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皎天 弐  作者: うちょん
11/11

おまけ② 【糸】

 「・・・・・・」

 「康史、どうしたんださっきから。ずーーーーっと携帯眺めて。・・・もしかして彼女か!?お前いつの間にか彼女が出来たのか!?なんで俺に紹介してくれねえの!?」

 「吾朗五月蠅い」

 「縁お兄ちゃん!お腹空いたよ!!」

 「兄妹そろって五月蠅いぞ」

 「縁は気にならねえの?こいつずーーーーっとずーーーーーーっと携帯ばっかなの。全然俺と話してくれねえの。寂しいじゃん。なんで?なんでこんな近くにいるのに携帯ばっかり見てるわけ?最近の若い子はみんなこうなの?俺泣いちゃうよ?」

 「勝手に泣いてろ」

 「ひっど!アクル聞いたか!」

 「おやつ作ってほしい。ホットケーキ食べたああああああああああいいいいい!!!!!」

 「うるせえぞ、黙らせろ」

 「アクル、今のはさすがに五月蠅いぞ。静かにしろ。じゃねえと縁がホットケーキ作ってくれねえぞ」

 「わかった!」

 「静かにしたところで俺は作らないからな。一番暇そうなお前らが作れ」

 「え、お前らってのは俺も入ってるわけ?」

 「お兄ちゃん暇だもんね」

 「アクル、兄ちゃんは暇なんじゃないからな。時間を楽しんでいるだけだ」

 「で、康史は何してるんだ」

 「縁も知らねぇんじゃねえか」

 ふと、ついさっきまで本を読んでいた縁は、目線を動かすこともなく、携帯をじっと見ている康史に話しかける。

 康史はふと顔をあげると、なんとも言えない微妙な顔つき、と言ってしまうとすごく失礼かもしれないが、正直に伝えるとそういう顔だ。

 困っているような、ぽかんとしているような、そんな顔をしていた康史は、縁や吾朗に対して携帯の画面を見せる。

 吾朗は画面をしっかり見ようと顔をぐいっと前に出してきて、縁はその後ろで見ようとする素振りひとつ見せずに康史の方に視線だけを向ける。

 「なんだぁ?昌史から?なんて?」

 「なんかよくわかんないけど、身代わりになってくれって連絡が来た」

 「身代わりィ!?なんで?誰の?てか身代わりって不吉だなおい!!!」

 「見せてみろ」

 メールの内容を見て吾朗がやんやと言っているとき、縁が冷静に康史に携帯を渡すようにと手を差し出す。

 康史は抵抗なく縁に自分の携帯を手渡すと、今度は縁の方に体を傾けて画面を見る吾朗は傍から見ると滑稽だ。

 「・・・・・・」

 「昌史から協力要請なんて珍しいな。つか初めてじゃね?」

 「誰?お兄ちゃんお友達?」

 「おー、そうだ。お友達だ」

 なんだろうと、これまで話に入れなかったアクルが吾朗に近づいてくる。

 アクルの頭を撫でながら吾朗が答えるも、アクルはすぐに縁の方へ行ってしまい、吾朗は行き場のなくなった手をしばらく空中で留めた。

 「で、昌史なんだって?」




 「あいつは文章が雑だ。短絡的すぎる」

 そう言って、康史から受け取った携帯を本人に返す。

 「でも理解できたんだろ?」

 にっ、と笑いながら吾朗が縁に聞けば、縁はため息を吐く。

 「おそらく、崎守の身代わりになってほしんだろう」

 「なんで瑞希?」

 「多分今あいつらは自由に連絡が取れる状況じゃない。連絡が取れなくなる前に最低限の依頼だけしてきたんだろう」

 「それが瑞希の身代わりってこと?」

 「そうだ。相裏はあの性格だ。身代わりは難しい」

 「いや、瑞希だって変わってるぜ」

 「だとしても、相裏よりあまり話さない分、”なりすまし”という点ではやりやすいだろうな」

 「でも縁でもよくね?」

 「・・・それは、康史のパラサイトの方が都合がいいのと、崎守が俺たちと合流した場合、まとめる役目がいないからだろう」

 「俺がいるだろ!」

 「アクルもいるよ!」

 「だからだ」

 えっへん!と効果音がつきそうな吾朗とアクルの態度に、縁はまたため息を吐く。

 「昌史と瑞希は大丈夫なのか?」

 ふざけた空気から一遍、吾朗は真面目そうに言う。

 「これからどうなるかはわからないがな。吾朗、お前の出番もあるかもしれないな」

 「え、なになに」

 「相裏が俺たちに連絡をしてくるということは、きっと紫崎たちも自由に動けないんだ。てことは、当然健も目立つ行動は控えるようになる」

 「・・・・・・」

 「わからないのか、そんな髪色してるくせに」

 「今髪色関係ある!?縁今日おかしいぞ!いつもはそんないじり方してこねえぞ!」

 「お前、炉端たちに色々教わったって言ってただろ」

 「・・・ああ!そう!俺教わった!炉端ズに教わった!」

 「お前のいつもは役に立たない人との繫がりというやつがやっと役に立つな」

 「言い方な。縁の悪いとこだからちゃんと直せよ。俺だから怒ったり罵ったりイラついたりしねぇけど。文句言う奴は言うからな。縁のこと嫌いになる奴もいるから気をつけろよ」

 「別に嫌われてもいいが」

 「よくねぇから。俺みたいにいつか役に立つことがあるから」

 「康史」

 「嘘だろ。いいこと言ったのに」

 急に康史に声をかけた縁に、吾朗は自分の言葉がスルーされてしまった寂しさをどこにも向けることなく、アクルの頭を撫でる。

 「お前はどうする。いくら相裏からの協力要請だとしても、それを受けるかどうかはお前次第だ。無理に受ける必要はない。ここから先はきっと、命に関わることだからな。なんなら俺や吾朗が変わりに行ってもいい」

 「・・・・・・」

 縁だけでなく、吾朗も康史を見ていつものように笑っている。

 吾朗は康史に近づくと、康史は座っているソファのひじ掛け部分に座り、康史の頭をニット帽の上からかき乱す。

 「別に断ったからって恨まれるわけじゃねえし、俺たちの誰かが責めるわけでもねえ。お前がしたいようにすればいい。昌史だって無理強いするような奴じゃねえし」

 「そもそもあいつは自分の都合で連絡をしてくる。詳細もなしにそんな文面ひとつで命を懸けるのは誰だって嫌だろう」

 「それが昌史だろ」

 ケタケタと笑いながら話す吾朗。

 縁は先ほどまで読んでいた本を再び手にすると、しおりを挟んで完全に閉じる。

 「相手は権力。下手したらそれ以上だ。あいつらでなんとかならない相手は、まず話しは通じない」




 「だから武力で対抗ってことか?」

 「あいつだって馬鹿じゃない。真っ向勝負しようとは考えていないだろう」

 「ああ見えて頭いいからなぁ」

 「頭がいいというか、機転がきくんだ」

 「いいなぁ、縁に褒められて。俺なんてずっと一緒にいるのに褒められたことねえのに。褒められて伸びるタイプなのに。褒められて伸びて調子こいてミスするタイプなのに」

 「なら褒めなくていいな」

 「要するに、康史、お前は戦うためというよりも、”最悪の状況”を回避するための戦力、といったところだろう。応戦しろというわけでもないと思う」

 「それ、聞き方によっては康史に協力しろって暗に伝えてるようなもんだぞ」

 「そういうわけじゃない。ただ、判断材料のひとつとして伝えている」

 「最悪の状況って、捕まるとかってこと?」

 縁と吾朗の会話に、康史は久しぶりに入る。

 その康史の質問に対し、吾朗は少し迷ったようにしていたが、縁は躊躇なくこう答える。

 「あいつらが始末される、ということだ」

 オブラートに包むこともなく発せられた縁の言葉に、康史は思っていたものとは少し違っていたためか、驚いたように目を見開いた。

 すぐさま吾朗がフォローに入る。

 「縁、直球過ぎ。まあ、かなり最悪な状況になったら、ってことだけどな。あいつらだって何回も死線を潜り抜けてきたんだ。そんな状況、ほぼ起こらないと思っていいぞ」

 だが、縁が吾朗のフォローを否定するように続ける。

 「あいつがそんな生ぬるい状況で俺たちに連絡してくると思うのか」

 「いや、それはそうだけど」

 「・・・・・・」

 余程状況的には悪いのだろうと察知は出来た。

 連絡先はなぜか知っているものの、ちゃんと連絡するのは最初に挨拶したときくらいのもので、それ以来の連絡だった。

 「あいつが”最悪”と感じているなら、相当悪い状況ということだ。それに、崎守には何か別行動でやってほしいことがあるんだろう。つまり、時間稼ぎが一番の目的だ」

 「時間稼ぎ・・・。って、なにすんの」

 「俺が知るか。あいつの思考なんて読めないからな」

 「縁の推測?」

 「ああ。だから信じなくてもいい」

 「あー、そういう言い方する。だから縁は捻くれてるって言われんだよ」

 「誰にだ」

 「昌史とかに」

 「とか?」

 「てっきり自覚があると思ってたけど。な、康史?」

 吾朗は康史に同意を求めるように声をかけるが、康史は何か考えているようだ。

 心配するように吾朗が見ていると、縁は足を組み替えて腕も組み、康史のことをじっと見据える。

 それからすぐ、康史は二人を見る。

 「俺、やるよ」




 「康史、無理しなくていいんだぞ」

 「いや、無理とかはしてない」

 「お前はどっちかってーと俺たちに巻き込まれてるんだし、瑞希にタイプが似てる縁が行ったっていいんだし」

 「俺は行かない」

 「ツンデレだから。大丈夫だから」

 「大丈夫、俺行くから。それに、一回ちゃんと会ってみたいと思ってたんだ。この”相裏昌史”って人」

 「あ、そっか。実際会ったことはねえのか。俺が連絡先勝手に教えただけだから」

 「情報漏洩甚だしいぞ」

 「ごめんちょ」

 「会って、話せるタイミングがあるかわかんないけど、どういう人かって、少しはわかると思うんだ」

 「変な奴だぞ」

 「それはわかってる」

 「可哀そうに。本人には言うなよ」

 その場の空気が少し和んだところで、康史は崎守瑞希という人物について聞いてみる。

 「二人が信頼してるなら、きっと、俺にとっても信頼できる人だと思うから」

 「・・・やめてえええ!!俺感動しちゃうから!そんなこと言われると感動するからな!!!」

 「五月蠅い」

 吾朗が自分の顔を両手で覆いなにやら叫んでいると、縁は低い声で吾朗に対して舌打ちをしながら文句を言う。

 少し拗ねた素振りを見せた吾朗だったが、アクルが近づいてきたためすぐにいつものように微笑みを見せる。

 「何かあっても俺たちはすぐに行けないぞ。わかってるな」

 「うん。大丈夫。何かあったらなんとかするから」

 「お前の力ならなんとでもなるのは知ってるけど。状況が状況だからな」

 「何もないことを祈るが、何かあったら幾らでも寄生を出せ。自己防衛に使え」

 「うん。わかった」




 崎守とトイレでうまく入れ替わったあと、男たちの監視の目を逃れるために下を向いたり体調悪そうにしていた。

 そしてある夜、相裏昌史という男にこんなことを言われた。

 「瑞希の代わりありがとな」

 「え」

 「何かあったらお前は一人で逃げろ。あとは俺が一人でやっから」

 「でも」

 「瑞希と合流してやってほしいことがある。こっからはあいつが頼りだ。あいつのこと守ってやってくれ」

 「・・・・・・」

 「それと、縁と吾朗によろしく伝えておいてくれ」

 「・・・・・・」

 黙り込んでしまった康史に、相裏はなんだろうと首を傾げる。

 うーん、と軽く何か考えるような素振りを見せた康史は、崎守と似たようなテンションでこう言った。

 「俺、そういうのあんまり得意じゃないんで、自分で伝えてもらっていいですか」

 「・・・・・・ぷっ」

 「え」

 「はははははははは!!!話には聞いてたけど、お前、うん、そのままでいろよ」

 いきなり笑い出した相裏に驚いた康史だったが、相裏はにっ、と口角をあげて微笑んだ。

 それは縁とも吾朗とも異なる笑み。

 自信に満ちているような、何も恐れるものなどないような、それでいて尊いような。

 表現するのは難しいが、とにかく、康史はこれまでの人生でこのような笑みを見たことはほとんどないだろう。

 相裏は真っ直ぐ康史を見る。


 「頼んだぜ、康史」



 いつものように明日を迎えるんだ。

 でもそれは当たり前じゃなかった。

 そんなことを今更知った。

 いつものように、それが何より贅沢な望みであるのだと。

 

 「俺たちの合言葉はな」


 いつだって、誰だって、誰かのために呼吸をしているはずだと。


 「『寂滅為楽』、最期まで笑って生きてやんだよ」


 そんな笑顔のために、俺も生きたいと。








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