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十三

『フロスト、なぜ来た』


 青空くんは帝国語ですらすらと話し、フロスト様の方を見る。


『そりゃあソラ様が頻繁にいなくなるからです。帝国皇帝の末っ子であるあなたが、この国の庶民と気軽に関わっていいわけありません』


 フロスト様はなぜか怒っているみたいだった。


 そういえばフロスト様は帝国でよく見かけたような侍女服を身にまとい、髪を丁寧にまとめている。いわゆる見た目が異世界転生物に出てきそうな侍女だ。


『この国では帝国の身分は関係ないよ。フロストもサフィールのように帝国に残ればいいのに』


『いいえ、それはありません。私はソラ様につかえています。そこで帝国で暮らすことよりも、ソラ様におつかえすることが大事です』


 フロスト様がまじめな顔で答える。


「ねえねえ、フロストさんと青空さんって何語で話しているか分かりますか?」


 柊くんは帝国語が分からないから、当然のように2人が何を話しているのか分からない。


「2人とも帝国語で話しているのです。そして青空くんがソラ様だったみたいです」


「そうかもしれません。そもそもこの村に青空さんは住んでいないですし、この村の近くにも人は住んでいないですし。だとしたら青空さんはソラさんと同一人物だってことはありえそうです」


「そうだったのですか……」


 どうやら柊くんはうっすらソラ様と青空くんが同じ人だと思っていたらしい。


『そうですが、帝国から婚約者が来たこともありますし、帝国皇帝の末っ子である事からソラ様は逃げることができません。それほどに帝国の皇族は、特別で尊いお方です』


『帝国の落ちこぼれ皇族だから、そんなに偉くないだろ。せっかくこの国でごくごく普通に生きることができそうだから、邪魔すんなよ』


『ですが忘れないでください。ソラ様は神の子であり、皇族である特別な存在です。そこで他の人とは違うのです』


 帝国語を使い、帝国風の見た目をしているフロスト様。


 この国へ来ても、帝国に対する愛着をフロスト様は忘れられないのだろう。ソラ様はそうじゃないみたいだけど。


『ルレラロッソリホナツラロ! 私の主である事を、ソラ様は忘れないで下さい。では失礼します』


 私と柊くんには見向きもせず、フロスト様は立ち去っていった。


 基本的には帝国語が分からないのでソラ様とフロスト様の会話が全く分からない柊くん、そして青空くんとソラ様が同一人物だったことを知ってどうしたらいいのか分からない私が取り残された。


『青空くんがソラ様だったのですね、気がつきませんでした。ただソラ様は青っぽい黒髪で、目の色が青色だとうかがっていたので、そこが違うのが不思議です』


「髪がウィッグで、目はカラコン。本当は僕髪や目が日本人っぽくないので、できるだけ隠しておきたかった。でもフロストがうるさいので、魔法でかえることも出来なかったので、こういう風に今だけごまかしている」


 私の帝国語に対して、この国の言葉で返す青空くん。


 この国は日本人にとって、青っぽい黒や青い目はなじみがないはず。王国では青っぽい髪は帝国貴族や帝国皇族の繋がりがあるとして尊ばれるけど、この国じゃそうじゃないし。


 でもこの国は魔法で髪色を変えることができて、柊くんもそうしている。そこでわざわざ日本人っぽい髪色にしなくてもいいんじゃないかっていう気がしている。


「ていうことは青空さんとリリニアさんは婚約関係にあるってことになりますよね」


 柊くんが今の状況を、簡単にまとめてしまった。


 そうだった、私はソラ様に嫁ぐためにこの国へやってきたのだ。そして青空くんがソラ様ってことは、柊くんの話の通りになってしまう。


「令和の雰囲気があり、家族が幸せと結びつかないような今、他人に定められた人と結婚するのは時代錯誤だよ。だからリリニアはここから離れてどこにでも行っていいよ。このハザマの世界じゃなくて、別の所だったら王国に戻れる可能性だってある。僕は帝国皇族のワケありっ子だけど、リリニアはそうじゃないし」


「いえそうはしません。私はここで生きます。それに私はソラ様、青空くんのことをよく知りません。せっかく婚約したのですから、青空くんのことをもっとよく知りたいです」


 王国にいたときも、前世の時も。私は結婚することが、私の人生の目的だと思っていた。住んでいる国が変わったくらいで、それが変わることがない。


 そこで私はソラ様の婚約者として、ここでいたい。そしてちゃんと自分に課せられた使命を達成したい。


「でもなー、リリニアは高嶺の花だから、僕には無理だって。きっと徒恋になっちゃうだけだから、やめとくよ」


 青空くんは話しながら、後退る。


 身分を考えるのなら、青空くんの方が上だ。それに今の私は王国の貴族令嬢ではなくて、前世日本で暮らしていたただの人。そこで決して私が高嶺の花ってことにはならないはず。


「まあ時間はありますし、ゆっくり考えたらどうでしょうか? せっかく出会えたんですし、仲良くしていきましょう」


 柊くんがカオスになりそうな、この場所をまとめる。


 そうかもしれない。婚約破棄されて、この国へやってきて、新しい生活を始めることができた。去年の私が思いもしなかったようなことが、今起きている。


 そこで青空くん、柊くん、そして村の人やフロスト様とも仲良くしたい。


 ここで私はこれから、生きていくから。


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