追放者酒場⑤
「そろそろ俺の出番じゃないのか。おん?聞きたいか俺の不幸話を!だったらハンカチの準備をしとけよ飲んだくれ共」
「おいおい俺らがそんな上品なもん持ってるように見えるか?」
嗚呼、そんな風には見えないとも。
昼間から酒を飲んで顔を真っ赤にした野郎どもだ。
そんなしっかりした奴はこんなところにはいないだろう。
「だったらシスターのブラで拭けばいい!どうせ今日もその辺にほっぽり散らかしてるからな!」
「おっそりゃいいねぇ」
机の端にかかっているでかい布はシスターの下着だ。
脱ぐ時の仕草があまりにも自然で見逃している者もいたが、俺は見逃さなかった。
というより勝手に視線誘導されたので見えていた。
ともあれ、俺の話もみんなに聞いてもらうことにする。
「……俺はなこれでもさっきまではA級冒険者パーティー、黄金の祝福にいたんだ。イケメンで女にモテて付与魔法と剣術を極めた天才でな。ユニークスキルは大陸一嫌われているこの都市のダンジョンにうってつけ、毒や腐食なんかのデバフをほとんど完全に無効化して、アンデッドを弱体化までしちまう最高の冒険者が俺!の親友で幼馴染のアークだ」
お前じゃないんかい、とツッコミを貰った所で乾いた口を湿らせるために一口酒を呑む。
「そんな俺とアークにはもう一人幼馴染がいて、そいつもまた凄えんだ。回復魔法の効果は通常より高くて、パーティーにいるだけで自然治癒力もバリバリ上がって、味方は常に万全の状態で戦える。俺以外はな!」
お前は違うんかーい、と再びツッコミを貰ったお陰か、辛い気持ちもどんどん吐き出せた。
「見てくれよこの鍛えた筋肉を。十年前、冒険者になった時よりもさらに前から始めていた筋トレ効果でここまで磨き抜かれたんだ。遠征前は酒も飲まず夜は早く寝て食事も栄養のあるものをよく食べてだな。でも俺のユニークスキルは味方と違ってとにかく弱い。この都市最弱と言っていい。味方のバフもヒールも受け付けねえんだからな。何も無いよりタチが悪い。だからそれを補おうとこの肉体一つで頑張ったけどここが限界だった。Aランクまでが俺の限界さ。このままいけばどこかで絶対死ぬって思ったさ、自分が一番よくわかる。それに味方にも言われたからな死ぬ前に引退しろって。だから引退することにしたんだ。それは自分で決めたことだから文句はねえ。後から入った魔法職で年下の女の子に足手纏いってハッキリ言われたのも仕方が無いと思ってる。でもそれは事実だからいい!でもだ!幼馴染の二人がこっそりデキてて、赤ちゃん孕んだからパーティーも解散するってのはなんだ!いや、聞いてないわ!ずっと三人一緒に……い゛っ゛し゛ょ゛に゛や゛っ゛て゛た゛の゛に゛よ゛ぉ゛お゛お゛お゛」
「誰よりも努力した哀れな寝取られ男に」
「ユニークスキルを除けば最強の冒険者に」
「規則正しい生活をやめて今日から不摂生に」
「「「乾杯!!!」」」
中身が飛び出るほど強く乾杯して、全員で一気に酒を呑む。
ふと、今まで自分で一人で抱えてきた重荷が降りたような気がした。
何でもかんでも抱え込むのが辛かった。
でもそれを吐き出せて気分は最高。
全身に酒も染み渡り、クラクラと目が回る。
……何かがおかしい。
そんなことをふと思った。
ダンジョンから戻ってきた時だけみんなで酒場で行く時も、俺はこんなに酔ったことがない。
いや、いつもは誰も酔っ払わなかった。
みんな酒に強いと思っていたが、どうやらそれは違うのか?
それともペースが早いからか。
わからない。
でも何となくいつもより体全体に力が漲っているような気がした。
これならどんなモンスターでも倒せるような気さえする。
「いや、流石に気のせいだよな……」
そう思ってもう一度グラスを傾ける。
そのまま平衡感覚を失い、俺は椅子から転げ落ちた。
そこまでは覚えている。
その後の記憶はほとんど定かではなかった。
種族:ゾンビ
性別:不明
職業:無し
LV.5〜10
体力:100
魔力:0
攻撃:150
防御:50
敏捷:50
死後朽ちた肉体だけが残り徘徊する肉の塊
生きとし生けるものを憎み襲う
知性は失われており本能のまま動く