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十一

「東日本大震災のことが大きかったです。あとスマートフォンでしたっけ? それが普及しているのがビックリしました」


「そうだね、2010年代でかなり変わった」


 青空くんが私の意見に同意してくれる。


 私は2005年に亡くなったので、当然のことながら2010年代のことはよく知らない。東日本大震災のこと、スマートフォンがかなり普及したこと、そして何よりも平成が終わったこと。その他にも色々。


「社会は色々変化していますから、2010年代でもがらりと変わったことはあるかもしれません。あっこれ前にもらった奈良土産のクッキーです」


 鹿のゆるキャラが描かれた箱から、柊くんがプラスチックの袋に入ったクッキーを取り出して、私にくれた。


「ありがとうございます」


 前世ではこういうクッキーをよく食べた。でも今になってからは、見かけることすらなかった。


 私が住んでいた王国ではどんぐりやくるみなどで作られたクッキーだったし、帝国のクッキーは小麦で作られていたものの砂糖が入ったいなかったから、甘くなかった。


「おいしいです」


 王国や帝国では味わえなかった、人工的な甘さ。久しぶりに食べたからか、前世を含めて、産まれて一番おいしく感じた。


「そうおいしい。これは異世界のお菓子だからおいしいのは当然だけど、この国のお菓子もおいしいよ。カロリー控えめで甘いお菓子という、夢のような物もあるし」


 青空くんは慣れたように、クッキーを食べている。


 やっぱりこの国は、王国や帝国なんかよりもずっと生活レベルが高いらしい。


 そこで帝国からこの国に移ってきた、ソラ様達は運が良かったかもしれない。絶対帝国よりも、この国の方が良い暮らしができる。


「リリニアさんは絶対この集落以外にも行った方がいいですよ。このハザマの世界にも都会があって、そこのお店とか行ってみたらいいですって」


「そりゃそうだよね。この国は他の国と基本的には関わりがない。そこで帝国やリリニアの生きていた王国で決められたことは無視して、生きていった方が良いよ」


 柊くんと青空くんは、この村以外の場所へ私が行くことをすすめてくる。


 確かにずっとじゃないのなら、一時的に今住んでいる村から離れるのはいいかもしれない。


「そういえばソラ様はどのような生活をしているのか、ご存じですか? 私ソラ様に嫁いできたのです。でもソラ様のことを私はよく知りません」


「少なくともソラ様はこの国の言葉、もしくは日本語ができるはずです。フロストさんがこの国の言葉を全く使えませんから。そうじゃないと、この国で生活しようとはしないはずです」


 柊くんが教えてくれる。そういえばそんなこと、以前もどこかで聞いたような気がした。


「確かソラ様は私と同じく異世界転生者とお聞きしました。私は日本語と王国の言葉はほぼできるのですが、帝国語はそれに比べると下手です」


 帝国語は上流階級で使う言葉は大丈夫だけど、庶民が使うようなくだけた言葉やなまっている言葉なんかはよく分からない。そこで私は帝国語が、そんなに上手ってわけじゃない。


「僕帝国語はよく分からないですから、リリニアさんはすごいです。それにしても帝国の皇族がこの国で庶民の暮らしをするなんてありえないですよね? だってなろう系にありそうなお偉いさんですよ」


「いえ帝国皇族のくらしよりも、今の暮らしの方が便利だって可能性は高いです。何よりもここは清潔ですし。ソラ様には侍女がいらっしゃるので、生活のレベルは今の方が上なのではないでしょうか?」


 ぶっちゃけ私はもう二度と王国には戻りたくない。この国で暮らせてよかったと、心の底から思える。


 柊くんは異世界出身だから、王国や帝国での暮らしを知らないだろう。だからソラ様が、この国での暮らしの方がいいと思っているかもしれない。


「この国のいいところは生活レベルの高さだけじゃないんだな。LGBTQに関するサポートもばっちり。少なくとも異世界とは違って、トランスジェンダーに対する差別が全然ないのがいい」


「そーですよね、僕もそう思います。だからこの国これてよかった、日本を離れることができてよかった、そう思います。フツー異世界物って、日本よりも文化レベルが低い世界へ行く事が多いじゃないですか? でもこの国は日本よりも文化レベルが高いので、そこはラッキーです」


 青空くんに柊くんが同意する。


 前にも思ったけど、2人は私が知らないことを共有しているらしい。


 私達は皆日本に繋がりがあるのだけど、私だけ異世界転生者でしかもここから遠い王国の出身。それが関わっているのか関わっていないのもあるのか、2人と私の間には壁がある。


「せっかくだし3人で色々なところへ行こうよ。ここでは自由にどこにでも行けるから」


 青空くんが誘ってくれた。


 3人で行く。となれば青空くん、柊くん、私の3人ってことになるのかな? 私も同じグループに含まれていることがうれしい。


「そうですね。私はこの国のこと、今の日本のことを知りませんから、知ってみたいです」


 分かっている。私はソラ様に嫁ぐ、そのためにやってきた。そして今まだその目的が達成できていない。なんせ私はソラ様と会うことすらできていないのだから。


 でもそれが良い気がする。


「そうですね。せっかく出会ったのですし、青空さんやリリニアさんとも仲良くなりたいです」


「村の住人がこれから増えて、村もにぎやかになって、色々な人とも会えるようにあるかもしれないけど、この出会いも奇跡だからさ」


 柊くんと青空くんの話を聞いて、考える。


 2人と出会って関わりがあって。それさえできたらいいのではないか? 


 ソラ様の婚約者としてではなくて、リリニアとして。幸せをこの状況で探していけばいいのじゃないかな?

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