊くんは不思議そうな顔をして、私を見る。


「ありません。ソラ様の出身国である帝国と、私の出身国である王国が決めたことなので、実は私ソラ様と関わったことすらありません」


 結婚は恋愛というよりも、国の都合が大事。そこで一度も関わったことのない人と結婚することは、実は珍しくない。


「この国では国が結婚を決める、しかも一度も会ったことのない人と結婚するって事はあり得ないです」


 藍紫様は驚いている。


「手紙のやり取りもないんですか?」


「そもそもソラさんの顔を知っていますか?」


 胡桃様、柊くんは想定外って顔をしている。


「手紙のやり取りをしていませんし、私はソラ様の顔を知りません。ですが私はソラ様の婚約者ですから」


 私は笑顔で答える。


 私にとって結婚は自分の意思で決めることじゃないから、そこはおかしくないはず。


「王国や帝国、その2国とこの国は関係ありません。せっかくですし、結婚以外のことを考えた方がいいですよ」


「なんならこの村から出ていって新しい人生を始めても大丈夫なはずです。この国では自分の生き方を自由に考えることができます」


 藍紫様と胡桃様は、私は思いもしなかったようなことを話す。


 会ってくれないソラ様のことを忘れて、自分の人生を生きる。それは私にとってありえないこと。


 私は貴族令嬢と他の人から呼ばれる存在で、帝国と王国の結びつきを深める意味でもこの結婚は大切。そこは譲れない。


「まあリリニアさんはこの村、いやこの国に来たばかりです。今後どうするかは、ゆっくり考えた方が良いです。それにソラ様のようなワケありの人に嫁ぐよりも、他のことをしたほうが絶対いいです。なろう系とかにありそうな、冷たい婚約者を放置して、新しい人生を始める感じですよ」


 柊くんも、私がソラ様との結婚よりも他の生き方をする方がいいと考えているらしい。


 でもさ、私は今まで結婚すること以外考えなかった。


 昔は王子と結婚して、ゆくゆくは王妃になって国を支えるんだって夢見ていた。その夢が無くなっても、結婚することで人生をどうにかできるという考えは変わっていない。いや変えられない。


 例え前世、結婚が原因で自らの命を絶ったとしても。王国で学んだ常識を、簡単には変えられない。


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