七
ホンシュウは『境界をこえて』(https://ncode.syosetu.com/n8129if/)と同じ国です。そこでこの物語は『境界をこえて』よりも後の話、後日談にもなるかもしれません。
「令和6年村は今年できました。それもあって今村に住んでいるのは5人くらいです。でもこれからこちらの世界に転移してくる人も増えてくる予定ですから、どんどん賑やかになるはずです」
木々様は楽しそうに話す。
「そうだとうれしいです」
5人しか住んでいない村だからか、たまたまなのか、道には私達以外誰も歩いていない。
王国や帝国にはなかった、コンクリートみたいな物質で舗装された道。そこを二人きりで歩くと、寂しい。
「アゴーニ様が住んでいらっしゃるおやしきは一番遠いです。そのかわりに知音集落で一番大きな家で、なんと離れもあります」
「流石帝国の皇族です」
帝国は私が住んでいた王国よりも遥かに大きくて裕福だ。そこで帝国皇族としてのプライドを守るためにも、ソラ様は大きい家で暮らしているかもしれない。
まっ私も小さい家でよく知らない人と生活するよりも、大きい家の方が気楽だ。
「ソラ様の家は帝国風ですか?」
「いえこの国風だと聞いています。機械はありませんが、そのかわりに魔道具がいっぱいありますから、生活には不自由しないそうです」
「そうだとありがたいです」
なんせ王国や帝国での暮らしは前世の日本でしていた暮らしと比べたら、低レベルだった。特にお手洗いやトイレ関係は帝国で少しマシ、王国ではアレなレベルだったといって過言ではない。
あっエゾではお手洗いやシャワーは魔道具であって使いやすかった。少なくともあのレベルは、ここでの生活に欲しい。
「こちらがおやしきです」
王国や帝国の家とは違う、前世でいうところの高級住宅って感じのある家の前で木々様がとまる。
「こちらに住んでいらっしゃるのですね」
「そうです。ではインターフォンを押します」
木々様は前世でよく見た、インターフォンを押す。
「機械の音ではないです」
機械特有のピンポーンという音ではなくて、きれいな鳥の鳴き声。前世ではインターフォンからきれいな鳥の声が聞こえることが無かったので、驚いた。
「これは魔道具ですから。すみません、簓木木々です。ソラ・アゴーニ様の婚約者であるリリニア・アラリーヌ・シレラ様をお連れしました」
『少々お待ち下さい』
インターフォンから帝国語がかえってくる。
あれっここでは日本語が使われていて、帝国語は全く使われていない。
それなのに帝国後で話す人。ここに住んでいるソラ様は帝国の皇族だから、それでいいのだろうか? いやここはホンシュウだから、日本語で話すのが普通じゃない?
『私はソラ様につかえるフロスト・ネゼラと申します』
少し経ってから開いたドアから、桜色の髪と淡い紫の瞳が印象的なメイド服を着た人が出てきた。
帝国風の顔立ち、帝国語、日本っぽくない名前。うん、この人は間違いなく帝国の人だ。きっとソラ様の侍女だろう。
『私はリリニア・アラリーヌ・シレラと申します。ソラ・アゴーニ様の婚約者です。よろしくお願いします』
そこで私は帝国語で挨拶をする。
『そうですか。事情は聞いています。ソラ様は確かに帝国の皇族です。でも今帝国とは関係なく、この国で生活しています。そこで帝国で勝手に決められた婚約には従えません』
フロスト様はゆっくりと、確かに拒絶した。
確かに私とソラ様の婚約は、帝国と王国が勝手に決めた。そこに私はのったわけだけど、ソラ様には何の許可も取っていない。
基本的には王族、貴族の結婚は恋愛だけではできないと王国ではなっていたし、帝国もそこら辺は同じはず。それでもホンシュウで暮らして、その考えは変わったかもしれない。
『ではせめてソラ様と会うことはできないでしょうか? 確かにソラ様は婚約を認めていないかもしれません。でも私達は婚約しているので。そこでせめて会いたいのです』
ふと愛していた王子様のことを思い出してしまった。婚約者として交流していたのにも関わらず、あっさりと婚約破棄をしやがったやつのこと。ソラ様がそういう風に薄情な人かどうか分からない。でも会ったこともないのに、婚約破棄だけはされたくなかった。
『それも無理です。ソラ様はどなたともお目にかかりません。そこで離れへ行ってください。離れにはシュウ様がいらっしゃいますし、リリニア様の部屋もそこにあります。こちらにはもう来ないでください』
そう言ってドアをしめるフロスト様。
「えっとさっきの人は何て言っていましたか?」
帝国語が全く分からない木々様はきょとんとしている。
「ここには来ないでください、離れに行ってくださいです。全部帝国語です」
「私は帝国語が分からないので、教えていただきありがとうございます。時間が経てば状況は変わるかもしれません。とりあえず離れへ行きましょう」
「そうですね。ありがとうございます」
私はとりあえず、離れへ行く事にする。
おやしきから少し歩くと、こぢんまりとした家がそこにはあった。そこが離れらしい。木々様は迷わずに、インターフォンを押した。
「木々さん、どうしたんですか?」
紫っぽい髪をした、どこからどう見ても帝国とは関係ない少年が現れた。
「こちらの方はソラ・アゴーニ様の婚約者、リリニア・アラリーヌ・シレラ様です。今日からこちらで生活します」
「リリニアです。日本語は異世界転生者なので読み書き、話すことはできます。よろしくお願いします」
離れで暮らす人。そこで同居人となる人に、私は慎重に挨拶する。
「僕は津島柊です。年は16歳で、とある温泉町出身の異世界転移者です。僕ソラさんとは会ったことないけど、この離れの管理をしています。よろしくお願いします」
フロスト様とは違って、笑顔で柊様が話す。
異世界転移者ということは、日本からこの世界にやってきた人のはず。私は前世日本人だから、ぶっちゃけこの国の人よりもなじみやすいかもしれない。
そう考えると、ここでの生活がうーんと楽しみになった。