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quatre

「お嬢様、ツバキ様は帰りましたか?」


「はい、そうです」


 部屋へ入ってきた侍女はティーセットの片付けを始めた。


「帝国の皇族と私が結婚して欲しいらしいです。ただし条件があり、もう二度とこの国へは戻ってこられないそうです」


「それは素敵なことです。帝国の皇族と結婚できるなんて、普通はあり得ません。王子様よりもずっといいです」


 侍女は片付けの手を止め、目をキラキラとさせる。


 この侍女は貴族の生活に憧れている。そこで皇族との結婚も素敵に思えるのかもしれない。


「でもよその国へ嫁ぐことになるのです。この国へ戻ることはありません」


「大丈夫です。どこの国も同じですよ。結婚が幸せで、結婚相手の身分が高いですから、大丈夫です」


「そうですかね?」


「そうです。私も良い相手を早く見つけたいです。それでは失礼します」


 侍女はティーセットを持って、部屋から出て行く。


 この国では結婚することが、女性の幸せとされる。


 高貴な生まれの女性は、同じく高貴な生まれの男性と結婚すること。その考えに当てはめると、帝国の皇族と結婚する以外の幸せはない。


 それでこの国と縁が切れようとも、今までの生活と変わろうとも、幸せということになる。


「だけど服装の違いは大きい」


 この国では貴族は基本的に部屋でくつろぐ以外はドレスだし、庶民だって足を隠すようなワンピースを着ている。


 それが前世のような足を思いっきり出すような格好をしなさいだなんて、この国の人は喜ばないはずだ。そこでさっきの結婚を夢見た侍女は、この話を聞いても幸せだと言い続けるのか、私には分からない。


 いや別に前世と同じ格好とは限らないかもしれない。


 前世と今をミックスした、露出控えめな格好かもしれない。


 そもそも前世でもおとなしいファッションをしている人はいたし、前世も昔から足だしファッションではなかったから、考えすぎなのかもしれない。


「お嬢様、ツバキ様からの贈り物です」


 先ほどの侍女がまたやってきて、荷物を置いていく。


 その荷物は綺麗な包装紙でラッピングされていた。贈り物の想像が出来ないので、恐る恐る包装紙をはがす。


 すると今まで見たことのない箱が出てきた。その箱を開けると、中からたくさんの本が出てきた。


「これは帝国で出版された本じゃない、日本の本だ」


 文庫本ばかりで、表紙はとてもつるつるしている。


 こういった表紙の印刷はこの国はおろか、帝国でも無理かもしれない。それに日本語が書かれているのだから、日本以外ではありえないはず。


 前世このような本を見たことがあるような気がする。どんな本だろうか、ぱらぱらとページをめくってみた。


 可愛らしいイラストが多用されて、日本人というよりも西洋の人が多い。これはもしかしなくても少女小説、若い女の子が読む用の小説だ。


 異世界である日本の本を手に入れる。それは大変なことに違いない。しかもそうして手に入れた本を私にくれるとは、ツバキさんはいったい何を考えているのだろうか? 私には分からない。


 分からないからこそ、その中から一冊本を読んでみる。


 西洋風の人達が登場するお話だ。世界観も日本よりもこの国に近くて、親近感がある。


 話の内容は婚約破棄された令嬢が、隣の国の王子と結婚する。そんなありえないラブストーリーだ。


 これが最近日本で流行っているのかな? 確かに西洋風の小説が日本にはあったような気はするし、現に今ある。それにツバキさんは婚約破棄された女性が別の男性と結婚して幸せになるお話が流行している、そんな話をしていた。


 私もそうなれということだろうか? こういう小説みたいに別の男性、私の場合は末っ子様と結婚して、幸せになって下さいということだろうか?


 とはいえこれはチャンスなのかもしれない。


 私のことを知らない人ばかりいる国なら、今までは信じられないようなことをしても大丈夫。


 自分の好きなように、それこそ庶民のように生きることも、前世の記憶を活かして生きることも出来る。


 だったらこの結婚はしたほうがいいかもしれない。


 そして結婚後、住んでいる国で自由に暮らそう。


 この国ではできなかった幸せを手に入れること、それが婚約がなくなったことに対する復讐にもなりそう。


 私は末っ子様と結婚して、この国を捨てる。これでいいんだ、これ以外の道はもうないんだ。



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